連載 本気でトラウマを解消したいあなたへ 第十五回(最終回) 良いセラピストとはーセラピストとの付き合い方

| 藤原ちえこ

「トラウマ」という言葉からは、何を連想されるでしょうか。震災や戦争といった“大きな出来事”の当事者が受けた“心の傷”、またはそれにともなう症状(フラッシュバック、うつなど)を思い起こす方が多いのではないでしょうか。

ですがトラウマセラピストの藤原ちえこさんは、

「トラウマ反応は、心ではなく、まずは身体で起こるもの。そして出来事の大小にも、それを直接体験したかどうかにも、必ずしも関係がないのです」

とおっしゃいます。ここでは、

  • 本当のところ、トラウマとは一体何なのか
  • トラウマからはどうすれば回復可能なのか

を、お伝えしていきます。トラウマからの回復をのぞむ、“あなた”のための連載です。

トラウマイメージ

ココロの傷は、カラダで治す

本気でトラウマを解消したいあなたへ

第十五回(最終回) 良いセラピストとはーセラピストとの付き合い方

文・写真藤原ちえこ(写真提供は☆のみ)

こんにちは。トラウマセラピストの藤原ちえこです。

この連載も、早いもので今回が最終回となりました。
気まぐれな更新ペースにおつきあいいただき、本当に感謝しています。

連載3回に、トラウマを解消するために最も大切なのは、一人でやらずに助けを求めることだと書きました。
特に、身近な人だけでなく、専門家の助けを求めることは、回復のある時点で絶対に必要になるとわたしは考えています。

連載の中で繰り返しお伝えしてきたように、トラウマ解消の鍵を握るのは身体であり、
トラウマには自律神経系の調整不全が大きく関係しているので、
自律神経系に働きかけるすべを知っているセラピストにかかるのがベストです。
その訓練を受けたセラピストのリストはこちら(http://sejapan.org/findsep/)にありますが、
もちろん、わたしが知らない同種の技法を用いるセラピストさんたちもいると思いますので、このリストに限らず、口コミも頼りにしてみてください。

そして、セラピストを選ぶ際には、自分の直感に従うのが一番です。
まずは、自分がその人にピンと来たかどうかを大切にしてください。

というのは、どの業界でもそうですが、セラピー業界でも、人気と実力が必ずしも一致しない場合もあるからです。
やはり人は、宣伝がうまいセラピストのところに集まる傾向がありますが、
たとえ宣伝下手でも、ブログやソーシャルメディアでの発信が少なくても、本当に優秀で素晴らしいセラピスト達を、わたしは何人も知っています。

なので、その人のHPを見たり、メールや電話でやりとりした時の自分の直感や、
最初にセラピーを受けた時の自分の感覚をどうぞ信じてみてください。

セラピストを選ぶ際のヒントについては、わたしのブログにもシリーズで書きましたので、よければそちらも参考にしてみてください。
http://premamft.com/blog/1652/
http://premamft.com/blog/1653/
http://premamft.com/blog/1654/
http://premamft.com/blog/1655/

その上で、シリーズ最終回は、わたしが考える良いセラピストとはどのようなセラピストか、
そしてセラピストとはどのように付き合えばいいのかについての、わたしなりの考えをみなさんにお伝えしたいと思います。

なお、ここで言うセラピストとは、ボディワーカーではなく、心理系のセラピストの意味で使っています。
これはわたしが心理の専門家であるからという理由と、
トラウマの癒しには、身体のケアはもちろん必要ですが、
癒しのある時点では、必ず心理的なサポートも必要だとわたしは考えているからです。

トラウマイメージ

 

良いセラピストとは、自分自身の癒しにきちんと取り組んできた人のこと

わたしは、良いセラピストとは、技法はもちろん大切ではありますが、それ以上に、自分自身の抱える課題にきちんと取り組んできたか否かが重要だと思っています。
セラピストが、クライアントを取り始める前にまず自分の癒しに取り組むことは、特に心理系/トラウマ系の療法を行う上では絶対に必要なことです。

なぜなら、クライアントのトラウマ解消のお手伝いは、自分自身の盲点に無自覚なままでできるほど生易しい仕事ではないからです。

例えば、あなたが性的虐待を受けた経験があるセラピストで、
同じように性的虐待を受けたクライアントがセッションに来た場合、
自分のトラウマについてきちんと自分もセラピーを受けて取り組んできていなければ、
クライアントが自分の性被害についてあなたに打ち明けるか否かにかかわらず、
クライアントとの面接中に、あなたの意識のどこかでは必ず解離が起こるでしょう。
人間はエネルギーレベルで常に様々な情報をやり取りしており、
人間の神経系は、そういう情報を正確にキャッチするようにできているからです。

また、父親(あるいは母親)との確執があるセラピストが、それについてある程度のワークをしていなければ、
同じように父(母)との確執があるクライアントが来た場合、必ず個人的な問題が頭をもたげ、
専門家としてのプレゼンスを保つのが難しくなります。

日本の大学院の中にも、教育分析という名目で一定期間セラピーを受けることを勧めているところもあるようですが、
セラピスト自身がクライアントの椅子に座ることの重要さについては、欧米ほど認識されていないように思います。
よく考えれば、これは非常におかしなことです。
自分がセラピーを受けることなしにセラピーを行うのは、
ラーメンを食べたことがない人がラーメン屋をやるようなものですから。

わたしは幸運なことに、セラピスト自身の癒しの大切さを知り尽くしている米国カリフォルニアの大学院で心理療法の訓練を受けたので、
あらゆる教授から口すっぱく「自分もセラピーを受けなさい」と言われ続け、
その前の英国在住時を含めると、一定期間以上通った心理系のセラピストだけでも10人近くの専門家からセラピーを受けてきました。
日本への帰国後も、折に触れて米国のセラピストからスカイプでの遠隔セッションを受けています。
これに、ロルフィングなどの身体系療法を合わせると、相当な数にのぼります。
自分自身の癒しに長年取り組んできたことは、わたしが専門家として誰にも負けないと自負していることのひとつです。

もちろん、いくらセラピーを受けようが、瞑想をしようが、盲点を完全にゼロにすることなどできません。
でもセラピストとして大切なのは、
自分の盲点を自覚していること、
盲点を減らそうと自分の癒しに取り組み続けていること、
そして盲点があるがゆえの自分の限界を知っていて、自分では手に負えないと判断したらクライアントを抱え込まずにきちんと別のセラピストにリファー(紹介)することだとわたしは思います。

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特に最後の点は重要です。
自分のところへこれ以上通い続けても改善が見られないと判断したら、それをオープンにしてクライアントと率直にコミュニケーションをとることは、倫理的にも非常に大切だとわたしは考えます。
セラピストは、決してクライアントを囲い込むべきではないのです。

セラピストを探す際、その人がきちんと自分の癒しに取り組んできたかどうかはなかなか外からの判断が難しいですが、
HPのプロフィールにそれが書かれているかどうかを確かめたり、
その人に自分自身がどれほどセラピーを受けた経験があるかを直接尋ねてみたりするのもいいのではないかと思います。
その質問自体を嫌がるセラピストがいたら、避けた方が無難です。
セラピスト探しの時点で、もうセラピーのプロセスは半分始まっているとも言えますから。

 

セラピストは使うものであり、依存するものではない

上述のこととも関係しますが、ここで改めて強調したいのは、
誰にでも合う万能のセラピストなどというものは、この世に存在しないということです。

やはり、セラピストも人間なので、それぞれに盲点がありますし、
あるテーマに関しては本当に素晴らしい助けになるが、別のテーマに関しては全然物足りないばかりか、かえって嫌な思いをすることになった……ということがあったとしても、全く不思議ではありません。

わたしは、セラピストを探す際に最も頼りになるのは、実際に受けたことがある人からの口コミだと思っていますが、
それでも、「行ってみて本当に良かったから」と友人が勧めてくれたセラピストがあなたに合わなかった場合、それはあなたの責任でもなんでもないのです。
単に相性が合わなかったというだけです。
そしてあなたの感覚は、あなたにとっては常に正しいのです。
なのでその場合はどうぞ、がっかりせずに別のセラピストを探してみてください。

同じ理由で、一人のセラピストにずっとかかり続けることが良いことだとは必ずしも限りません。
これはわたし自身のクライアント経験からも言えることですが、
良いセラピストを探す旅というのは、武術家や修行僧が良い師を求めて旅をするのと似ています。
セラピーを受け始めた当初は、その時の自分に必要なものを得られても、
こちらの癒しが進み、癒しのレベルが上がってくると、もっと上のレベルのセラピストからの助けが欲しくなるということは、よくあることです。
それは、武術家があるマスターの元で修行を積み、そのマスターから学べるものはすべて学んだ後で、さらに上のマスターを求めて旅を続けるのとまったく同じです。

トラウマイメージ
ある時点で、あなたが良いと思い、ワークをすることを決めたセラピストは、その時点ではあなたにとっては最良のセラピストでした。
だからあなたに役立っている間は、そのセラピストとのワークを楽しめばいいのですが、どこかの時点でしっくり来ないなと感じたら、その人に義理立てせずにどんどん別の人を探してみてください。
それは悪いことでも何でもありません。

決して、一人のセラピストに依存や固執することはしないでください。
逆に言えば、あなたが今かかっているセラピストが、自分に依存させるような介入をするセラピストだったとしたら、
そのセラピストは、プロとしては未熟だとわたしは思います。

なぜなら、セラピーの最終目的は、クライアントの自立であり、
セラピストがいないと生きていけないという状態を作り出すことではないからです。
(一定期間、頼りにするのはもちろん当然のことですが)

わたしのところには、それまでに様々なセラピストや精神科医のところを渡り歩き、
「藤原さんが最後の砦です」
「藤原さんに賭けてみようと思っています」となどと言うクライアントさんも来ますが、
特定のセラピストを最後の砦にすることは、決してしないようにしてください。

「ここが最後で、ここがダメならもうおしまい」というのは、セラピーを受けるうえでは取ってはならない態度です。
何故ならそれは、自分以外の人間に自分を100%ゆだねてしまうということだからです。
セラピーはセラピストの言うことが絶対で、それをクライアントがただ受け取るという場所ではありません。
2人で作り上げていくものです。
そして癒しの主導権は常にクライアントにあります。
セラピストは、あくまでもクライアントの癒しを助ける存在であり、
クライアントの代わりに本人を癒すことはできないのです。
(わたしのトラウマ療法の師ピーター・リヴァイン博士は、トラウマの癒しについて「あなた一人ではできないが、誰もあなたの代わりにはやってくれない」とよく言っていました)

トラウマイメージ
セラピストは、よくできた道具と同じで、使うものであり、
依存したり、全面的にそれに頼ったりするものではありません。

傘が壊れたら別の傘に取り替えるように、
ちょっとこの柄はもう好きじゃないとか、少し小さすぎるなと思ったら、別の傘に取り替えて全然大丈夫なのです。
次の傘は、前の傘よりもう少し丈夫で、もう少し大きいかもしれない。

でも傘が必要なのは、雨降りの時だけです。
豪雨だったあなたの内面世界の雲が途切れ、光が射し、
そしてついには青空が広がったら、もう傘はいらないのです。

その時が来たら、それまで自分を守ってくれていた傘をたたみ、感謝してそこに置き、
どうぞ、自分の足で軽やかに人生を歩いて行ってください。

そして、また雨が降れば、いつでも傘を取りに来てください。

わたしはそんなあなたを、心から応援しています。

長らくお読みいただき、ありがとうございました。
あなたにたくさんの幸せがありますように。

 

〜ちえこの札幌だより 015〜

写真(☆)提供:著者
写真(☆)提供:著者

12月22日は冬至でした。
札幌は北にあるので、冬至の日は特に日が短くなります。
実はわたしは、一年で冬至が一番好き。
外側の光が最も少ない時にこそ、自分の内面の光に一番つながれると思っています。
クリスマスがこの時期と重なっているのも、偶然ではない気がします。

今年の冬至も、自分の中の闇、そしてそこから生まれる光を強く感じる日となりました。
一年で一番暗いこの時期、この連載をお読みくださった一人一人の方が、
自分の内側に確かに存在する光を感じることができますように。

心からの祈りを込めて、連載を終わります。
本当にありがとうございました。

(最終回 了)

 

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–Profile–

藤原ちえこ先生
Photo by Takashi Noguchi

藤原 ちえこ(Chieko Fujiwara

大阪大学人間科学部卒業。新聞記者を経て渡英、Emerson Collegeにてシュタイナー教育を学ぶ。その後サンフランシスコに移り、カリフォルニア統合学研究所(California Institute of Integral Studies, CIIS)にてカウンセリング心理学修士号取得。サンフランシスコの日系カウンセリングセンターや小学校、近郊のホームレス支援の非営利団体などで心理セラピストとして勤務。サンフランシスコ、ハコミ研究所(Hakomi Institute of San Francisco)にて2年間のハコミセラピーのトレーニングを修了するとともに、トラウマへの身体的アプローチであるソマティック・エクスペリエンス(Somatic Experiencing, SE)の3年間のトレーニングを修了。禅、瞑想、ヨガ、気功、ムーブメント、ボディワークなど、ベイエリアで当時アクセス可能だった数多くの癒しやスピリチュアリティのメソッドを探求したのちに、身体と心のつながりという最も基本的な真理にたどり着く。
05年2月に帰国、札幌にカウンセリングルームを開く。私立女子校のスクールカウンセラーとしても活動中。
訳書に『心と身体をつなぐトラウマ・セラピー』(雲母書房)、共著に『「ソマティック心理学への招待—身体と心のリベラルアーツを求めて』(コスモス・ライブラリー)、『トラウマセラピー・ケースブック』(星和書店)。特別養子縁組で迎えた4歳の娘の子育てを楽しむ毎日。


website:プレマカウンセリングルーム(http://premamft.com)
blog:明るい鏡~本当のわたし、そしてあなたを映し出す