コ2【kotsu】対談 小関勲×元大岩戸関「身体と心を繋ぐもの」

| コ2編集部

ヒモトレから観る 身体の可能性

対談 小関勲×元大岩戸関
「身体と心を繋ぐもの」第一回

 

 

去る2018年7月28日、東京・江戸川区堀切でヒモトレ考案者・小関勲先生と元幕内力士 大岩戸関・上林義之さんとの対談が行われた。2018年5月に土俵を下りたばかりの上林氏は故障に悩まされた現役時代に小関先生のバランストレーニングに参加、それまでの稽古スタイルを見直し、2010年には戦後最年長の36歳で幕下優勝を果たしている。

コ2ではお二人の対談の様子を数回に分けてお届けしたい。

取材・文:コ2編集部
協力:TCアカデミー

痛みで表情がなかった

※元幕内力士 大岩戸関(上林)、小関が入場~参加者に拍手で迎えていただく。

小関 先月行われた断髪式の際に、僕も声を掛けて頂いて伺って、生で録った寄せ太鼓で登場して頂きました(笑)。本日はどうぞよろしくお願いいたします。

大岩戸 よろしくお願い致します。元大岩戸の上林です(笑)。今は横須賀にある会社で仕事をしています。

小関 元幕内力士 大岩戸関、上林さんは、山形県鶴岡市出身で、たまたま僕と同郷なんですね。学生横綱で活躍されてから八角部屋に入門されて、2013年に幕内入幕、最高位は十六枚目ですね。そこから怪我をされて幕下まで下がってしまって、その怪我がなかなか治らずに2014年の冬ですかね、私のバランス東京講習会に参加くださったのがキッカケです。「なんか大きな人がいるな」と思っていたら、当時の大岩戸さんが座っていらして、鬢付け油の匂いがなんとも新鮮だったのを覚えています。色々お話しを聞いたら腰を痛めているということでしたね。

大岩戸 椎間板ヘルニアと分離すべり症の二つですね。ありがたくないセットですね(笑)。

小関 どの位酷かったんですか?

大岩戸 ずっと立っていられないんですね。30秒くらい立っていると、もうどこかに掴まらないと姿勢が保てない。あとトイレが我慢できないんですね、腰に力が入らないので。寝ても痛いし、何をやっても駄目な感じで。だから相撲どころじゃなくて生活すらまともにできないような状態でした。逆に小関先生から見た感じはどうでしたか?

小関 顔が真っ青でしたね(笑)

大岩戸 表情がなかったと思うんです。笑うのが痛かったので。怒ることも笑うこともできないで、なんとなく時間を過ごすだけでした。

小関 僕のバランス講座に来て頂いているときは、もう自分でできることはやり尽くした後だったので、年齢的にも当時33才。お相撲さんの業界ではもうベテランになってきているんですね。だから「引退」という二文字ももう見え隠れしているような感じで。当然僕の講座に来てもらう前も色々されていたと思うのですが……。

大岩戸 色々行きました。人伝えに良い病院や治療院があると聞けば行くんですけど、すぐに戻ってしまう。神経に直接注射を打つと30分くらいは麻酔が効いているので動けるんですけど、それだけで。手の施しようがない感じでしたね。

断髪式の様子。鋏を入れているのは元WBA世界ミドル級王者・村田諒太選手。

 

バランスボードにスッと立てた

小関 そんな時に来てくれたんですけど。僕の講座は大きくは「バランス」ということで、バランスを整えることで前提となる体を作っていきましょう、見つけていきましょうということがコンセプトなんですね。最初に会ったときは、普通に立ち話ができない感じで、気づくと両膝に手を当ててて立っていたのが印象的でした。講座を進めていく中で、僕が開発した「ココロのバランスボード」に乗ったら、スッと立てたんですね。あ、ちなみに、このバランスボードは直接カラダに働きかけるように考えたもので、今のヒモトレの原型になったものです。当時の大岩戸関の何か霧がかった表情が晴れたのは今でも覚えています。

大岩戸 立てただけじゃなくて気持ちが軽くなったんですね。別に薬が塗ってあるわけじゃないのに(笑)。今思えば体のバランスが整った状態だったから、気持ちも整ったんだと思います。体あってのハートだな、と思いました。その感覚というのは今でも忘れられないですね。水を得た魚のような、生き返ったような感じですね。

小関 大岩戸さんのコメントはいつも繊細なんですね。「乗った瞬間に気持ちが落ち着きます」とか、色々な感想をメールでくれて。僕も相撲の業界は詳しくなかったのですけど、よく聞くと物凄く大変な世界で、年間の6場所に加えて、春夏秋冬の巡業やイベント。真剣勝負をする人でしたら、ありえないスケジュールです。きっと殆どのお相撲さんがこなすだけで目一杯になるし、そんな世界で自分の体と対話したり感覚を見るというのは至難の業かもしれません。

でも、僕から見たら大岩戸さんはもともとそういう感覚がある人だったので「それを大事にするしかないんじゃないですか?」という話から始めたと思います。その時は講座が終わって「また何かあれば連絡ください」という感じで別れたと思います。それが2013年の年末だったんですけど、2014年のお正月に「あのボードに乗った感覚が忘れられません」というメールが来て(笑)。「これはすぐに送ってあげよう」とココロのバランスボードを送ったんですね。覚えていますか?

大岩戸 覚えてます。ボードが恋しくなったんですね(笑)。とにかくずっと痛かったので、ボードに乗ってなんとか解決の糸口を見つけたかったんですね。結局その後二つくらいボードは頼みました。だけど不思議なことにうちの部屋の若いお相撲さんに乗ってもらってもみんな何にも感じないんですね。「なんでなのかな?」と思って、こんな素晴らしいものを。

小関 ありがとうございます(笑)。

大岩戸 乗ったら本当に楽で、フランスにある奇跡の泉みたいですよ。

小関 (笑)

大岩戸 乗ると頭の天辺から足の指先まで繋がるというか、風通しが良くなるというか、詰まったものがスーッと通るような感じだったんです。黒部ダムが開通したような、よく分からないんですけど(笑)。

小関 (笑)そんな感じでボードを使って頂くようになったんですけど、やっぱり物凄い痛みとの戦いがあるわけで、「じゃあ体の使い方やバランスを見ましょう、変えていきましょう!」と言っても、もう痛みに持っていかれちゃうんですね。そのなかでも「何か提案できないかな」と。自分のやり方がすべてだとは思っていないので、知っている人や知識を総動員して。そのなかで出てきなのか「ファスティング(断食)」だったんです。最近は白鵬が断食をやっているとTVでも紹介されていますが、お相撲さんに断食というのはかなりあれなアイデアで……。正直引いたりしませんでしたか?

大岩戸 あり得ないですからね(笑)。正反対が基本の体を大きくしてなんぼの世界ですから。絶好調の時代だったら「できません」と断っていたと思います。逆に本当に酷い状態だったからこそ、そういうことを受け入れる「受け皿」ができていたんでしょうね。僕は今当時の自分には申し訳ないんですけど「怪我をして良かった」と言っているんです。怪我をしなければ出会えない人とも出会えたし。

 

まさかの“断食”!?

小関 「諦め」「受け入れ」と、ここ(プロジェクター)にも出ているんですけど、僕たちがメールのやり取りをしているときにも「もうこれで駄目だったら諦めよう」ということは出ていて、それがなかったら逆にもっと酷いことになっていたかも知れないですね。

で、お相撲さんって基本凄く忙しいんですよ、場所が終われば巡業があって、最初に思っていたのとは全然違って。だけど断食を勧めたときにはたまたま実家に帰るタイミングで「時間ができました」ということで、一週間くらいでしたっけ?

大岩戸 10日ですね。

小関 それが僕の知っている断食の道場で。オリンピック選手やプロスポーツ選手も身体のコンディションを整えるために来ているところです。どういう断食かというと基本は食べない代わりに野菜ジュースや酵素水を摂りながら、酵素風呂に朝晩入るというもので。

大岩戸 どうしても我慢できなかったら葡萄ジュースを飲めました。

小関 どうでしたか?

大岩戸 基本ご飯を食べられないわけじゃないですか、それで気を紛らわせようとテレビを観るんですけど、丁度その時に有名な料理研究家が亡くなられたということで「おいしゅうございます」とお話している生前のビデオがよく流れてきて(笑)。それでなくてもグルメ番組が多くて、それが一番辛かったです(笑)。でも遠いハードルを越えた先には「絶対腰は治る、治す」という気持ちで行ったんで。

小関 そういう大岩戸さんの横で僕はご飯を食べていました(笑)。

大岩戸 それも苦しかったです(笑)。

小関 修業ですね(笑)。まあそれは冗談として、そうしたことをしているなかで当時10だった痛みが3位にまで下がってきて、そのくらいになるとちょっと自分の体に対する注目度が上げられて、本格的に取り組むことができるようになりました。ただ僕が付きっきりというわけではなくて、電話やメールのやり取りをしながら月に何回か会ってお話しして、僕が提案できることで実践できることをやってもらうという感じですね。

やっぱり大岩戸さんが今までやってきたことを手放す覚悟だったので、こちらの要求も少し高くなったところありました。僕はアスリートもよく見るのですが、選手がやっているトレーニングにはあまり口出ししないようにしているんです。本人の価値観が変わって来たらそれに合わせて変えていくというスタンスで。だけど大岩戸さんの場合は「もう後ろはない」ということだったので多少詰めた話をしてやってもらいました。

そういう意味では今までやってきたことと、大分価値観を変えたというところはあったと思います。

 

現役力士の稽古

大岩戸 相撲の稽古というのは基本的にはとにかく体を痛めつけて、壊して強くするというのが主流で、自分自身もそういう考え方だったので、とにかく体に負荷を掛けて、筋肉痛を起こさせて、段々太くしていくという風にやっていたんですね。でもそれで結果的に腰を痛めてしまったわけで、「これでは駄目だ」と。改めて自分の気持ちに耳を傾けてあげていってもいいのかな、と。

相撲には四股という足を挙げる動作があるんですけど、それもいきなり足をピンと伸ばして挙げて、バンと落とすのではなく、最初は負荷を掛けないで軽く足を挙げるくらいからスタートして、徐々に足が温まってきたら徐々に強く下ろしたりと、段階を踏んで最終的にはそれまでやって来たような形にするというような感じがもてるようになりました。そうやってゆっくり始めると最終的にはキツい四股でも体全体でやっているのでそれほどキツくないし、汗も良い汗が出るんですね。そういう一つひとつの動作から変わっていったと思います。無理をしないということですね。

小関 その体全体というのはどういう感覚なんですか?

大岩戸 四股というのは足腰を鍛えるものなんですけど、それまでは支える脚しか意識していなかったんですね。その他の部分は意識していなかったわけです。それが頭や挙げる方の足にまで意識がいっていると上半身も張ってくるんですね。それは腕立て伏せもそうで、なにをやるにしても体全体でやろうという意識ができましたね。ここに出ている(プロジェクター画面)「局部から全体へ」と言うことですね。

小関 お相撲さんの稽古というと、四股、すり足、鉄砲という基本稽古があると思うんですけど、それ以外の現代的なトレーニングもやっているんですか?

大岩戸 今は大体みんな筋トレをやっていますね。ケトルベルやウォーターバックとか、みんな新しいものに興味を持っていて、主婦がテレビショッピングで服やアクセサリーを買うみたいに買っていますね(笑)。だけど大体ブームが過ぎると使われなくなって、部屋の端っこに置かれています。

僕の考えとしては四股は一つの運動ですけど、そのなかにバリエーションが幾つもあると思っているんです。何百種類とあると思っています。調子が悪いときには浅めに、調子が良いときには深めにということから始まって、足の置く角度、幅とか如何様にもあるので、色々なものを使って鍛えるよりはひとつの動作にどの位可能性があるのかというのを考えてやっていました。そうすると凄く楽しくなってきて毎日やれるというか、それまでの痛めつけてなんぼのときとは違って。そういう稽古だと三日持たないですから。

小関 最初にやり取りしているときには「研究とか何かを感じて(稽古を)やると怒られるんです」と言ってましたなね(笑)。ただやっぱりみんなとやっていることなんで、「そこは上手くやらないといけないですよ」とお話しながらでしたね。ただ根本的には大岩戸さんは繊細でセンスが良いので昔ながらの稽古の意味とかを徐々に自分で気づいて感じて、それから稽古ができるようになったんじゃないかな。

印象に残っているのは、筋トレを止めてもらった後ですね。これは筋トレが悪いという意味ではなくて、局部に負荷を掛けてしまうと、また元に戻ってしまうので。その代わりに相撲の伝統的な稽古法に注目してもらうということで。それでも「部分に負荷を掛けない筋トレならやってもいいですか?」というメールが来ましたね。

やっぱり何十年とやってきたことなので、それから離れるというのは本人にとっても不安だし、周りはガンガンやっているわけだし、稽古でぶつかったときの感触も違ってくる部分もあるでしょうし。僕らからすれば、大岩戸さんは大きいですけど、相撲界を見回せば決して大きな方ではないで、実際に生で見ると象みたいに大きい人がぶつかり合う世界ですから、気持ちも分かるところでしたね。ただ元に戻ってしまっては意味がないので、色々やり取りをしていました。

そうしたなかで、「あ、抜け出たな」と感じた瞬間があったんです。それは「小関さん、筋トレをやっている人はみんな怪我してますね」と伝えてきたときで。それはそこから抜け出ないと言えない言葉、視点ですから、それを聞いたときに「抜けたな」と、「自分自身で自分の状態を把握できたんだな」と。

大岩戸 (大きく頷く)

小関 その後でそれまでつけていたテーピングを外したんですよ。それこそ小学校の頃からずっと使ってきたテーピングを取って。

大岩戸 ひとつは「心機一転」という願掛けでしたね。もう一つは、僕は押す相撲だったので手首を痛めやすかったんで、テーピングをしていたんですけど、巻くことによって安心しちゃうんですね。(テープがあるから大丈夫だろう)と、それに頼って手首の角度や当たり方に注意していなかったんです。分かりやすく言えば壁にもたれ掛かっているような感じで、それが怪我に繋がっていたわけです。あとは動物ではないですけど、戦う前の体で感じる緊張感、それがないと土俵に上がれないだろう、と。怪我をして休んで、断食をした一ヶ月後に土俵に上がるわけですから、それまでの経験を全部変えようと、テーピングも巻かずに上がりました。

あと遠藤という力士がいるんですけど、彼がテープを巻かないんですよ。それがテレビで誉められていたんで、「俺もちょっと外してみるか」と(笑)。

でも、仲間内でも見ている人は見ていて「お前、(テープ)巻かなくなったな」と声を掛けられましたね。でも「やる気なくなったの?」と聞かれることはありましたね。今の相撲界の常識だとテーピングは当たり前にしているもので、それがないというのは普段稽古をしていない人なんじゃないのかと思われることがあるんですね。

小関 本当にみんな巻いてますね。

大岩戸 テーピングを外して感じたのは、新鮮さであり、新しい身体でした

第一回 了


上林さん、TBSテレビの人気番組「バース・ディ」に登場!

本対談の上林さんが来たる2月16日(土曜日)17時からTBSテレビで放送の「バース・デイ」に出演することが決定しまいた。ナレーションは東山紀之さんが務め、放送では普段の仕事の様子や自宅での生活、プライベートの様子などが紹介される予定です。関東ローカルですが、ご視聴できる方はぜひご覧ください!

https://www.tbs.co.jp/birth-day/

連載を含む記事の更新情報は、メルマガFacebookでお知らせしています。
更新情報やイベント情報などのお知らせもありますので、
ぜひご登録または「いいね!」をお願いします。

–Profile–

小関 勲(Isao Koseki

ヒモトレ発案者/バランストレーナー 1973年、山形県生まれ。1999年から始めた“ボディバランスボード”の制作・販売を切っかけに多くのオリンピック選手、プロスポーツ選手に接する中で、緊張と弛緩を含む身体全体のバランスの重要さに気づき指導を開始。その身体全体を見つめた独自の指導は、多くのトップアスリートたちから厚い信頼を得て、現在は日本全国で指導、講演、講習会活動を行っている。
著書『[小関式]心とカラダのバランス・メソッド』(Gakken刊) 小関アスリートバランス研究所(Kab Labo.)代表 Marumitsu BodyBalanceBoardデザイナー
平成12〜15年度オリンピック強化委員(スタッフコーチ) 平成22〜25年度オリンピック強化委員(マネジメントスタッフ)日本体育協会認定コーチ、東海大学医学部客員研究員・共同研究者、日本韓氏意拳学会中級教練

●MARUMITSU(まるみつ)
●Kab Labo.

上林義之(Yoshiyuki Kanbayashi)元・大岩戸関

1981年5月18日生まれ。山形県東田川郡藤島町(現:鶴岡市)出身。現役時代は八角部屋に所属。2004年幕下付出デビュー、2005年には重量に昇進。以後、数度の幕下陥落を経るも2010年には36歳で幕下で初優勝を遂げる。36歳での優勝は戦後最年長記録となった。2018年引退。

最高位は東前頭16枚目(2013年3月場所)。

通算成績
通算成績:383勝393敗4休(84場所)
幕内成績:5勝10敗(1場所)
十両成績:150勝195敗(23場所)
各段優勝
幕下優勝:1回(2017年5月場所)