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「バランス」に着目し、独自の指導を行っているバランストレーナー・小関勲氏と、古伝の日本の武術を探求しつつ独自の技法を展開している武術研究者・甲野善紀氏。お二人の元には、多くのオリンピック選手やプロスポーツ選手、武道関係者に音楽家までもが、時に“駆け込み寺”として教えを請いに訪ねて来られます。
そんなお二人にこの連載では、一般的に考えられている身体に関する”常識”を覆す身体運用法や、そうした技の学び方について、お二人に語っていただきました。
十数年に渡って親交を深めてきた二人の身体研究者が考える、身体のコツの見つけ方とは?
第九回は、稽古やトレーニングの捉え方について。出来る、出来ないが非常にハッキリとした武の世界での、「今」「意識する」とは、一体何でしょう。
カラダのコツの見つけ方
第九回 今を生きる
語り●甲野善紀、小関勲
構成●平尾 文(フリーランスライター)
言葉の切なさ
小関 やはり型というか、自分の中にできあがってしまうルーティンというものは、ちゃんと自分で捉え直した方がいいと思います。型やルーティンは、いい方向に進めば、同じことをやることによって、普段見えない繊細な部分が新たに見えてきたりするんですけど、使い方を間違えると、厳しい練習やトレーニングに満足している選手のように、お守りとか保険みたいな感じになってしまう面もありますよね。
野球のイチロー選手とか、抜群のセンスを持っている選手は、そういうルーティンが筋肉増強やテクニックを磨くためのものではなく、自分のコンディションを見るための道具だったり、自分の慣れ親しんだ動きを新鮮に見るための手段だったりしますから。
コ2編集部(以下コ2) この対談のテーマでもある「身体のコツの見つけ方」ですが、それはルーティンや稽古の中身というよりも、その捉え方が大事だ、ということになるんでしょうね。
小関 そうですね。運動って、すごく主体的なものじゃないですか。主体性(思いや思考以前の本能的な)が機能しないと、どれだけ頑張ってもうまくできない。能力を発揮できないということですね。
以前、横浜F・マリノスで講習を頼まれたことがありました。ここは組織が大きいのでコーチやトレーナーだけで100人以上いるんですが、こういう大きな組織には必ず勘のいいトレーナーがいらっしゃって、講習会の後にお話すると、「トップ選手の中でも、選手になれない人と、代表になっていく人、スタメンになる人がいて、その差はどこにあるかというと、伸びて行く選手は、ある意味、僕ら指導者側の言うことをきかないんです」とおっしゃっていました。
もちろん、これは、いい意味で、ですよ。でも、なかなか選手になれないとか、ケガをしてしまう人たちは、言われたこと全部をちゃんとやろうとしてしまう。
コ2 連載第三回「コツは教えるものなのか」でも、なかなか上達しない人には真面目な人が多いという話になりましたね。真面目な人は、言われたことを100パーセント頑張ろうとするけど、それが却って、よくないと。
甲野 そういう真面目にやる人って、自分の中で確かなものが育っていないから、言われたことをただやるだけなんですよね。
小関 はい。やはり、自分の中で点と点を結びつけることを何かしないと、次の展開にはいけないと思います。
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–Profile–
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●甲野善紀(Yoshinori Kouno)
1949年東京生まれ。78年松聲館道場を設立。日本の武術を実地で研究し、それが、スポーツ、楽器演奏、介護に応用されて成果を挙げ注目され、各地で講座などを行っている。
著書に『表の体育 裏の体育』(PHP文庫)、『剣の精神誌』(ちくま学芸文庫)、『武道から武術へ』(学研パブリッシング)、『古武術に学ぶ身体操法』(岩波現代文庫)、『今までにない職業をつくる』(ミシマ社)、共著に『古武術の発見』(知恵の森文庫)、『武術&身体術』(山と渓谷社)、『「筋肉」よりも「骨」を使え!』(ディスカバー・トゥエンティーワン)など多数。
Web site: 松聲館
Twitter 甲野善紀