コ2【kotsu】レポート 動きを質で観る!? ラバンムーブメントアナリシスの可能性

| 松子

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2016年10月14日、東京代々木で行われたソマティックフェスタについては既にお伝えの通り、平日にもかかわらず、多くの参加者を集めて行われた。ただ、魅力的な講座は沢山あれど体は一つ、泣く泣く諦めた方も少なくないはず。そこで、そんな皆さんのためにコ2【kotsu】では、募集早々に満員になったクラスを中心に、「これは面白そう!」と思った講座のレポートをお届けします。

今回ご紹介するのは、橋本有子先生が講師を務めたラバンムーブメントアナリシスのWS。動きを「質的に観る」という新しいアプローチには、新しい発見が沢山ありました。

コ2【kotsu】レポート ソマティックフェスタ篇

動きを質で観る!?
ラバンムーブメントアナリシスの可能性

ラバンムーブメントアナリシスWS 動きを観る・捉える

講師橋本有子先生
取材協力日本ソマティック心理学協会
松子(ライター)

 

講座風景
募集早々に満員になっただけあって、熱気を感じるWSとなった。

 

いきなりお絵かきからスタート!?

ムーブメント・ダンス教育者、ラバンムーブメントアナリシス(Laban Movement Analysis以下LMAと略す)専門家(CMA: Certified Movement Analyst)の橋本有子さんは、NYから帰国し、日本で活動を始めたばかりです。ルドルフ・ヴォン・ラバンが中心となり考案したLMA(身体動作分析論)はまだ日本で学べる機会は少なく、ほとんどの参加者が初体験となりました。

何が行われるのか期待と想像が膨らみます。

「まず、身体の動きをつけて自己紹介をしましょう。他のメンバーはそれを模倣します。できるだけ正確に真似してくださいね」

と橋本先生。 全員の自己紹介をひと通り実践したあとに大きな紙が配られ、先ほどの自分の動きを、好きな色と形を使って紙に描くワークが行われました。

「ルールはありません。自分の中で分かれば大丈夫。自分で『これが私の動き』と理解できるものを描きましょう。具体的な身体の形を描いても、イメージでもかまいません」

と、先生の指示で参加者は4色以上のクレヨンを使い、動きを紙に落とし込んでいきます。

身体の形から忠実に描く人がいれば、直線や曲線、円などで抽象的なイメージを描く人も。ボディワーカーや表現者として日頃から身体で表現することは得意でも、動きを画で表現する新しいアプローチに、参加者たちは頭をひねりながらも描き込んでいきます。

講座風景
参加者の間を回りながらコメントする橋本先生。
講座風景
参加者は自分の動きをそれぞれに画に描きます。

 

描き終わったところで、改めて橋本先生からLMAについての解説がありました。

「LMAとは、動きの質をとらえる考え方・システムです。どれくらい速く動いたかとか、どれくらいの重さがかかっているのか、移動距離はどのくらいあるかなど、数字で測れることが『量的』な見方だとすると、このメソッドでは動きの『質的』なものを見ていきます」

講座風景

 

「どんな動きかによって、動きの質は全然違うニュアンスを持ちます。たとえば、猫がピザに手を伸ばしている写真を見て、私たちはこの写真からいくつかの動きを想像できますね」

人にバレないようにパッと取る、得体の知れないものに恐る恐る手を伸ばしている、もしくは誰もいない中でしめしめと手を出している……など、様々な可能性が考えられます。

単純に「手を伸ばす」といっても、猫の心理状態、環境によって全く異なる動きになる。私たちが無意識でとっている行動の裏にはすべて意味があり、状況の中で動きそのものもまた変化しているのです。

 

動きを質で捉える!

ここからいよいよ、LMAで動きを解きほぐす作業に入ります。LMAの基本となる大きな視点のうちのひとつ、「Effort/Dynamics」で動きの質に注目し、人間の複雑な動きを分析します。

講座風景

図表

 

※上の図は、橋本先生が白板に書いた内容に、今回のレポート用に日本語も追加して頂いたものです。普段は、動きの体感や体験を伴わずに概念などのこうしたチャートのみを提示することは避けているそうですが、初めての方にもできるだけ分かりやすくなるように出させて頂きました。

「Effort/Dynamics」(動きの質)を解きほぐすときに、中心となる4つの考え方があります。 中央の4つの要素を“ファクター”と言い、それぞれに対応する2つの要素、“エレメント”があります。

これは二元論のように切り離されているものではなく、陰陽理論の考え方が基本です。

Lightな(軽い)動きが強く出るときにはStrong(重い)が引っ込むイメージです。ここでは例えばWeightの場合、端と端にLightとStrongが位置していて、どちらかに最大限振れた時にその特徴が出た、と認識します。間のあたりのグレーの状態(重さも軽さも色濃く出ていない場合)では、そのエレメントやファクターが背後に隠れていると考えます。

“Condensing/Fighting”は“凝縮された/戦う”、右の“Indulging”は“委ねる、ふける、浸る”という意味です。

 

動きの要素を8つのエレメントに分けて感じる

ここで参加者はWeightのStrong(強い)と Light(軽い)を実際に体験するワークに挑戦。まず、2人一組で大きな声を出しながら、お互いを思いっきり押し合うStrongの動きを行い、次に、弱い声で、赤ちゃんの手に触れるような軽い動きでそーっと触れます。

それが終わったら今度は、Lightに「アルプス一万尺」の手遊びをして、最後に声はそのまま、再び思いっきり押し合ってみると……。声と一致しない動きに、

「気持ち悪い~」「ストレスが溜まる!」

と参加者から声が上がります。

「これがStrong とLightの概念。身体の動きと声の質は連動しているのが分かりますよね」(橋本)

講座風景
お互いに押し合うことでWeightのStrongを体感。

 

同様にTime(時間)ではQuickening(加速した、突然の)とSlowing(減速した、引き伸ばされた)を体現。顔見知りに会った時、「誰だっけ?」と瞬間的に思いを巡らせ、だんだんと思い出すパターンを実演します。時間が流れる速さは変わらないのに、自分の思考状況によって動きが速く(詰まっていたり)、あるいは遅くなっている(引き伸ばされている)のがわかります。

Weight(重さ)とTime(時間)は、4つの中ではもしかしたら、計測可能な部分もあるかもしれないファクターですが、逆に残り二つのSpace(空間)とFlow(流れ)は難しいかもしれません。

Space(空間)では、円になってキャッチボールを行い、ボールが1つの時は、身体が1つのボールに引き込まれるようにDirect(一点に集中した、ズームインした)していたのが、2つ、3つと増えていくに従って意識を360度に向け、どこから来るかわからないボールに対して身体と心が準備をします。Directに対し、Indirect(多点に集中した、全てを取り込んだ)の状態です。

意識の変化と共に、身体の開き具合が無意識に変わっていくのを実感しました。

講座風景
Spaceを体感する参加者。それぞれに分かりやすいエクササイズが印象的。

 

最後にFlow(流れ)。コントロールが利いたり、束縛によって動きがいつでも止められるような状態をBound(束縛された、コントロールされた)、止めようと思っても止まらない、どこまでも水が流れ続けるような感覚がFree(束縛されない、自由)な状態。目を開けて関節を柔らかく、流れるような止めどない動きを体感した後、突然目を閉じて動いてみます。その瞬間、他者から見ても分かるほど、身体、特に関節に硬さがみられる動きになるのがわかりました。

私たちの生活の中の動きはこの8つのエレメンツ(要素)が見え隠れしていて、たいていの動きは8つのうちの2つ、または3つの組み合わせでできているのだそうです。

Dynamicsの基本を理解したところで、最初に自分で描いた画の中にどんな動きが潜んでいるか、上記の8要素を書き込んでいきます。次に4人で1グループになって一人が自分の自己紹介の動きを再現し、他の3人はその動きのイメージを描き、描いた絵をシェアします。そこでもう一度動きを確認して、今度は先ほどの8つの要素の単語を書き出します。

最後に動き手の画を含め4つの画を比べてみます。動き手は自分が描いたものと他の人の画を比べて、

「このエレメントは入っているよね」「こう動いたつもりだったんだけど……」

など、さまざまな視点からの気付きが出てきました。次第に参加者はコツをつかみ、受け取り方が上達。動きを瞬間的に捉え、共通言語で共有できるようになっていました。

最後に、橋本先生からDynamicsについての説明がありました。

 

<Dynamicsの特徴>
『タスクに合った動きのDynamicsがある』

「ニンジンは斧で切りません。赤ちゃんのうちは力加減が分かりませんが大人になるにしたがって場面に応じた必要な力加減や動きを理解し選択できるようになります。間違ったDynamicsの使い方はパフォーマンスを妨げ、効果を下げてしまいます。

『人の動きはたいていCondensing/FightingとIndulgingを行き来している』

例えば拍手という動作は、叩く動きの質と戻る動きの質が違います。全く同じ質の動作を続けるのは大変なので、Condensing/FightingとIndulgingを行き来することで運動を続けられるのです。

『人の雰囲気や特徴はDynamicsで説明もできる』

ほわんとした雰囲気、キビキビした人、どっしりとした人など、自己紹介の動きの中でも表れていたと思います。

『ベースラインは人により異なる』

仮に、数値で表したときに私のLightが5gだとしても、他の人にとってはもっと軽いかもしれない。その人にとってのLight、 Strongは、その人が持つベースラインにより異なってきます。この観測方法も訓練を重ねると掴めてきます。

 

また自分の動きと受け取られ方にズレがあった場合は、2つの理由があるのだそうです。ひとつは動き手が思ったように動けていない表現力不足。もうひとつは受け取る方の目が訓練されていない、客観視できていないため、描き出した画や要素に偏りがあるということです。

LMAを通じてこうしたプロセスを経るうちに、自分の動きや視点のクセに気付くこともできます。

「ハンガリー王国出身のラバンは幼少期をヨーロッパ各国で過ごし、さまざまな民族ダンスに触れる中で、人の動きと文化との関わりに興味を持ちました。成人してからは建築に興味を持ち、建築学校に進みましたが、空間の中で動く『人』に、より興味を持ち、その動きの理論を体系化しました。それは音楽の音に対応する楽譜があるように、人の動きに呼び名(言語)、そしてシンボルを付け、楽譜のような記号で表現する方法でした。

 無意識に行われている動きそのものに着目し、それについて語り、考える動きの学問・システムをつくりあげたのです。今日実践した要素にもすべてシンボルがあり、動きを譜面に残すことができるのです」

講座風景
分かりやすい言葉で、LMAの魅力を説明してくれる橋本先生。

 

LMAのWSは、動きをシンボル化することで表現者・ボディワーカーにとって、動きの習得・理解に役立つ新しい視点を与えてくれました。なまじ身体表現が得意だと、見本の動きや抽象的な言葉で表現しがちですが、LMAの動きの質を紙に描いて掘り下げるアプローチを用いることで、表現者はより正確な動きの表現力を、カウンセラーや施術者は、クライアントの身体表現を正しく受け取る理解力を鍛えることができるのです。

誰にでもわかりやすく動きを伝える技術は、指導者こそ必要なのではと感じさせるWSでした。何気ない日常の動きにも、今日学んだ視点や要素を意識すると動きと感情への理解が深まるに違いありません。

※本レポートにあたって、橋本先生をはじめ、日本ソマティック心理学協会の皆さま、参加者の皆さまのご協力に改めて感謝致します。

(了)

–profile–

橋本先生

橋本有子(Yuko Hashimoto
ムーブメント・ダンス教育者(ラバンムーブメントアナリシス専門家)

東京都内の大学非常勤講師を務める(体育・ダンス)傍ら、乳幼児のダンスレッスンをはじめ、身体運動を専門として様々なプロジェクトに関わる。お茶の水女子大学大学院、ニューヨーク州立大学大学院にて身体/ダンス教育法、Laban/Bartenieff Institute of Movement Studies(ニューヨーク州ブルックリン市)で、ラバン運動分析法を学ぶ。2015年よりアメリカにて資格プログラムのゲスト講師を務める。

連絡先
body.mind.flow.2015@gmail.com

ラバンムーブメントアナリシスについてはこちらのサイトをご参照ください。(wiki pedia 英文)

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