日本には「タッチ=触れる、触れられる」の機会が少ない。そんな思いから、日本のタッチ研究の第一人者である山口創先生(桜美林大学教授)をはじめ、セラピストの有志が集い「日本タッチ協会」の設立を準備中です。
その一環として行われている、タッチのスペシャリストたちによるワークショップ(通称:タッチ協会山口ゼミ)の模様をお伝えしていきます。
五人目は東福由香理さん(テルメ・フェリーチェ代表)。オーガニックコスメのみを使用するエステサロンを経営する東福さんは、「“美しさ”を何に求めるかは人それぞれ。でも肌の“健やかさ”は、万人共通で必要なことなんです」とおっしゃいます。美しさとは何によって形づくられていくのか。前後編の2回に分けてお届けします。
連載・タッチの力15
東福由香理・後編
「美をつくるタッチ」
語り●東福由香理/テルメ・フェリーチェ代表
写真●コ2編集部
そこに、健やかさの美はあるか?
コ2編集部(以下、コ2) 前回に引き続き、東福由香理さんにお話をうかがいます。私は、東福さんのお話をうかがうなかで、エステに対するイメージが変わってきたのを感じています。
すごく単純に言うと「エステとは、きれいな方がさらにきれいになるために行く場所」、つまり自分にはご縁がない場所、と思ってました(笑)。
でも東福さんは「美」の基準を“健やかさ”としてとらえてますよね?
東福由香理(以下、東福) はい。エステというと外面の美、見えるところに手を入れるもの、とおもわれることも多いのですが、わたしは「健やかさの美」と、「外面的な美」とは全然別物だと考えています。
ですのでスタッフにも、「美しい肌ってどんな肌だと思う?」という問いをよく、ふるんですけど。日本人のなかでは当たり前のように「肌は白いほどいい」という美学あるので、透明感、潤い、はりがある、つやがある、シミ・しわがない、といった答えがスタッフからは戻ってきます。
たしかに、そういう「美しさ」の要素を挙げていくのもいいのですが、そのなかに「健やかさの美があるか?」という問いへの答えを忘れてはいけないとおもっています。
シミ・しわがあるのは、ダメなわけではないんです。お客様がそのこと悩んでいなければ、マイナスの要素にはなりません。では何がダメなのかといえば、シミ・しわのできかた。
なんらかの肌トラブルが起きた結果、できたシミ・しわであれば、健やかさの美からは離れていることになる。だから改善しなければ、と考えていきます。
なので「美しさは人それぞれではあるけど、健やかさからは離れてはならない」んですね。
日本人向けのコスメはあるのか?
よく「日本人だから、日本のオーガニックコスメを使った方がいいんじゃないの?」といわれることがあるんですけど、食生活や室内環境は、日本も欧米も、最近あまり変わりませんよね。ですからもともと乾燥地域である欧米のスキンケアの方が、いまの日本人には合っていたりはします。
サロンでは国産ブランドも扱っていますが、トラブルがある方に使うときはほぼ、欧米のオーガニックコスメを使うことが多いですね。ヨーロッパではオイル美容が多いので、必然的にオイルで効果をだす方法をとっています。
でも皮膚の状態によっては、楽しくしてケアして継続することが主眼になる場合もありますし。季節によって使うブランドを変えることもあります。
また、施術をしたお客様のなかから「すすめられたスキンケアを使ったら、肌が乾燥するんですけど…」というお話をいただくことがあります。いまの化粧品は高機能ですから、それで皮膚を覆うようなスキンケアをしていると本来の肌の状態に気づけなくて、乾燥を悪化させている場合があるんです。
「自分自身の油分、皮脂からでる油分こそが、一番の美容液」ということをまず、頭に入れていただきたいです。でも自分の皮脂がでないとか、エアコンが強烈に吹き付ける環境にいるとか、乾燥の原因を知って、それにどのような対処をするかを考えることが、なにより大切だとおもっています。
日本は湿度もありますから、皮膚にとっては決してわるい環境でありません。でも今の時代、空調はどこでもありますから、その影響による乾燥が肌トラブルのなかでもかなり大きい原因になります。同じ部屋のなかでも、エアコン直下の席にいるのか、窓側の席なのか。エアコンはどこにありますか? も施術の際に質問することもあります。その状況に合わせて、さらさらのオイルで十分潤うのか、保護効果が高い固形バーム状を使う方がいいのか。ライフスタイルによって、オイルの形状も硬さも変える。こうしたやりとりはとても面白いです。
オイルの気持ちよさを体験
オイルの効果を、ここでご自身の肌で確かめていただきましょうか。片手に1滴たらしますので、塗り広げてみてください。そして反対の手の、塗られていない方と比べてみてください。
(みんなの手にオイルを1プッシュ、塗り広げて感触をためしてもらう)
会場 あ、比べると違いますね。オイル塗った手ってツルツルして気持ちいい。それに皮膚がふかふかした感じになりますね。
東福 はい、水分と油分で満たされた皮膚って、触っていてもすごい気持ちいいんですよね。この状態が長く続くと、皮膚が喜んでいる感じになって、肌トラブルが出にくくなってきます。
「オイルってべとつくからいや」と苦手にされる方もいらっしゃいますが本来、油分って浸透しやすくてべとつかないのが基本なんです。なので、塗った皮膚とそうでない皮膚とを比べてもらって、「これなら使えるかな」という感触を確かめていただくのも大事だと思っています。
そしてもうひとつ、ちょっと青臭いのですが「ヘンプオイル」も塗ってみましょうか。ヘンプ、つまり麻のオイルなんですけど、植物界ナンバーワンの赤ちゃん肌になれる油と言われるほど、使い続けることで肌がぷるぷるになりやすい。
うちにはアトピーのお客様もいらっしゃるのですが、アトピーが改善した方もいます。
その方には食事もアドバイスしましたけど、もともと食事はそんなにわるいわけではなかったので、使っているスキンケアを変えていただいて、ヘンプオイルでセラミドを強化し、さらにかきこわしていた色素沈着を白くしていきました。アトピーが改善されても色素沈着に悩む方もいるので、そのお悩みにも効果を発揮してくれると考えています。
一家に1コ、オイルの常備を
肌の状態によっても違いますが、ほんの少しのオイルがあれば、皮膚の免疫がアップして肌トラブルが解決しやすくなります。
頭皮のかゆみ、フケのでやすい方も、シャンプーの前にオイルを塗ってからシャンプーすると、ふけが出にくくなったりします。
もうひとつ、シミって鼻の頭にできてないですよね?
顔の中で一番高い部分ですから、一番日焼けしますし、炎天下にいると真っ赤になることだってあります。でも、なぜか、鼻の頭にはシミができてなくて、頬などにできますよね。これって………なぜだとおもいます?
そう! 鼻の頭はご自身の皮脂の分泌量が多いので、肌トラブルから守ってくれているんです。一番の美容液は、本来ならばご自身の皮脂。どうしても部分的に出ないところが、シミ・しわになりやすくなります。わたしがお客様の肌に触れ続けて感じたのが、油分はとりすぎない、でも足りなければ補う。足りない部分をカバーしてあげるイメージで、オイルを使ってあげるのが一番効果的です。
ただし、お肌のお手入れで気をつけたいのは、大まかには同じような効果があるものでも、人によって合うものが違ってくる場合があるということです。性格的に熱が上がりやすい方、興奮状態になりやすい方には鎮静効果のあるものを、反対にあまり熱が上がらない方には手助けするような効果があるものを…とか。その方のライフスタイル、性格、生活環境をみることで、初めてできることが決まってくることはあります。
カレンドラ、カモミール、セントジョンズワートのように皮膚の鎮静効果が高い植物でも、「このお客様の性格だったら、たぶんカモミールがいいんじゃないかな…」とか、それまでのやりとりのなかから、合うものを選んでいます。
対面だからこそ、エビデンスベースだけでは決められない、施術者の感覚が頼りになる部分もあるんです。
タッチで人生、変わります!
それから、施術者する側の立場でいえば、同じアイテムを使っていても、“触れる”ときのやり方で、結果が全然違ってきます。ニキビをなんとかしたいという場合でも、毎回毎回ニキビのところに長い時間手を置けばいいわけではなくて、手に触れている時間を、どのパーツで、どのスキンケアを使っているときに、肌に触れて包み込む時間をどこにもっていくか。植物と自分の手の平の温度と、その方との皮膚のコラボを、施術者の側が組み立てていくものなんです。
わたしは、スタッフに接するなかで「人に触れることで、性格って本当に変わるんだな」ということを、しみじみ教えられました。人に触れることに携わる本人が、美しくなっていく。
それはお客様のことを思いやるようになったり、人にやさしく、静かに触れる環境を整えたり、とにかくお客様あっての仕事なので、心地よく感じていただく「場」を演出していくことすべてが、施術者自身を変えていくとおもっています。
働き始めた当初は技術重視でとんがっていた子が、相手を思いやることで、やわからかくふんわりした美しさがでるようになったりとか。「タッチで人生変わる!」って、いつも本当におもっています。
*
東福由香理さんに続き、次回は中川れい子さん(日本タッチ協会共同代表、NPO法人タッチケア支援センター理事長)にご登場いただきます。テーマは「エサレン(R)ボディワークからタッチケアへ」です。お楽しみに。
【イベント告知】
2018年08月25日(土)・26(日)に、渋谷のベルサールガーデンにて、
「第1回 ボディケアジャパン」が開催されます。
「YOGAJAPAN」と同時に開催される、世界のボディケアを学び、体験できるフェスティバル。国内随一の規模を誇り 、カラダのこと、こころのことをより深く知ることができる、いままでにない祭典です。
「第1回 ボディケアジャパン」公式サイト
東福由香理さんの紹介・申し込みページ
コ2でもおなじみの講師の方々がほかにも多数参加され、ワークショップが行われます。ふるってご参加ください!
(第15回 了)
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