連載 本気でトラウマを解消したいあなたへ 第十一回 子どものころ、性的虐待を受けていたあなたへ後編

| 藤原ちえこ

「トラウマ」という言葉からは、何を連想されるでしょうか。震災や戦争といった“大きな出来事”の当事者が受けた“心の傷”、またはそれにともなう症状(フラッシュバック、うつなど)を思い起こす方が多いのではないでしょうか。

ですがトラウマセラピストの藤原ちえこさんは、

「トラウマ反応は、心ではなく、まずは身体で起こるもの。そして出来事の大小にも、それを直接体験したかどうかにも、必ずしも関係がないのです」

とおっしゃいます。ここでは、

  • 本当のところ、トラウマとは一体何なのか
  • トラウマからはどうすれば回復可能なのか

を、お伝えしていきます。トラウマからの回復をのぞむ、“あなた”のための連載です。

トラウマイメージ

ココロの傷は、カラダで治す

本気でトラウマを解消したいあなたへ

第十一回 子どものころ、性的虐待を受けていたあなたへ 後編

文・写真藤原ちえこ(写真提供は☆のみ)

こんにちは。トラウマセラピストの藤原ちえこです。

引き続き、あなたに宛てた個人的なお手紙を書きます。

前編で、幼少期の性的虐待はもちろん癒すことができるという話をしました。

前回の繰り返しになりますが、そのために必要不可欠だと私が考えているのは、以下の3つです。

  1. 一人でやろうとしないこと
  2. 良い専門家の助けを借りること
  3. 同じ体験をした仲間と、体験を分かち合うこと

今日は改めて、2と3について書いてみたいと思います。

 

良い専門家の助けを借りる

性的虐待の後遺症に苦しむあなたは、良い専門家からの助けが絶対に必要です。なぜなら、あなたが抱えている症状は、前回説明した通り非常に複雑なため、一人で解消することは不可能だからです。
ここでいう良い専門家とは、性的虐待の後遺症をただの心理的な問題ととらえるのではなく、身体の問題(自律神経系の調整不全)でもあるという視点を持ち、かつ、それを具体的にどうサポートすれば良いかを知っているセラピストです。

そうした知識を持つ専門家のリストはこちらにもありますので、参考にしてみてください。
http://sejapan.org/findsep/

ただ、ここのリストに掲載されている専門家はそれぞれ訓練の背景も違い、力量にも個人差があるので、全員が性的虐待のケアに精通していることを保証するものではありません。このリストに限らず、セラピストを探す時は、ホームページを見たり先方とメールや電話でやりとりしたりした時に自分が受けた印象を大切にして、自分の直感に必ず従ってください。

そして、実際にセラピストに会い始めた後も、自分が少しでも「変だな?」と思うことがあれば、それをきちんとセラピストに伝えましょう(勇気のいることですが)。
伝えても改善されない場合は、そのセラピストはあなたには向いていない可能性があります。その時はこだわらずに別のセラピストを探してみましょう。

性的虐待のサバイバーとセッションする際に、セラピストが特に心がけるべきなのは、

無理に話を聞き出さず、
非常にゆっくり行い、完全にあなたのペースに合わせること、
そしてセラピストが何かミスをした時に、それを素直に認めて謝ることだと、私は思っています。

(はい、セラピストも人間なので、もちろん間違えることがあります。特に、セラピストがいくらゆっくり進めているつもりでも、あなたの方は急かされていると感じる場合もあるでしょう。もしセラピストの言動に不満があった場合は、それを伝えることが非常に大切です。伝えた時のセラピストの対応で、そのセラピストの力量や姿勢も分かるからです)

特に、無理に話を聞かない、あなたに話させすぎないことは、非常に大切です。

私は、初めてセラピーを受けにきたクライアントさんが、子供の頃に性的虐待を受けていたと話した場合は、加害者との関係と(親なのか、先生なのか、親戚なのか、見知らぬ他人なのか……)、虐待が起きた時期については聞きますが、具体的にどんな虐待を受けたかは決して聞きません。逆にクライアントが虐待の細部を話そうとした場合は(そんなことはほとんどありませんが)、途中で話を遮ることもあります。話をしすぎることは、回復の助けにならないどころか、急激にトラウマの蓋を開けてしまうことになりかねず、かえって有害だからです。

でもそれを知らないセラピストは、ひたすらあなたから話を引き出そうとするかもしれません。

あなたはその場では話を聞いてもらえて喜んだかもしれませんが、話をしすぎたために後になってフラッシュバックが起きたり、感情の起伏が激しくなったり、死にたい気持ちが強くなったりすることもあるのです。

なので、話を聞く以外の引き出しを持っている(自律神経系の調整不全に働きかけるスキルがある)セラピストにかかることは、非常に重要です。

トラウマイメージ

ここで、あるケースをご紹介します(ご本人の許可を得ています)。

かつて私のところに6年間通っていた、素敵な女性の話です。
彼女は初めて私のセラピールームにやってきた時、こう言いました
「ここでは話をしなくていいとホームページに書いてあったから来ました」
そして、10代の頃、父親から継続的に性的虐待を受けていたと話しました。

私は、「それは本当に辛かったですね」と答えただけで、それ以上の質問は一切しませんでした。
彼女はそれからほぼ毎週のようにセラピーに通ってくれましたが、
6年間、最後まで彼女の口からは一度も、父親に具体的に何をされたかが語られることはありませんでした。
(それどころか、セラピーで父親のことを話すこと自体、ほぼ皆無でした)

なので私は今でも、彼女が受けていた虐待がどんなものなのか知りません。
セラピストが性的虐待の具体的な内容(挿入があったか、オーラルセックスか、自慰行為を強要されたかなど)について知る必要はないのです。
ストーリーを知らないことは、クライアントを、話の中身ではなく全体としてとらえる方法を知っているセラピストにとっては、全くセラピーの妨げにはならないからです。

セラピーの主役はあなたであって、セラピストではありません。
セラピストがあなたの「問題」を頭で「理解」することは、あなたの癒しには必ずしも繋がらないのです。
なので、セラピストにされて嫌な質問があれば、答える必要はないことを覚えておいてください。

 

自助グループに参加して、仲間の助けを借りる

一方で、癒しのある時点では、必ず、誰かに話を聞いてもらうというプロセスも必要になります。

性的虐待の癒しは、

話したくない時は、絶対に話さなくてもいい
でも話したい時は、話を分かち合うことも非常に大切
ただし、話しすぎるのも逆効果

という、非常に微妙なパラドックスに満ちているからです。

自分の体験を言葉にして、世の中に伝える……というのは、サバイバーの癒しとエンパワメントには欠かせないプロセスです。
(ゆえに私は、昨今の#me too#ムーブメントを心から喜んでいます。
性被害のサバイバーが泣き寝入りしないことは、社会全体のためにも、本人の癒しにも必要不可欠だと思うからです)

そして、あなたが一番、自分の体験を安心して言葉にできる相手は、
あなたと同じ体験をした人です。(連載9回「恥の感覚」をお読みください)

トラウマイメージ

そういう仲間たちに会えるのが、自助グループです。

NPO法人日本トラウマ・サバイバーズ・ユニオン(JUST)のウェブサイトに、自助グループについてきちんとまとめたページがあるので、ぜひこちらを読んでみてください。JUSTが主催する性的虐待サバイバーのグループの情報もあります。
https://www.just.or.jp/?page_id=2

全国の自助グループ一覧は、こちらのページにあります。
http://www.iff.co.jp/community/selfhelp.html

残念ながら、性被害に特化した自助グループの数はまだそれほど多くありません。

18歳未満の女子の4割、男子の1割が性被害に逢っているという統計もあることを考えると、本当は全国に何百箇所あっても足りないくらいですが、まだまだ性的虐待のサバイバーは沈黙を強いられ、ひっそりと苦しんでいるということだと思います。

近くに性虐待サバイバーのためのグループがなければ、まずは自助グループのリストから、自分が抱えているテーマに近そうなグループ(CoDA、アラノンAC、NACなど)を探して行ってみてください。
(この時も、どうぞ自分の感覚を大切にしてください。自分には合わなそうだと感じたら別のグループを探してみましょう)
そこで自助グループの仕組みに馴染み、助けになりそうだと思ったら、自分でグループを立ち上げるのも一つの方法です。

はい、自分で立ち上げていいのです。「自助」のためのグループなんですから。

そして、自分が立ち上げたからといって、継続しなければならないというプレッシャーを感じるのもやめましょう。自分に役に立つ間は続けて、他の人にバトンタッチしてもぜんぜん構いません。

グループは他の人のためではなく、自分のためにやるんですからね。

『子どものころに性虐待をうけた女性のためのガイド』(グループウィズネス編、明石書店)という本に、自助グループを立ち上げ、継続するためのヒントが紹介されています。それ以外にも、カウンセラーの選び方など、性的虐待を生き延びた人にとって役立つことがたくさん書かれた本です。タイトルに「女性のため」とありますが、男性のサバイバーにもきっと役立つと思います。よければどうぞ読んでみてください。

あなたが恐ろしい虐待を生き延びた本物の英雄であることを、私は知っています。
その英雄としての力を、これからはぜひ自分を癒すことに使ってみましょう。

良いセラピスト、良い仲間と出会い、良い友人やパートナーに恵まれれば、癒しは必ず起こります。

私はいつも、あなたのために祈っていますからね。

 

〜ちえこの札幌だより 011〜

Photo by Mari Eiga(☆)

前回の札幌だよりにも書きましたが、山魔女(やまじょ。私の造語です^^;)の仲間入りをさせてもらって以来、ほぼ毎週近くの山に登っています。

5月下旬には、札幌近郊にある銭函天狗岳という山まで、貴重な紅色の山芍薬を見に行ってきました。
(山芍薬は白が主流です)

この山、山頂までの距離は短いのですが、最後は急峻で、ロープづたいのコースになります。
ロープコースを抜けると一気に眺望が開け、山頂付近からは日本海と石狩平野がきれいに見えました。
山頂ではもちろん恒例のランチ。今回はメンバーの一人がその場で無農薬のアスパラを茹で、コーヒーを淹れてくれました。
お目当ての山芍薬も満開で、良い1日でした。

写真は、頂上近くでおっかなびっくり谷底を覗き込んでいる私。
遠くの山にはまだ残雪がありました。

北海道の短い夏、思いきり楽しみたいと思います。

(第11回 了)

 

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–Profile–

藤原ちえこ先生
Photo by Takashi Noguchi

藤原 ちえこ(Chieko Fujiwara

大阪大学人間科学部卒業。新聞記者を経て渡英、Emerson Collegeにてシュタイナー教育を学ぶ。その後サンフランシスコに移り、カリフォルニア統合学研究所(California Institute of Integral Studies, CIIS)にてカウンセリング心理学修士号取得。サンフランシスコの日系カウンセリングセンターや小学校、近郊のホームレス支援の非営利団体などで心理セラピストとして勤務。サンフランシスコ、ハコミ研究所(Hakomi Institute of San Francisco)にて2年間のハコミセラピーのトレーニングを修了するとともに、トラウマへの身体的アプローチであるソマティック・エクスペリエンス(Somatic Experiencing, SE)の3年間のトレーニングを修了。禅、瞑想、ヨガ、気功、ムーブメント、ボディワークなど、ベイエリアで当時アクセス可能だった数多くの癒しやスピリチュアリティのメソッドを探求したのちに、身体と心のつながりという最も基本的な真理にたどり着く。
05年2月に帰国、札幌にカウンセリングルームを開く。私立女子校のスクールカウンセラーとしても活動中。
訳書に『心と身体をつなぐトラウマ・セラピー』(雲母書房)、共著に『「ソマティック心理学への招待—身体と心のリベラルアーツを求めて』(コスモス・ライブラリー)、『トラウマセラピー・ケースブック』(星和書店)。特別養子縁組で迎えた4歳の娘の子育てを楽しむ毎日。


website:プレマカウンセリングルーム(http://premamft.com)
blog:明るい鏡~本当のわたし、そしてあなたを映し出す