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「バランス」に着目し、独自の指導を行っているバランストレーナー・小関勲氏と、古伝の日本の武術を探求しつつ独自の技法を展開している武術研究者・甲野善紀氏。お二人の元には、多くのオリンピック選手やプロスポーツ選手、武道関係者に音楽家までもが、時に“駆け込み寺”として教えを請いに訪ねて来られます。
そんなお二人にこの連載では、一般的に考えられている身体に関する”常識”を覆す身体運用法や、そうした技の学び方について、お二人に語っていただきました。
十数年に渡って親交を深めてきた二人の身体研究者が考える、身体のコツの見つけ方とは?
第八回は、無意識を自覚するにはどうするかについて。その方法の一つとして、小関先生はヒモを、甲野先生はタオルを使っているそうです。
カラダのコツの見つけ方
第八回 身体も思考も居着かない
甲野善紀、小関勲
構成●平尾 文(フリーランスライター)
ヒモ一本で自覚する
小関 前回は、抜群の動きを出すためには、ピークをどこに持って行くかというお話でした。そういうピークの捉え方というか、見極めは本当に大事なことだと思います。部分ではなく、全体、そのバランスが大事だと。
例えば、野球やゴルフなどのスイング系のスポーツ選手に伝えているのが、「この構えや形が大事なのではなく、このスイングの速度が大事なのでもなくて、実際はボールがバット(クラブ)に当たった瞬間に、身体全体がどういう繫がりがあるのかということが大事です」と言っています。
そこから、その前段階、そしてその前段階がどうであるかということを俯瞰的に見て広げていくと、身体で何をしなくてはならないかが、その過程も含めて、見えてきます。
腕だけが強くても、それなりにしかボールは飛ばない。全身が繫がっていれば、力を入れずとも出力があるから軽く飛んでいく。つまり、インパクトの瞬間に、どれだけ自分の身体全体のバランスが取れているかということに注目することが、いいパフォーマンスをするためには大事なことなのですが、皆、大切なところほど、グッ、グッと力を入れて無駄に身体を固めてしまうんですね。「これってダメだよね」とアスリートの方には体感してもらいながら話しているのです。
話だけだとよく分からないと思うので……編集さん、いいですか。「ヒモトレ」(小関氏が提唱する、ヒモを身体に緩く巻くだけで、動きや姿勢が変わるというメソッド)でよく体験してもらうんですけど。
(小関氏、編集者の肩を側面から押す)
こうやって僕が編集さんを押すと、このくらいの強さだったら、何とか我慢して耐えているという感じですよね。
コ2 そうですね。踏ん張って耐えているという感じです。
小関 僕の押す力に抵抗しようと、身体をしっかり固めて、踏ん張っています。今度はこうして……
(小関氏、編集者のお腹にヒモを巻く)
この状態で、押してみると……。ヒモを巻くと、ちょっとお腹に張りが出てきますよね。内圧が高まった風船みたいな状態で。
(先ほどと同じように編集者の肩を押す)
身体を固めていないのに、安定感が全然違うのが分かります?
コ2 全然違いますね! 先ほどより、余裕で耐えられます!
小関 身体の安定感が増しているでしょ? だから、いつの間にか変に固め過ぎてしまう身体の癖というのは、どこかで自動的に(動く)準備をしてしまうんですね。この準備をさせないために、ヒモを巻いておく。昔の酒屋さんの使っていた前垂れとか柔道着の帯とか、ああいう締めることで気持ちが変わるというのも、実際に身体性が変わったからじゃないかなと思うんですね。
ヒモトレで沢山の人達のお腹にヒモを巻いてみて分かったことは、四肢と体幹の関係が随分チグハグになっている人が多いということです。つまり、腕は腕、脚は脚、体幹は体幹という風に、それぞれが勝手に機能しているんですね。
意識の上では、Aという結果からBという結果までをイメージして、ワープすることができますが、体は、その過程を歩まなくてはなりません。実際に体はワープできませんからね。
けれど、意識に追いつこう、追いつこうとするあまり、体に負荷がかかっているのかなと思います。そのギャップが四肢と体幹の分離に繋がっている。
そこに、ヒモを巻くことによって、体のズレを修正している。まあ、実際は現代人の問題か人間の問題かは分かりませんが……。
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–Profile–
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●甲野善紀(Yoshinori Kouno)
1949年東京生まれ。78年松聲館道場を設立。日本の武術を実地で研究し、それが、スポーツ、楽器演奏、介護に応用されて成果を挙げ注目され、各地で講座などを行っている。
著書に『表の体育 裏の体育』(PHP文庫)、『剣の精神誌』(ちくま学芸文庫)、『武道から武術へ』(学研パブリッシング)、『古武術に学ぶ身体操法』(岩波現代文庫)、『今までにない職業をつくる』(ミシマ社)、共著に『古武術の発見』(知恵の森文庫)、『武術&身体術』(山と渓谷社)、『「筋肉」よりも「骨」を使え!』(ディスカバー・トゥエンティーワン)など多数。
Web site: 松聲館
Twitter 甲野善紀