コ2【kotsu】レポート 日本ソマティック心理学協会「ソマティックの実験場」

| 阿久津若菜

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去る10/3(土)と4(日)、日本ソマティック心理学協会(久保隆司会長)の第2回大会が上智大学で開催されました。当日は講演、ワークショップなどさまざまな企画が行われたなか、ここでは“ソマティックの魅力を世の中に伝えること”をテーマに開かれた「ソマティック実践者ネットワーク(以下、SPN)分科会:ソマティックの実験場」のようすをレポートします。

コ2【kotsu】レポート

日本ソマティック心理学協会・第2回大会
「ソマティックの実験場」

文・写真阿久津若菜(編集者・ライター)

講座風景
講師も一緒に、最初は全員で「耳ひっぱり」(写真左から)藤本靖さん、高野雅司さん、有本匡男さん、原田奈名子さん、山口創さん。

 

“身体”と“心”をつなぐ場所

日本ソマティック心理学協会は、2014年4月に立ち上がったばかりの協会です。まだまだ聞き慣れない“ソマティック”という言葉の意味は、「生き生きとした身体(Soma)を通じた体験的な学び」のこと。

第2回目となった今大会のテーマは「身体のリベラルアーツ」で、アレクサンダーテクニーク、トラウマ・セラピー(SE ; somatic experience)、ボディマインドセンタリング(BMC)、ゲシュタルト療法、野口体操、禅、瞑想など、さまざまな内容が取り上げられました(プログラムはこちら)。

当日は聴きたい講演、体験したいワークショップが目白押しで、「身体が3つ欲しい!」と言いながら会場を行ったり来たり。知り合いを見つけては「次は何に参加する?」「何が面白かった?」とお互いに情報交換をしながら、忙しくも楽しい2日間を過ごしたのでした。

その中で、2日目に行われた「SPN分科会:ソマティックの実験場」は、講演でもなく、参加型ワークショップでもなく、

「ソマティックの魅力を世の中に伝えるにはどうすればよいか?」

を全員で議論、実験を重ねる場だとのこと。

講師として名を連ねているのは、藤本靖さん(身体論者、ロルファー)、高野雅司さん(ハコミセラピー)、有本匡男さん(ホリスティックヘルスケア研究所)、山口創さん(桜美林大学教授)、原田奈名子さん(京都女子大学教授)と、専門も経歴もまちまち。

「何をするかはよくわからないけれど、何か面白いことが起こりそう」

という期待に引っ張られ、こちらの分科会へ取材に伺うことにしました。

 

始まりは“耳ひっぱり”から

円陣にぐるりとイスが並べられた会場に三々五々、集まってきた参加者。大会も2日目ですのでさっきまで一緒にワークショップを受けた人もいて、お互いの緊張感はさほどではないものの、「これから何をするのだろう?」としばしの沈黙が。

そこへ総合司会の藤本さんが口を開きます。

「この分科会を企画したのは、身体や心のことに関わるのは人の役に立つ実感もあって楽しいけれど、それだけでは余りにもったいないからです。

“わかっている人だけ来ればいい”のではなく、全然興味をもっていなかった人からも、“何をやっているの?”とつっこみを入れたくなるような、ソマティックの魅力の伝え方を、それぞれの立場で探してほしいんです」

とのこと。

なるほど。私自身、色々な身体関連の講座に出たり、体験したりするなかで、「このワクワクする感じを、一人でも多くの人に伝えたい!」と思っているだけに、この“ボディーワーク界の切り込み隊長”の異名を持つ藤本さんの言葉には、強く共感するところ。

“では果たして……世間に打ち出す一手とは?”と思ったところで、

「まず、ここに来た内面をみつめるのに“耳ひっぱり”からやりましょうか」

と藤本さん。

あれ? 話し合いの場になるかと思ったら、切り込み隊長らしいいきなりの奇襲攻撃。でも眼をつぶって、両耳をレバー代わりにやさしくひっぱり、頭や首の詰まりをすっと流して……と、場の静けさを感じながら耳をひっぱると興奮が少しおさまり、周りを見る余裕がでてきました。

百の言葉よりまずやってみる! この感覚を味わうことが、“生き生きとした身体”と仲良くなる一歩なのでした。

終わったところで隣の人とペアになり、今感じていることを伝え合ったのですが、この「自分の感じ方を、互いにシェアする」のも大事。初めは個人的な感覚を人に伝えるのは、ちょっと恥ずかしいけれど、そうすることで他人との間の遠慮がとれて、身体と心が開かれていく感じがします。

次に有本さんから、大会前日の10/2(金)に行われた「第1回 ソマティックフェスタ(以下、ソマフェス。サイトはこちら)」の報告がありました。準備期間がたったの5カ月だったそうですが、「ソマフェス自体を人間の身体に見立てて、場の流れに任せることで起きる予想外の反応と調和を面白がることにしました」と有本さん。

当日は10種類のワークショップと9種類のボディワークが体験できる場を用意し、最終的に229名の参加者を数える大盛況のイベントになったそうです。

講座風景
「第1回 ソマティックフェスタ」の報告をする有本さん。

 

想定外ながら面白かったのは、会場を二つに仕切るはずの“パーテーション”が、当初予定していたのとは違うペラペラの布製のものが届いてしまい、隣同士のワークショップの音が丸聞こえになったことだそうです。

ヨガセラピーの隣でフェルデンクライス、ハコミセラピーの隣でロルフィング、操体法の隣でヒーリングタッチと、お互いの様子が筒抜けになってしまったため、当初は隣の音が気になったものの、これが参加者から予想外の身体の反応を引き出して新しい体感を得た方もいたとのこと。

このランダムな場の流れを愉しむことが、“ソマフェスならではの魅力”と言えそうです。

ソマティックフェスタ

 

「第1回 ソマティックフェスタ」のロゴ。いろいろな人に参加してもらいたいので、マニアックになりすぎない、楽しい雰囲気のデザインを心がけた(画像提供:SPN分科会)

 

それはまるで、ジャズのセッションのような

続いて藤本さんからは、昨年の第1回大会の雑談から生まれた「コラボ講座」について報告がありました。これは高野さんと山口さんがそれぞれ、藤本さんと組んで朝日カルチャーセンター新宿教室で行った講座の総括です。

通常のコラボ講座は、1回で複数の内容が楽しめるよさはあるものの、せっかく講師が一緒にやってこその“化学反応”を毎回起こすのは、むつかしい場合が多いのだとか。

そこで高野さんとの講座では、クライアントがやってきたとき、お互いにどこを観て・何をしているのかを、セラピスト(高野さん)の視点、ボディワーカー(藤本さん)の視点から細かく実況中継。

この結果、受講生にとっては、ひと口にソマティックといっても、いろいろな切り口があることを確認できた場になったといいます。高野さんは、

「事前打ち合わせでおおまかなことを決めたのに、藤本さんがのっけから『実は……』と違うテーマを出してきて(笑)。でもそこに、ふだん僕が考えていることを話して、さらに藤本さん側の枠組みをかぶせて、お互いの話を深めていって。本当にアドリブだったんですけど、ジャズのセッションみたいで面白かった」と笑います。

また山口さんと行った別の講座では、受講生にも意見を出してもらう、やや“攻め”の内容に。皮膚への効果的なタッチの速度といった研究結果を、その場で受講生が試して、違う結果が出たら“なぜか?”と考えたり、やってみたい研究テーマと実験方法を発表し合ったり。即席の“朝カル版・山口+藤本ゼミ”が誕生したそうです。

山口さんは、

「日頃ボディーワークを実践されている方などから貴重な生の声が聞けて、私自身とてもワクワクしました。そこから研究が深まっていくと、お互いにとっていいことがあると思います」

と手応えを感じられた様子でした。

講座風景
コラボ講座のようす。(写真提供:朝日カルチャーセンター新宿教室)

 

偶然の出逢いを楽しむ

しばしの休憩をはさんで後半戦では、参加者がいくつかのグループに分かれ「ソマティックの魅力を世の中に伝えるには?」について話し合いました。

前半の報告会から感じていたのですが、この分科会、参加していても次に何が行われるかがまったく分かりません。おかげで私もメモを取ったり撮影したりと、かなりカオスな状態です。そんなところへ、

「こんなことができたら楽しい、素敵じゃないかと思えることをシェアしてみましょう。まずは妄想でもいいので(笑)」

と高野さんがさらに燃料を注ぎます。

そこで、4人一組のグループになって15分、終わったら組む人を変えてさらに15分の2回、話し合いをし。私も参加をしたのですが、場の作用というのか、組んだ人によって雰囲気がまったく違ってくるのが、この仕掛けの楽しいところでした。

私が参加した1回目のグループでのテーマは「契機は外からやってくる」ことについて。各々に、ルールはめちゃくちゃだけど楽しかったアジア旅行、ソマフェスでのパーテーション問題、発達途中の乳幼児……などなど、一見バラバラな話題を出し合いました。

どれも全然関連のない事象に見えるけれど、共通しているのは今までの枠組み(コンフォート・ゾーン)が壊され、受け入れる経過が成長のきっかけになっていること。

こんな“破壊→受け入れ→成長”の経過をできるだけ多くの人に体験してもらうのに、「“ソマティックの日”をつくって全国で同時発生的にイベントができないか?」というアイデアが出ました。

私自身、このカオスな現場にいきなり放り込まれ、課題が振られ(これまでソマティックの面白さを味わう側にはいても、伝える側の気持ちなんて考えたことなかった!)、アイデアを出し合うことで、“自分にできることって何だろう?”という答えの輪郭が、少しですが見えた気がします。

最初はソマティックの施術者でもなければ、研究者でもないのに、ここに居てもいいのだろうか……と思っていたけれど、自分がここでつかんだことをレポートして、誰でもソマティックに関われるし、楽しめることが伝えられれば、まずは役割が果たせるのではと思い。

“魅力を伝える方法に、決まりはない”と思えたことは、今回の大きな収穫でした。

2回目のグループでは「ソマ活!」について。こちらでも各々アイデアを出し合い、私も思いつくままに話ができて楽しかったです。

「ソマ活!」のねらいは、「思いがけない出逢いの場をつくる」こと。独身男女の数を揃えてワークショップをやるのか、ソマティックおたくが集って好き放題語り合うのかなど、具体的な内容までは決まりませんでしたが、

「“婚活”を連想させる言葉の響きは、誰でも参加していい感じがするし、今までなかった出逢いがあれば面白い化学反応が起きそう」という期待感で、話が盛り上がりました。

あと一歩で現実になる企画が眠ってる!

最後に、生まれたアイデアを書き出してみると、みるみるボードがいっぱいに。

大きく分けると、ソマティックに関わる人たちの“内”に人を招き入れるのと、“外”へ出て行く仕組みをつくるのと、二方向に分類できたように思います。

具体的には、

低価格のイベント(ソマフェスを含む)を頻繁に行い、敷居を低くする

学校などでワークショップを行う機会を増やすのに、講師派遣の窓口をつくる

企業活動にソマティック的な手法を取り入れる(通勤の疲れをとる“ブルブル部屋”、会議の煮詰まりを打破する“トーキングスティック” )など。

実際、「子育て世代が、ソマティックの活動からすっぽり抜け落ちてしまうのはおかしいから」と近年、学会などで託児部屋を用意する例がでてきていることを、話してくださったのは原田さんです。

原田さんは大学附属幼稚園の園長をされていた当時、子どもの送り迎えのすき間時間を所在なく過ごす母親向けに、講座ができないかと思案されたこともあったそうです。ただこの時は使える場所がないため、受けたい人も指導者もいるのに断念せざるを得なかったとか。

なにかひとつ解決すれば、あと一歩で現実に近づいているアイデアがたくさん眠っていることを実感できる機会となりました。

私個人のヒット案はやはり「ソマ活!」

説明抜きで友人を連れて行っても、「マニアックだね……」と尻込みされない、気軽に参加できる場が生まれてほしい。そんなことを思いながら、この分科会をあとにしたのでした。

この大会全体を通じてもそうでしたが、“ソマティック”の見方、やり方を日常に取り入れるための試みが、分野を問わず行われていることの報告が多かったように思います。すでに来年の大会開催も決まっており、2016年10月15〜16日に日本大学文理学部で開かれるとのこと。今後のソマティック心理学協会の新しい動きが楽しみです。

来年の第3回大会については、「日本ソマティック心理学協会」の公式サイトで、順次更新されていきます。「ソマフェス」を企画したSPNの集いも、関西では第3回が10/17に、関東では第7回が10/27に開かれるとのこと。詳しくは同公式サイトにて!

講座風景

 

 

–Profile(アイウエオ順)–

有本匡男(Masao Arimoto

(株)ホリスティックヘルスケア研究所所属、(社)日本ホリスティックヘルスケア協会理事。2002年よりセラピストとして活動を開始、同時にヨガ、哲学を学び始める。世界一優しいタッチセラピー「teateセラピー(R)」をアンダーザライトリトリート(現オーガニック整体院)で始める。現在は講演、ワークショップを通じて、「優しいタッチセラピー」の普及につとめている。

Web site ホリスティックヘルスケア研究所

高野雅司(Masashi Takano

心理学博士(Ph.D.)、ハコミ公認シニアトレーナー。カリフォルニア統合学研究所の東西心理学部を卒業、博士号を取得。1997年に帰国し、ハコミセラピーの紹介と普及に力を注ぐ。著書・訳書に、『人間関係は自分を大事にする。から始めよう 〜「自分中心」で心地よく変わる“ラビング・プレゼンス”の秘密』(青春出版)、『ハコミ・セラピー』(星和書店/共訳)、『プロセス指向心理学入門』(春秋社/編共著)など。

Web site 日本ハコミ・エデュケーション・ネットワーク(JHEN)

原田奈名子(Nanako Harada

京都女子大学教授。東京教育大学(現筑波大学)を修了後、長崎県立女子短期大学(現長崎県立大学シーボルト校)、佐賀大学で教鞭をとる。現在、“0歳から100歳までの体育”を探究中。著書に『「からだ」を生きる 身体・感覚・動きをひらく5つの提案』(創文企画)、『びっくりからだあそびシリーズ 第2巻』(草土文化)、『からだほぐしを楽しもう〈2〉』(汐文社)など。

藤本 靖(Yasushi Fujimoto

米国Rolf Institute認定ロルファー、ソマティック・エクスペリエンス認定プラクティショナー。独自の身体論を展開、各地で講演やワークショップなどを行う。著書に『身体のホームポジション』(BABジャパン)、『「疲れない身体」をいっきに手に入れる本』(さくら舎)、『1日1分であらゆる疲れがとれる「耳ひっぱり」』(飛鳥新社)、『感じる力をとり戻しココロとカラダをシュッとさせる方法』(マガジンハウス)など。

Web site オール・ブルー(藤本靖公式サイト)

山口 創(Hajime Yamaguchi

桜美林大学教授、身体心理学者。早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程を修了。子どもに触れることの影響や、タッチングの質について研究している。著書に『手の治癒力』(草思社)、『腸・皮膚・筋肉が心の不調を治す』(さくら舎)『皮膚感覚の不思議』(講談社ブルーバックス)、『愛撫・人の心に触れる力』(NHKブックス)、『子どもの「脳」は肌にある』(光文社新書)など。

Web site :山口研究室

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