連載 タッチの力13 森本義朗・後編「リハビリテーションと“触れ方”」

| 森本義朗

日本には「タッチ=触れる、触れられる」の機会が少ない。そんな思いから、日本のタッチ研究の第一人者である山口創先生(桜美林大学教授)をはじめ、セラピストの有志が集い「日本タッチ協会」の設立を準備中です。

その一環として行われている、タッチのスペシャリストたちによるワークショップ(通称:タッチ協会山口ゼミ)の模様をお伝えしていきます。

四人目は森本義朗さん(国際統合リハビリテーション協会 会長、理学療法士)。いわゆるリハビリテーションの現場で、タッチがどのように考えられているか、また本来あるべきリハビリの姿とは。2回に分けてお届けします。

 

連載・タッチの力13

森本義朗・後編
「リハビリテーションと“触れ方”」

語り・スライド提供森本義朗/国際統合リハビリテーション協会
写真・動画コ2編集部(☆)

森本義朗さん(写真右、☆)
森本義朗さん(写真右、☆)

 

PT、OT、STがもっとも知りたいのは「触診」!?

コ2編集部(以下、コ2) 前編では、リハビリテーション(以下、リハビリ)の考え方についてお話いただきました。タッチ協会とのからみでいうと、いわゆる「リハビリ専門職」である
・理学療法士(Physical Therapist;PT)
・作業療法士(Occupational therapist;OT)
・言語聴覚士(Speech-Language-Hearing Therapist;ST)
のみなさんは、“触る”ことに対して、どのような研鑽をつんでおられるのでしょうか。
学校で“患者さんへの触れ方”について、実地で習うことってあるのですか?

森本義朗(以下、森本) 鋭い指摘ですね(笑)。
僕が会長をつとめる国際統合リハビリテーション協会(IAIR)では、PT・OT・STを対象にした講座を行っているので、彼らのニーズを知るために、彼らが何を知りたいかを調べてみると、一番にあがるのが「触診」なんです。

解剖学、運動学をベースに骨格や筋肉の構造などを学ぶカリキュラムになっているので、「広背筋はここからはじまってここにつく(筋肉の起始と停止)」「その筋肉を支配する神経は何か」という知識は、当然ですがプロです。

でも筋肉はどのようについている、その作用はこれ、ということだけ教わるので、触れる側の圧、触り方で相手に与える影響はまったくといっていいほど関係なし。

hands onの技術は普通、アロマやマッサージの資格を取得する際、何十時間実技があってはじめて資格が取得できるとおもうのですが…PT・OT・STに限っては、そういう縛りはないんです。

コ2 それは知りませんでした! PT・OT・STの方は、患者さんへの“触れ方”を学ぶ機会はないんですか?

森本 もちろん、学校のカリキュラム内ではやりますよ。でも国家試験の要件にはないんです。

実地で患者さんと係わるのは、たとえば3年制の学校ですと最終年に半年ほどかけて臨床実習を行います。“基礎実習”として1〜2週間、病院で見学をしたのち、“臨床実習”として一人か二人の症例を扱います。

その際は前編でお話しした「ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health, 国際生活機能分類)」に基づいて、いわゆるリハビリの統合と解釈をするのですが、指導役のスーパーバイザーも医学的リハビリをしてきた人たちですから、運動学、解剖学的な解釈が中心になってきます。

 

森本 たとえばここで、「転んでひざに痛みを生じた年配の方が、医師の診察後、リハビリにきた」という想定で、PTと患者さんとの対話をデモしてみましょうか。

PT「こんにちは。どうされましたか?」
患者「3日前に転んでひざを打ちまして、痛みがひかないんです」
PT「歩けますか? これまでなにか大きなケガや病気をされたことはありますか?」
(その反応をききながら、打撲部分が青いか、腫れはあるか、動けているかなどを評価)
PT「では、“ひざ”のリハビリをしていきましょう」

以上はものすごく単純化していますが…要は「ひざを打撲した」ことのみにフォーカスして、患者さんの背景を何もみていないんですね。上記の例では「3日前に転んだ」こと以外に、患者さん個人のことは何もわかってないですよね。

これは医師からの処方箋がそうだということもあります。
ひざに詳しいPTに処方箋を出せば「ひざを治してくれる」と思っている医師に対して、その信頼を受けたPTにも自負がありますから、ひたすら“ひざの専門家”としてリハビリを行う。
結果として、その患者さんが「なぜ転ぶような事態になったのか(生活環境、既往症、心理的側面)」などは考慮されない傾向にあります。

そして、リハビリをマッサージだと思っている患者さんも多いので、“ダイナミックストレッチ”という言い方にして、もむことで患者さんに満足してもらう場合もあります。
ただしその場合も、もみかた、強さなどはその人の判断にゆだねられているのが現状です(もちろん、すべてがそうなわけではありませんが)。

 

リハビリは患者さんの変化する気持ちをすくい取れるのか?

ここであらためて、WHOが定めたリハビリテーションの定義を見てみましょう。

リハビリテーションは、能力低下やその状態を改善し、障害者の社会的統合を達成するためのあらゆる手段を含んでいる。
リハビリテーションは障害者が環境に適応するための訓練を行うばかりでなく、障害者の社会的統合を促す全体として環境や社会に手を加えることも目的とする。

そして、障害者自身・家族・そして彼らの住んでいる地域社会が、リハビリテーションに関するサービスの計画と実行に関わり合わなければならない。

 

素晴らしいモデルというか定義だと思います。
ですがこうした定義だけでは、患者さんが「リハビリを受けて変化し続ける気持ちをすくいとれるのか?」というと、難しいのではとおもっています。

たとえば、リハビリ室で一生懸命平行棒につかまって歩くことができるようになった患者さんがいたとしましょう。
そうした方が「ちょっとお散歩いきましょうか」と促され、車椅子で外に出て咲き誇る桜を見た瞬間に「あ、歩かなきゃ。いえもっと歩きたい!」という気持ちになられる方、少なからずおられるとおもうんです。

見た目の機能回復(歩けなかった患者さんを1歩でも歩けるようにする)という以上に、
潜在意識というか、その人のなかにある何かを目覚めさせるのも(歩きたい! という気持ちを促す)のも、
リハビリができることだとおもっています。

もっと話を広げれば、「なぜいま、自分はここに生きている/生かされているんだろう?」という、存在の根源的な意識にまで働きかけられることが、本来のリハビリなのではないかと。
そんな思いを込めて、リハビリの概念に赤い文字で僕なりに追加してみました↓

ICF( 国際生活機能分類)に基づくリハビリの概念と、これから大切なこと
ICF( 国際生活機能分類)に基づくリハビリの概念と、これから大切なこと

 

このように、人間の全体像を見通した「統合と解釈」で、リハビリをする。携わる側がその軸をぶらすことがなく、リハビリを行う。
そのために僕が所属するIAIRでは、PT・OT・STを対象に徒手療法を中心に、臨床現場で求められるリハビリセラピストを育成しています。

 

人間を“丸ごと”みるリハビリとは

コ2 いままでいろいろお話をうかがってきたのですが、実際にどうされているか、デモをお願いできますか。

森本 患者さんの身体をフラットにみるにはまず、自分の身体を整え、気持ちを整えることがだいじなので、まずそこからやりましょうか。次にごく一例ですが、リハビリを行う際の患者さんとの対話もしてみますね。(動画「施術する側の身体の整え方」参照)

 

コ2 今日のこれまでのお話やデモをご覧になって、山口先生はどのようにお感じになられましたか。

山口創先生 そもそも論でいえば、PTの方は、医者の処方箋通りにリハビリを進めることが役割で与えられてきたと思うので、そうすると、機械的な身体観を元にした教育を受けるのは当然といえば当然で、必要な部分でもあると思うんです。

けれども実際の現場に出て、すごくギャップを感じて、PTの方一人ひとりが試行錯誤して学んでいるということは、わたしもきいたことがあります。

前にPTの方と、そのことについてさんざん議論したことがあるんです。その方は個人として「リハビリにタッチは必要である」と思っていてくれて。

ですので、タッチがあるとき/ないときで実験を組み、

タッチがあって、患者さんの心に寄り添うような動きを流してあげると、可動域も全然違う

という実験結果をだしてくれました。
医学教育だけではなくて、人間の全体性といいますか、いろいろな視点を学ぶことは、PTの方のみならず、患者さんにとっても必要なことだと思います。
それをPTの方々の教育に取り込めるのが理想ですよね。これからぜひ、そういう教育がなされると、素晴らしいですね。

森本 ありがとうございます。今日お伝えしたかったことを深くご理解いただけていること、とてもうれしいです。

今日何度もお話ししてきたことですが、PT、OT、STといったいわゆるリハビリ職種が、医学的なリハビリに特化している現状を、もっと変えていきたいとおもっているんです。

リハビリ職種の方々は、国家試験を乗り越えてきた優秀な方々ばかり、です。もっと社会で活躍できると確信しています。だからこそ、もっと触れることについて学びをやめないでほしい、そう思っています。
私が会長を務めるIAIRでは、リハビリの未来像をみすえて、すでに「触れるとは、どういうことか?」という話をしてきています。

そして、先ほど山口先生がおっしゃってくださったような、「患者さんの心に寄り添うタッチで可動域にまで影響を与える」というような実験結果も含めて、タッチを、科学的根拠をもった「学問」として学ぶ機会をつくりたいというのが、常々僕が考えていることです。

タッチ協会で講習会を開くなどして、「タッチが人にできること」をリハビリ職種の方に伝え、「触ることの価値」をもっと知っていただければ、リハビリの世界が変わるとおもっています。

そうした活動を、これからのタッチ協会に期待し、僕自身もかかわっていきたいです。


森本義朗さんに続き、次回は東福由香理さん(オーガニックエステサロンTerme Feliceオーナー)にご登場いただきます。テーマは「美をつくるタッチ」です。お楽しみに。

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–Profile–

森本義朗さん

森本 義朗(Yoshiro Morimoto
国際統合リハビリテーション協会(IAIR)会長。
平成18年より理学療法士として病院勤務。医療統計こそがリハビリテーションの繁栄につながると信じ、京都大学などで統計学を学ぶ。臨床研究を重ね新しいEvidenceの構築を目指すも、目の前の患者へのリハビリテーションが不十分なことを自覚し、臨床5年目より結果を出すことができるセラピストを目指し始める。
地域への還元を目指し、平成24年に起業し、介護サービスや地域の団体とともに予防領域のサービスを展開。平成27年より現職。生理学や運動学、解剖学はもちろん、栄養学や物理学、量子学などにも精通。心身両面からひと全体をみるセラピストとして、自身が会長であり教育機関である国際統合リハビリテーション協会でも年間のべ3000名のリハビリ国家資格保有者に教鞭もふるっている。

Web site 一般社団法人国際統合リハビリテーション協会(IAIR)