『中井祐樹の新バイタル柔術』出版記念
対談 中井祐樹(JBJJF会長)×浜島邦明(JBJJF事務局長)
第一回「発禁本にならないことを願うのみ!」
去る2018年10月31日、東京神保町・書泉グランデで、『中井祐樹の新バイタル柔術』出版記念対談が行われた。
今回、著者・中井祐樹の対談相手を務めていただいたのは、JBJJF(日本ブラジリアン柔術連盟)の事務局長・浜島邦明氏。奇しくも同連盟の会長である著者と事務局長の対談となった本イベントは、「発禁にならないことを願うのみ!」という中井氏の言葉から始まった。果たしてその真意は? 会長でありながら「自分は半分アンオフィシャル」と言う中井祐樹氏が本書と柔術の未来にに賭けた思いを連載でお届けする。
取材・文:コ2編集部
協力:書泉グランデ
発禁本にならないことを願うのみ!
中井 こんばんは。中井祐樹です。今回11月(2018年11月2日)に新しく『新バイタル柔術』という本を出しました。その記念イベントとしてこの対談が行われることになりまして、皆さんにご来場頂けて大変嬉しく思っています。今日は対談相手として日本ブラジリアン連盟事務局長の浜島邦明をお呼びしました。よろしくお願いいたします。
浜島 社団法人日本ブラジリアン連盟事務局長の浜島邦明です。よろしくお願いいたします。
中井 今日はまだ『新バイタル柔術』は発売直前(※イベントは発売前の10月31日に行われました)ということで、まだ世に出ていません。
内容を知っているのは受けをとってくれた人とその他ごく一部の人々のみ。それをこうしてお見せできることを嬉しく思います。ところで15年前に出した『バイタル柔術』って持っている人いますか? 見たこともない人の方が多いですよね。『バイタル柔術』は雑誌「週刊ゴング」のムック本という体裁で制作されたのですが、編集長が売れそうにないから安くしようと1000円で発売されまして。結果としてはバカ売れしたので編集長が気を良くしたということがありました(笑)。
当時が2003年。僕の道場ができたのが1997年で、正道柔術が1996年くらい。グレイシージャパンも同時期ですね。グレイシージャパンは今はアクシスという名前になりましたが、今も古参として活動している道場が出揃ってきた頃です。だから『バイタル柔術』は基本的な柔術の理論や柔術ルールを紹介するという意味合いが強い本でした。
それに対して15年ぶりに制作したのが『新バイタル柔術』です。読まれる人の中には衝撃を受ける方もいるかも知れません。私としては発禁本にならなければいいな、と願うのみでして(笑)。大丈夫ですよね?
浜島 それを僕に聞きますか?(笑) そもそも会場で柔術をやられている方ってどのくらいいるのでしょう? そうでない方にとっては私って「お前、誰だ?」って感じだと思うんです。「なに中井の隣に座ってんだよ」みたいな。
中井 (爆笑)事務局長だからじゃないですか。
浜島 改めまして私は日本ブラジリアン連盟(JBJJF)という、日本国内のブラジリアン柔術競技を統括している団体の事務局長を務めています。中井先生はそこの会長なのですが、最近の若い世代には中井会長のことを知らない人すらいまして。
中井 嬉しいんですよ。私はそういうの。
浜島 中井先生でさえ知らない人がいるのに、浜島って誰だよ、と。僕自身も中井先生を昔から見てきたいちファンで、本来なら客席側に座ってるはずの人間なんですけれども。
中井 他にも対談相手の候補はいたんですけどね。他団体の代表の方とか。ただそうすると内輪の話になって広がりが生まれない気がして。あえて『新バイタル柔術』の刊行イベントとして対談するなら浜島さんかな、と。なぜならブラジリアン柔術(以下BJJ)の競技を現場で統括するオフィシャルな立場にいるから。
私は表向きは会長なんですが、オフィシャルとアンオフィシャルな部分が半々くらいなんです。これは柔術をルールやジャンルの枠に収まらない、大きなものとして見てもらいたいという意図であえてやっているところがあるんです。だから『新バイタル柔術』にはBJJルールでの反則技も収めました。なぜならBJJルールの中の技だけでは、絶対に足りないものが出てきます。それを踏まえたうえで、自分のやってきたことを集めたらこうなった、というのがこの新しい本なんです。
でも全国のジムの先生の中には「あちゃーっ」って頭を抱えてしまう人もいるでしょう。新しく入ってきた人がここに書いてある反則技を使っちゃうこともあるでしょうから。だからそういう人たちの抗議で発禁にならないことだけを祈ってます。
浜島 (笑)
本来の「柔術」は何でもあり
中井 ただ、私はこの本に書いてあることが「普通」だと思っています。でも浜島さんの焦った表情をみるとそうでもないのかも知れない(笑)。
浜島 日本ブラジリアン連盟(JBJJF)というのは、IBJJF(国際ブラジリアン柔術連盟)ルールを日本全土に浸透させて大会を運営するための団体ですから。その会長が自らぶち壊しにきてるということですよね。本を見た瞬間に「ヒールフック? どうなってんだこの本。BJJの本じゃないのか?」と。だからそもそも「柔術」という概念からして違う。私の脳はいつの間にかIBJJFルールに支配されていたんだな、ということがよく分かりました。
(編注:ヒールフックは膝関節を壊す可能性が高いという理由でBJJの試合では重大な反則技)
中井 悪くないですよ。全然。
浜島 ただ昔ってこうだったんですよね。ブラジリアン柔術というより、グレイシー柔術と呼ばれていた頃。暴漢に襲われた時の対処法のようなセルフディフェンスも全部ひっくるめて柔術だった。それを蘇らせてくれた、というイメージが近いですね。
中井 柔術が登場した頃って「なんでもありの組み技ができる」ってワクワク感があったはずなんですよ。柔道だと寝技が制限されるし、サンボだと絞めがない。そこから徐々に相手をひっくり返すと2ポイントなどのルールが浸透したことで、競技としてまとまってきた。でもそれによって失われてしまったこともあった。そういうことを踏まえたらかなり分厚い本になってしまいました。
この15年間、実は色々なプロジェクトがあったんです。企画が立ち上がってはポシャるのを繰り返してきたので、自分には技術書運がないのかと思ったくらいだったんです。タイトルがパクりなので、「岡野(功)先生、すみません」という感じですが、最終的には名著『バイタル柔道』と同じ日貿出版社から出すことができたのでとても良かったです。
技術書ってなかなか難しいことも多いかと思います。ここ(会場の書泉グランデ)に来る前にも他の書店に寄ったんですが、(柔術の)技術書ってないんですよね。一部分を抜き出したものはあるのですが、全体像を俯瞰できるようなものが見当たらない。パスガードだけの本があっても、読める人は限られています。そういう本の印象が強い人からは「柔術に投げ技はないんですね」と言われてしまっうこともありますし。他にも「柔術の人は足関節できませんよね」とか。私が話しやすいものだから、みんな気軽に言ってくるんですよね。
浜島 ぶっとばしましょうか? そいつら。会長に何を言ってるんだと(笑)。
中井 (爆笑)いやいやいや。でもそういう人、いっぱいいますよ。別に怒ってるわけではないんですが、残念なんですよね。「本来の柔術には全部が含まれてる」って言っておきたいんです。でも禁じ手が多すぎる。
ジョシュ・バーネット君もQUINTETのルールミーティングで「中井さん、悲しいよ。制限が多すぎる」って言ってましたからね。「シュートレスリングの時代を俺は忘れてないよ」って。まあ彼は運営側の事情も全部理解した上で、あえてそう言ってるんですけど(笑)。
ただ誤解を招く表現かも知れませんが、かつての「なんでもアリ」だった時代も含めた集大成として『新バイタル柔術』を作りました。今では柔術ルールからBJJを知った人も多いですし、その中での自由さもある。投げられても終わりではなく、弱者に寄り添っているところもあるし、その一方では総合的なところもある。そういう思いを込めました。あとこの『新バイタル柔術』はDVDではなく、QRコードで動画が観られるようになってます。これは業界でも珍しいのではないですかね。動画だと普段のクラスのような語り口になっているので、その意味でも楽しめると思います。ただこの本をJBJJFで推薦するわけにもいきませんよね。ルールから外れてるから(笑)。
浜島 そうですね(笑)。
中井 ただBJJって範囲が広すぎるんですよね。だから相手をひっくり返すスイープだけで一冊作りたくなる。でもそういうわけにはいかないので、あえて総合案内的な本にしました。大丈夫ですか。浜島さん。困ってませんか?(笑)。
浜島 いえいえ。会長がそちらの道に進まれるなら、JBJJFもそちらの道に。
中井 いやいや行っちゃダメです。JBJJFはちゃんとルールを守る方向で。
浜島 私はデラヒーバジャパンという道場の代表もやってるのですが、韓国にデラヒーバコリアという支部があって、そこでデラヒーバ先生の技術本を作る手伝いをしたんです。そちらはどうしても競技柔術的な内容になってます。
中井 そっちの方が売れちゃうじゃないか(笑)。
浜島 いえいえ。ただ『新バイタル柔術』はこのボリュームで、しかも中身が流れになっている。こういう流れを表現してる技術書って、かつての『バイタル柔術』以降ないんですよね。どうしてもぶつ切りになる。僕が手伝えって言われたらたぶん、途中で投げ出してますよ。そのくらいのボリューム。それでいてクオリティが高いということにビックリしました。これは中井先生だからこそですよね。
中井 まあ、一般に寝技の写真が見づらいのもありますよね。あと「写真と写真の間がない」みたいな。
浜島 柔術は特にそうですよね。
中井 もともと『バイタル柔道』が連続で表現しているので、その系統の本だと思う人もいるかも知れない。
浜島 編集する時に、技の写真を全部一枚ずつ切り抜いてるんですよね? すっごいな。
中井 地獄の作業であったことは想像に難くない。でもやったのは私じゃないから(笑)。だからこの本は私のというより、プロジェクトチームのものという感じがありますね。
浜島 それができるのもやはり中井先生だからこそだと思うんですよね。
中井 そうかも知れませんね。この『新バイタル柔術』では技術だけでなく、自分の考えてきた指導のあり方、みたいなことも書いてます。『バイタル柔道』がそうだったように、所見があってやコラムなども色々あって、自分の考えをふんだんに入れてあるので、読んでアゴを外すもよし(笑)
(第一回 了)
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『新バイタル柔術』重版出来記念セミナー開催!
2018年11月の発売以来、ご好評をいただいている『中井祐樹の新バイタル柔術』は、お陰様で2019年1月に重版出来となりました。これを記念して来たる4月28日(日)に東京・文京区で記念セミナーが開催されることになりました。柔術・格闘技経験者はもちろん、柔術未経験者も手ぶらで参加、「レジェンド・中井祐樹」に触れられるこの機会をお見逃しなく!
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