背中を反らせば体が変わる
超!後屈入門
第1回 みなさん、後屈は得意ですか?
文●今村泰丈
はじめまして、今村泰丈と申します。私は岩手県で「動きたくなる、合理的なカラダ作り」をコンセプトとした整体兼ヨガスタジオを経営しています。
合理的とは、
- 道理や論理にかなっているさま。「合理的な自然界の法則」。
- むだなく能率的であるさま。
と定義されていますが、カラダに不調を抱える方の多くがこの合理性を損なうことによって、身体バランスを崩し生活する中でダメージを蓄積しています。
人間の体は思いのほか頑丈にできているので、そのダメージがすぐ痛みや歪みとして現れることなく、何年も経ってから症状として認識できるということは少なくありません。
実際に、骨格が歪むにはそれなりの年月を要するでしょう。
では、このアンバランスは一体どこから始まっているのかというと、私は
「動き方から始まっている」
と考えています。
例えば、何の前触れもなく背骨が歪むなんてことはないですよね。
背骨に本来とは違う力が加わったことで歪んでいるはずです。
また、カラダの硬さも「生まれつき硬いから」とおっしゃる方が多いのですが、カラダの硬い赤ちゃんはいませんよね。
例えば爪先重心で地面をよく蹴って歩く人は足首が硬いし、前のモモが慢性的に緊張しています。
このように、カラダの不調や硬さの多くは、カラダの使い方が根本的な要因として考えられます。姿勢においても同様で「姿勢とは動きに入るためのもの」なので、動作ありきで姿勢が決まる、動作が主で姿勢が従の関係性となります。
前置きが長くなってしまいましたが、動きを整えることで、身体全体のバランスが整い、姿勢がよくなって多くの症状が改善するということです。
動物は動くことがデフォルト(初期設定)
私が整体師として「動き」に着目している理由は、運動不足による身体機能の低下が体の痛みなど数多くの不調を引き起こしている可能性が高いからです。
運動による健康効果は多岐に渡ります。血流の増加や減量効果、血糖値の上昇を抑えるといった肉体面の効能は一般的に知られているかと思います。
そのほかにも、精神面においては感情のコントロール、幸福度、集中力、記憶力、共感力、意志力、注意力、自己効力感など、運動は人間の精神活動の多くに効果を発揮します。
これは、裏を返すと「運動をしていない状況では本来の力が発揮できていない」と考えられます。運動不足によるデメリットと、運動によるメリットの数々を見ればむしろこちらの考え方の方が自然ではないでしょうか。
*正しい動き方と本来の柔軟性
せっかく新たに運動を始めたけれど、運動でカラダを痛めてしまって以来、カラダを動かすのが億劫になってしまったという話をよく伺います。原因は、カラダの使い方を間違っていたと考えられます。
間違った動きの一例として、動きをコントロールできていないことが挙げられます。
ストレッチを例に説明します。柔軟性を高めるためにストレッチをする時、あなたは何をイメージしながら行いますか?
多くの人は、ストレッチをする時に筋肉を伸ばそうと、特定の筋肉に伸びを感じながら行うと思います。しかし筋肉にはカラダを守るための防御反応があり、伸びを感知すると損傷を避けるために反射的に収縮する反応が生じます。すると、伸ばそうとする力と収縮しようとする力がお互い拮抗することとなります。結果、筋肉はさらに緊張して硬さを生み出し、防御反応を上回る力が加わるとケガをします。
では、本来の柔軟性を高めるにはどのように行えばいいのでしょうか?
答えは「伸びを感じない方向を探りながら行う」が正解です。
ただしこれは、柔軟性のために行う方法であって、疲労回復や損傷部位のリハビリとして行うストレッチは伸びを意識します。つまり、同じストレッチ動作でも目的が変われば微妙に手段が変わってくるのです。
柔軟性を得たいのであれば、伸びを感じない動き方を意識してみましょう。
*柔軟性は全体の協調性
今回は試しに肩周りの柔軟性をみていきましょう。まずは腕を挙げる動作をします。あなたはどこまで上がりましたか?
天井に向かってまっすぐ伸び、耳のラインのところまで挙がれば問題ありません。しかし、この動作にはさらに先があります。耳のラインをさらに越えて、指先が後方に向かうところまで持っていけるでしょうか。
この柔軟性は、例えばブリッジ動作をする時に必要となる動きです。
耳のラインよりも腕を後ろに持って来れない場合、肩関節を痛めることになるでしょう。
*「筋肉を伸ばそう」から「伸びを感じない方向を探る」に!
肩関節自体は、肩甲上腕関節という、上腕骨と肩甲骨で構成されるこの部分になります。
解剖学上はこの動作を肩関節の屈曲といって、180度(天井まで上がるまで)が正常範囲と定義しています。
確かに肩関節の純粋な屈曲運動では180度が最大の可動域ですが、ブリッジ動作などで求められる柔軟性はもっと先にあります。
耳のラインを超える肩の柔軟性には、肩甲骨の動きと肋骨の動きも連動させる必要があります。この連動性を無視して腕を後方に持っていこうとすれば、肩関節のオーバーストレッチとなりケガの原因となります。
動きの質を考慮するのであれば、関節1つ1つの柔軟性よりも、複数の関節が連動して動く協調性の方が重要です。むしろ、連動性が失われた結果として局所的に関節を痛め、動きが硬くなります。動きの連動性を意識し全体を動かすことで局所の硬さは改善していきます。
そして、全体性を伴う動作には「筋肉を伸ばしている感覚」はないのです。
ストレッチをする方の多くは筋肉を伸ばすことが目的ではなく、ストレッチをすることでリラックスしたり、姿勢をよくしたり、柔軟性を高めることが目的だと思います。そうであるならば、まずは動きを改善してみましょう。そのためには「筋肉を伸ばそう」から、
「伸びを感じない方向を探る」
という意識の転換が必要です。
*みなさん、後屈は得意ですか?
柔軟性といえば、あなたは何を思い浮かべるでしょうか? おそらく「前屈」か「開脚」が頭に浮かんだと思います。前屈は比較的取り組みやすい柔軟運動です。学生の体力テストでも、柔軟性の項目は長座体前屈なので馴染みの深い動作だと思います。
一方、後屈はどうでしょうか? 前屈や開脚の柔軟性を引き出す運動はYouTubeや書籍で多く紹介されていますが、後屈の仕方に焦点を当てて説明している動画や書籍はなかなかお目にかかることがありません。
前屈に比べてマイナーともいえる後屈ですが、クライアントに聞いてみると9割以上が「苦手」と答えます。そして、実際に正しい後屈を行えていたクライアントを見たことがございません。
ちなみに、正しい後屈の仕方を説明できますか? 難しいですよね。後ろに反るというシンプルな動きではありますが、意外と奥が深く、苦手意識を持ちやすい後屈ですが、実は合理的なカラダ作りにおいて、とても大切な動作になります。
*前屈や開脚よりも後屈をマスターするべき3つの理由
前述の通り、前屈や開脚は方法論が多く出回っているものの、後屈の仕方は多く知られていない現状です。ですが、私は前屈よりも後屈の方が大切であると考えています。
むしろ、正しい後屈が出来れば前屈や開脚もやりやすくなります。
後ろと前という一見相反する動きではありますが、本質的な部分では多くの共通点があるあからです。ですので、この連載では後屈について理解を深めていこうと思うのですが、先に後屈をマスターするべき理由について説明させて頂きます。
結論から言うと、
- 正しいカラダの動かし方がイメージできる。
- 機能的な柔軟性を得ることができる。
- 肩こりや腰痛の根本的な原因を解決することができる。
後屈動作の練習をすることで以上3つを体感することができます。
まず、後屈動作は背骨の動きが何よりも重要です。その他にも大切なポイントはいくつかあるのですが、それらは全て正しく背骨を使うためのポイントと言えます。
背骨はカラダの中心にある屋台骨であり、正しい背骨の動きなしに理想的な動きは困難です。そんな背骨の動きをもっとも意識しやすい動作が後屈になります。
正しい動かし方が出来ると、柔軟性も増してきます。
柔軟性には筋肉の器質的な硬さと緊張による固さの2種類の制限が影響しています。
後者の緊張による固さは間違った動きによって生じます。間違った動きは筋肉や関節に負担をかける非合理的な動きです。非合理的な動きを繰り返していると損傷してしまうので、脳みそは過剰に動かさないように筋肉を緊張させてブレーキをかけます。これがカラダの固さを生み出しています。
そのため正しい動きができると、自ずと緊張は緩和し本来の柔軟性を取り戻します。これを私は機能的な柔軟性と定義しています。
機能的柔軟性を持ったカラダは、余計な緊張がなくなり連動性のある動作が可能となります。すると、日頃負担をかけていた肩関節や腰周囲の緊張が取れるため、肩こりや腰痛の改善に繋がるのです。
このように、後屈をマスターすることはあなたの体に多くの恩恵をもたらします。
1つ1つポイントを押さえながら、着実にステップアップしていきましょう。そして、楽に動けるカラダを手に入れてぜひ運動習慣を身につけていきましょう。
(第1回 了)
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