コ2【kotsu】特別インタビュー 韓競辰導師に訊く「力」と「勁」 第三回(最終回)

| コ2【kotsu】編集部

 

コ2 先ほどの先生のお話では「自然との距離はあるんだよ」ということでしたが、根本的にそもそも誰もが自然の一部であるというお話だったので、そこに気がつけばその距離をなくせるということでしょうか。

 それが私たちが現代人が努めるべき方向性です。まず我々の自然本来の姿についてですが、ここへ帰るために何かを創造して作り出す必要は全くありません。ただ戻って行く過程があるだけです。なくしてしまった自分の本来の姿を取り戻すだけ。その過程の道には良いも悪いもなく、最終的に自分自身が本来どういう姿であったかを発見するだけなのです。本来、私たちが何かを作り出す必要は全くありません。もともとの自分の存在があり、なくしていたものを取り戻すだけです。

(茶碗を取る動作をして)この方向(茶碗とは違う方向)は全然違いますね? そうした動作をどんどん増やして技術化、方法化してしまっては、自然の本質を掴み理解する方向には向かいません。この本質から外れ、方法を益々増やし何かを掴もうとする方向というのが、現代人の社会全体が抱えている問題とも密接に繋がっています。本来なら一番簡単なはずの近くにあるものを取るということを、どんどん難しくしてしまっている。それが現代人の多くが抱えている問題であり、それ故に今の社会の中で多く方が問題と疑問を感じているのではないでしょうか。

講座を見学にいらした甲野先生と。

 

コ2 少し違った質問なのですが、自然の中には恐怖というものがあると思います。例えば今日の講習会の稽古では相手を捌く際に「枝をかき分けるようにしなさい」と、相手に対する恐怖からではなく、相対する方法を指導されていました。

しかし、この恐怖という感情もまた自然の一部だと思うのですが、韓氏意拳ではこれはをどういう風に処理されているのでしょうか。

 まず、皆は気づいてないかも知れませんが実は自然の万物に対して怖れる気持ちを皆が持っています。どうして、そういう怖さや恐怖が生じ、その恐怖を解消したいと言った気持ちが生じるかというと、私たちの自然に対する定義、考え方に問題があるからです。

今の社会の中で自然を好む人たちの間では「自然は美しい」「自然は素晴らしい」「自然は人に好まれるべき対象である」「自然の中で生きたい」という観念が共有されて来ています。どちらかというと自然は私たちに取って良いことであるという風に捉えています。

コ2 はい。

 ですが其処には大きな誤解があります。自然の中では弱肉強食の世界があったり、火山が噴火したり、地震、台風が起きたりと色々な災害があります。それらの体験を全て美しいと言えるでしょうか?つまり人間側の自然に対する定義や捉え方に問題があるわけです。

私たちは概念上の自然を美化して素晴らしいと自分に都合のいい部分だけを強調し、いいとこ取りをし、自然の美しくないところは見ないようにしようとする。自然の中で暮らすことは素晴らしいという風に言いますが、山の中に一人で行って3日間ほと滞在してみたらどうでしょう? 大草原でも同じことで、決して美しいことばかりではありません。ですがほとんどの場合、多くの人は自然を観念的に捉えています。これは「勁」や「道(ダオ)」についても言えることでしょう。

多くの場合「勁」にしろ、「道(ダオ)」にしろ、それから自然にしろ、観念化して捉え、そのことについて考えているわけです。その観念化した自然とは逆にその真実の中身、内容からはどんどん離れて空疎な概念になっています。

現在の中国の武術家の多くは、皆が得意になって「この勁」「あの勁」と「勁」が何かも分からず、ただそのまま空疎な概念として語っています。その「勁」というものの探求なしに、ただ概念化された「勁」について話している。私はその空虚さの元になっている歴史と文化の空白部を埋めているわけです

自然とは海や山、森林といったものではありません。それを一言で言えば「真(Zhen. シン)」ということで語られます。これが一番、古い古典的な自然の表現です。山とか大草原であるとか美しいものであるといった定義はありません。美しいとか、美しくないとか、正しいとか間違っているといった区別は本来ありません

私たちは起きている現象を勝手に切り分けて美しい、醜い、恐い、楽しい、正しい、間違いだと言いますが、それは私たちの方が勝手に個人の経験からそう思っているだけで、本来の自然というのはそうした切り分けができるものではないということです。韓氏意拳はそういう自然に拳をもって帰ろうとしているわけです。

コ2 まるごと全てが自然ということですね。

 そうです。すべて真(Zhen、シン)、真(まこと)である。自然というのは、もともと真という意味です。今、自分はこれに関して文章も実はまとめようとしてるところです。受け継ぐ者として語っていく必要が私にはあるからです。今回そうした部分に焦点を当ててもらえるて嬉しいです。この部分こそ今の人たちは必要だと私は感じています。

コ2 貴重なお話をありがとうございました。

 こちらこそ、たくさん喋ってしまいました。ありがとうございました。

光岡 ありがとうございました。

(第三回 最終回)

 

2017年韓老師

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–Profile–

国際韓氏意拳総会会長 韓氏意拳創始人 韓競辰導師
韓星橋先師の四男で、きわめて明晰な拳学理論と、卓越した実力の持ち主。現在韓家に伝わる意拳の指導に力を注ぎ、意拳の更なる進歩発展のために努められている。
国際韓氏意拳総会会長。(日本韓氏意拳学会 Web Siteより)

Web site 日本韓氏意拳学会