2020年初頭から現在(2020年12月)に到るまで、世界的災厄としてその名を聞かない日はないコロナウイルス(COVID-19)。
ようやく待望のワクチンが登場する一方で、そもそも論としてコロナが発症するかしないかに大きく関わる免疫力に注目が集まっています。
そこで本連載では、コ2で「やさしい漢方入門・腹診」を連載された平地治美先生に、漢方からできるコロナ・感染症対策をご紹介いただきます。
やさしい漢方入門
漢方で免疫力アップ! コロナ・感染症対策
第一回 「免疫力を高める=扶正袪邪」
文●平地治美
こんにちは平地治美です。
私は普段、千葉で、鍼灸と漢方相談をしています。
過去に日貿出版社さんから『やさしい漢方の本・舌診入門 舌を、見る、動かす、食べるで健康になる!』『さわればわかる 腹診入門』という本を出させて頂きましたので、もしかすると書店でご覧になっている方もいらっしゃるかもしれませんね。
感染症にも漢方
今回ここで連載することになったのは、2020年春以来、私たちの生活を一変させてしまった新型コロナウイルス感染症(COVID-19 以下、新型コロナウイルス )に対して漢方ができることを、読者の皆様にぜひ知っていただきたいと思ったためです。
「漢方薬は長く飲まないと効かないんだから、コロナ対策に使えるわけがない」
もしかすると、こんな風に思われる方が多いのではないでしょうか?
あるいはテレビで見た人工呼吸装置を用いた大掛かりな治療を思い浮かべる方も多いでしょう。
私はこうした機会だからこそ、正しく漢方を理解してウィルス対策に役立てていただきたいと願います。
そして新型コロナウィルスだけではなく、風邪、インフルエンザなどを含めた「感染症」に対してお役立ていただければと思います。
漢方とはなんでしょう?
漢方とは、
先に紹介した拙著にも書きましたが、「漢方」とは中国古来の医術のことです。
- 湯液(とうえき:漢方薬のこと)
- 鍼灸(しんきゅう)
- 按摩(あんま)
- 導引(どういん)
- 養生(食養生などを含む生活指導)
などが含まれ、これらをトータルで行う治療を指します。
漢方薬を服用することだけが「漢方」ではないのですね。
「一に養生、二に薬」
と言われるように、まずは養生をして生活習慣を改善し、それでも対処しきれない場合に、専門家による漢方薬や鍼灸治療といったものが登場するわけです。
感染症においても、まず始めの段階で最も重要なのは〝養生〟ということができます。
免疫力を高める=扶正袪邪(ふせいきょじゃ)
新型コロナウィルスの対策として「免疫力を高める」という言葉をよく聞くようになりました。でも「免疫力を高める」ということはどういうことでしょうか?
もともと漢方の最も重要とする治療原則に、扶正袪邪(ふせいきょじゃ)という考え方があります。全ての病気の予防・治療の大前提の考え方です。
扶正袪邪は、
「正を扶(たす)け、邪を去る」
と読みます。
「正」は正気、「邪」は邪気のことです。
では「正気」「邪気」とは何でしょうか?
まず、「正気」について簡単に説明させていただきます。
私達の体には自然治癒力が備わっており、何か有った場合に自分自身で修復する機能があります。傷が自然に治るのも、免疫が働きウィルス感染による症状が治癒することなどは代表的な例です。
漢方ではその力を「正気」と呼びます。
次は「邪気」についてです。
漢方では気候や温度の変化などによる環境因子(環境的な要因)は「風、熱(暑)、湿、燥、寒」の6つに分類され、これを「外因」と呼んでいます。いずれも外からやって来るもので、春の強い風、夏の暑さ、湿気、秋の乾燥、冬は寒さなどが外因に相当します。
ウイルスは「厲気(レイキ)」と呼ばれ、気候変化以外の特殊な外因の一つとして扱われています。
ウイルスによる感染症は「時気病」「疫病」などとも呼ばれ、その正体はわからないものの、先に述べた通常の外因とは性質の違うものとして認識していたようです。
ところで、外因=外邪ではありません。
それぞれに邪の字が付いた、
- 風邪(ふうじゃ)
- 熱邪(ねつじゃ)
- 暑邪(しょじゃ)
- 湿邪(しつじゃ)
- 燥邪(そうじゃ)
- 寒邪(かんじゃ)
が外邪であり、六つを総称して六淫(りくいん)といいます。
では、どのような場合に外因は外邪となるのでしょうか?
それは、「正気が外因より弱くなった時」と言えます。
正気がしっかりしていればこれらの外因は単なる気候や温度の変化であり、病気の原因である「外邪」にはなりません。しかし、何らかの原因で正気が弱っていると外邪として体内に侵入してきて猛威を振るいます。
例えば、冬にエアコンが故障し教室の温度が下がり、教室内が寒い状態になったと仮定します。寒さを感じるのは皆同じですが、全員が風邪をひくわけではありません。
ある人は何事もなく、ある人は軽い風邪を引き、ある人は高熱を出し数日寝込み、ある人は肺炎に至り場合によっては亡くなる……と千差万別の経過を辿ります。
ウイルスによる感染症も、発病の原理は正気が外邪であるウィルスに負けたからと考えます。同じ環境下でも、
- 感染しても発症しない人
- 感染して発症する人
- 感染して発症したけれど治癒する人
- 感染して重症化、死に至る人
というように、その結果は様々です。
それは個人個人の正気がどれだけ充実しているかにより、外邪との戦いの結果が症状として現れるのです。
同じ「外因」でも個々人で出る症状が違うのは「正気」の充実度が違うからであると考えます。
正気は外邪に対する総合的な気の総称ですが、気はもっと細かく分類されています。
外邪との戦いにおいて重要なのは(衛気:えき)という気です。
衛という字は「まもる」と読みますが、文字通り体をまもる気です。
漢方ではこの衛気が体の表面をバリアの様に覆って外邪の侵入を防いでいると考えるのですが、これが綻び弱くなっているところから外邪が侵入して病気になるというわけです。
こうしたことから感染症を含めた、全ての病気の治療方法の根本にある大原則はこの「扶正袪邪」と言えます。
「自然治癒力である〝正気〟を強め、外邪に負けないようにする」
これに尽きるのです。
免疫力を高める「養生」
ところで外因(気候やウィルス)だけが発病の原因ではありません。
外因以外に正気を傷つけるものに「内因」と「不内外因」があります。
「内因」とは感情(怒、喜、思(憂う)、悲、驚(恐))によるものです。ココロの問題と考えると良いでしょう。
過度の感情の変化は正気を弱めてしまいます。
新型コロナウイルスにより大きなストレスを感じたり、様々な不安や恐れを持つことも内因として正気を傷つける原因となります。
「不内外因」は外因でも内因でもない、それ以外の原因によるものです。
生活習慣によるものと考えるとよいでしょう。
主な不内外因には
- 食生活
- 入浴
- 睡眠
- ケガや虫刺され
などが該当します。
外出制限により室内でゴロゴロして甘い物を食べ過ぎたりコーヒーやお茶を飲み過ぎている人が多いですが、これも正気を傷付ける原因になります。
こうして見ると、新型コロナウィルスそのものではなく、それを原因にした私たちの生活環境が様々な症状の原因になり得ると言えますね。
実際、私の所にいらっしゃる患者さんにも、
- 運動不足による腰痛
- 食べ過ぎ、飲み過ぎによる倦怠感や体重増加
- 皮膚病の悪化
- 鬱症状
などの症状が増加しております。
また、コロナウイルスは若い人は罹りにくい、重症化しにくいと言われていますが、油断はできないと思います。私の感覚ではここ最近、不調を訴えで治療に来る中学生や高校生の患者さんが増えています。長期間の休みで運動不足になり、生活が乱れ、ストレスが大きくなり頭痛、めまい、吐き気などの自律神経失調の症状、あるいは甘いものの食べ過ぎにより皮膚病や胃腸の症状などを訴えていらっしゃるのは大人と同じです。
若いからといって正気が傷つかないわけではないのです。
(第一回 了)
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