『中井祐樹の新バイタル柔術』出版記念
対談 中井祐樹(JBJJF会長)×浜島邦明(JBJJF事務局長)
第二回「中井祐樹の本音」
去る2018年10月31日、東京神保町・書泉グランデで、『中井祐樹の新バイタル柔術』出版記念対談が行われた。
今回、著者・中井祐樹の対談相手を務めていただいたのは、JBJJF(日本ブラジリアン柔術連盟)の事務局長・浜島邦明氏。奇しくも同連盟の会長である著者と事務局長の対談となった本イベントは、「発禁にならないことを願うのみ!」という中井氏の言葉から始まった。果たしてその真意は? 会長でありながら「自分は半分アンオフィシャル」と言う中井祐樹氏が本書と柔術の未来にに賭けた思いを連載でお届けする。
取材・文:コ2編集部
協力:書泉グランデ
中井祐樹の「本音」
浜島 ここに書いてあることは、本音として受け取って良いんですか?
中井 ええ。完全に本音です。
浜島 僕自身、バーリ・トゥードジャパン95でゴルドーと戦っているのを見て中井先生のファンになって、BJJを始めるに至りました。それ以来、今に至るまで何度もお話する機会があるんですけど、何が本音かよく分からないんですよ。ファン目線がフィルターになってるかも知れませんが。なので「これが本音です」と言われたら、そう思うしかない。
中井 分かってるじゃないですか(笑)。 私はエンセン井上に柔術を習い始めてから、習うのが半分、創るのが半分だと思ってるんです。この本にも書いたんですが、私は教わった人から帯をもらったわけではありません。その意味では私自身、壮大なインチキみたいな存在なんです。
浜島 いやいや(笑)
中井 でもそういうことになるんですよ。白帯で試合に出ようとしたら、「青にしろ」とヘウソン・グレイシーに突っぱねられて、青帯をもらった。
浜島 ぶっちぎりで優勝されてましたよね。
中井 ええ、まあ。で、翌年にパンアメリカンには紫で出場して勝って、その翌年にも紫でパンアメリカンに出場しました。
浜島 その前にムンジアル(世界選手権)にも出てますよね。
中井 ええ。それも紫帯ですね。ムンジアルでは勝てませんでしたが、2度めのパンアメリカンでも優勝しまして。それで「次はどうしたら良いですか?」と聞いたら、「茶帯にする」という返事が連盟から来ました。それで茶帯でも優勝して。その次の年は優勝できなかったんですが、99年の世界選手権に出る時にもう一度問い合わせたら、黒帯ということになった。振り返ると完全に脅しですよね(笑)
浜島 事前に問い合わせてたんですね。
中井 ええ。「前の年に優勝してるんですけどどうしたら良いですか」ってIBJJFに。すると毎回、次の帯を許される。
浜島 ほー。
中井 だから名目上は青と紫はヘウソン・グレイシー、茶と黒はカーロス・グレイシー.Jrにもらったことになる。どちらからも一度も習ったことないのに、完全にグレイシー一派に取り込まれてることになるんです。もともとは彼らを倒すために始めたのも関わらずですよ。帯だって「去年勝ってるけどどうする」って、迫ったからもらったようなもの。完全に脅しですよ(笑)。でも流石に黒帯になった時に、「あいつに誰が黒帯を出した?」って軽い悶着があったみたいですよ。さらに97年くらいはまだ「日本人に勝たせるな」みたいな空気もあった。
浜島 ありましたよね。確かに。
中井 そうですよ。あなたも一緒に出てたじゃないですか(笑)第2回世界選手権に一緒に出てる。
浜島 パンアメリカンも世界選手権も一緒に出てるんです。体重がいまの半分くらい。70キロ切ってましたから。
中井 そうそう。その時は判定もめちゃくちゃ。本当のこと言えば紫帯の時も優勝してましたよ。だって一本勝ちしてるんですから。でもレッグロックとみなされて反則負けにさせられた(笑)まあ、良いんですけど。全然。
浜島 もう会場の雰囲気がビンビンでしたね。誰の目にも明らか。中井先生なんてパンアメリカンの時はヘウソン・グレイシーの道場にトップインストラクターぶつけられてましたから。僕はヘウソンのジムで練習してたから知ってたんです。「明らかに潰しに来てますよ」って。
中井 はいはい。ありましたね。
浜島 そしたら中井先生はその相手をひょいって普通にひっくり返して、普通に勝って、“さすが中井祐樹だ”と思いましたよ。それは今でも思い出しますね。
中井 黒帯になった時も、周りからは認められてなかったですからね。
浜島 ちょうど当時は、登録制度が厳しくなった時期でもあったんです。そんな中で、中井先生だけが飛び級みたいにポンポンと上がっていった。それでみんなが「なんで中井だけ?」って思ってたのはありますね。僕は「いやいや、上げなかったら大変なことになるよ」って思ってたんですけど。
フェイク黒帯?
中井 でもさすがに黒帯は大変でしたね。それでもブラジル選手権の黒帯の部で3位になったら、いきなり掌を返したように周囲の見る目が変わりましたよ。「どうせあいつは偽物だろう」とか言ってた人が「あいつはホンモノだ」とか言い出した。
浜島 安心しましたよ。その時は。
中井 なので私はグレイシーから帯をもらっているけど、一度も習っていない。その意味では「自称黒帯」なんですよ。IBJJFが想定するような正しいプロセスで黒帯をもらったわけではないから。全てはそこなんですよね。だからこそ私は素晴らしい成績を出していながら、帯をもらえずにいる人達に帯を出して来たんですよね。
今は「アカデミーに所属する選手にしか帯を出せない」というルールが明文化されたので、できなくなっちゃったんですけれども。確かにこのやり方が良くなかった、という意見もありますし。
浜島 僕は登録する側の人間ですんでなんとも言えません。これまでは申請用紙に中井先生のサインがあるんだけど、「この人、中井先生に習ったことあったっけ?」って思いながら通したことはありました(笑)。
中井 でもその中から色々な流れが生まれたという面もある。私自身がそうやって黒帯をもらったフェイク黒帯ですから。
だけど99年にカーロス・グレイシー・Jrからは、日本ブラジリアン柔術連盟の会長になってくれとオファーがありました。その時は断ったんです。「僕は柔術知りませんから。試合に出て勝っただけで、習ったことなんてないし。帯の出し方も知らない」って。だからできないって固辞したんです。
それでこう質問しました。「テイクダウンだけで優勝した人間が、本当の黒帯だなんて言えますか?」と。すると「黒帯だ」と。「ではレスラーがタックルだけで優勝しても黒帯なんですか?」「黒帯だ」と。「それって佐山(聡)さんと言ってること同じじゃん!」と思いましたね。そうやって結局、向こうが全部飲んだんです。
(第二回 了)
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