コ2【kotsu】レポート 武術探求シリーズ02 謎の剣術「倭刀術」とはなにか?(後編)

| 岩淵譲二

不定期連載 武術探求シリーズ。この連載ではライターの岩淵讓二氏が武術マニアが気になりつつもなかなか一息では届かないコアなところをご紹介している。

今回は「倭刀術」の後編。日本剣術の要素を濃く受け継ぎながら、中国武術固有の要素と融合し独自に発展、伝承された剣術苗刀だが、今回は技術の面からその特徴を紹介したい。

コ2【kotsu】レポート 武術探求シリーズ02

謎の剣術「倭刀術」とはなにか?(後編)

文・写真岩淵譲二
取材協力倭刀術稽古会

 

倭刀術
倭刀術稽古会 教練 野村暁彦氏。

 

套路「四路苗刀」

倭刀術稽古会では、套路(型)を稽古の中核に据えている。ここで稽古される套路は「四路苗刀」である。これは民国時代の南京に設立された中央国術館(日本における大日本武徳会のような存在)の第一期卒業生である韓慶堂が戦後の台湾に伝えたもので、主に武壇国術推広中心(通称「武壇」)や、その系列の国術社(大学などの武術クラブ)などで練習されている。

日本剣術の型稽古といえば、二人一組で仕太刀、打太刀に分かれて行うのが一般的だが、中国武術の一科目である苗刀の套路は、日本剣術の遺伝子を受け継ぎながらも、中国武術や空手と同じく独演型である。

大陸には、中央国術館で苗刀を指導した、通臂門の郭長生の伝が今も滄州の郭家を中心に受け継がれているが、同じ中央国術館の流れを汲みながら、台湾の四路苗刀とは風格も套路構成もかなり異なっている。また現時点では、大陸で四路苗刀が練習されていた形跡が見つかっていないため、この套路は中央国術館の苗刀から双手刀法の基本技法を抽出して、台湾で編纂された套路である可能性が高い

「四路苗刀」は、直線的に移動しながら一路終わるごとに回身式を行って折り返し、路線を二往復して、開始と同じ位置に戻って終了する。各々の動作は比較的シンプルなものが多いが、苗刀を学習する上での中枢であり、これのよって姿勢、運足、刀の操法の基本と変化などを学ぶ。また套路と並行して各種の対練(相対練習)を行い、套路で得た動作を対練に、対練で得た感覚を套路にフィードバックして、套路と対練を両輪として稽古を進めていく。

苗刀の刀身は、定寸の日本刀(2尺3寸≒76センチ)と比べると、約90センチ(大陸のものは約1メートル)と長大であるため、木刀も日本刀を模した一般的なものより長く、その分重量も増すが、この重さが正確な動作を身につける助けとなる。木刀の長さと重さに負けずに正しく動かなければならず、歩型や身法に誤魔化しが利かない。そのためしっかりした姿勢、しっかりした動きを学ぶことができる。

この「四路苗刀」は、前述の特徴から刀術としてのみならず拳術の練功としても有効なのだが、シンプルすぎるためか、現在の台湾の学生たちにはあまり人気がないという。長くて重い木刀を持ち歩かなければならないことも、不人気の一因となっているようだ。また中国武術にありがちなことだが、同じ「四路苗刀」でも指導者によって解釈が異なり、ときには細かなアレンジが加えられたりしていて、公表されている刀譜と噛み合わない場合もある。

「四路苗刀」刀譜

第一路
一、撥絞撇砍
二、弸挑斜砍
三、架護正劈
四、抱護正刺

第二路
一、下撥探劈
二、外翻投刺
三、滾榨挑刺
四、削劈正掛

第三路
一、弸括點劈
二、抱護攔砍
三、抱護橫刺
四、外撥擦砍

第四路
一、磕打迴砍
二、剔撩砍刺
三、剔提割撩
四、扥架正劈

 

套路動作の特徴

日本剣術の流れを汲むと言われている苗刀だが、三百年以上にわたって中国で伝えられてきた中国武術である。そのため「四路苗刀」では馬歩・弓歩・虚歩などの架式(姿勢)が用いられるが、これらは多くの中国武術の基本架式である。

倭刀術

 

現在の大陸で苗刀の主流となっている、滄州の通臂門に伝わる中央国術館系の苗刀では敏捷性や実用性を重視して、弓歩から後足の踵を上げて膝を屈曲させた麒麟歩という架式を多用するが、倭刀術稽古会では原則として「四路苗刀」の基本に則った、後足の踵をしっかり地面に着け、膝裏を真っ直ぐに張った弓歩で行うよう指導している。

また、日本の陰(影)流系の剣術同様、苗刀も一重身を重視する。槍や薙刀を見ても分かる通り、ある程度以上の長さがある武器を扱うとき、一重身は必要不可欠の姿勢である。「四路苗刀」では各路の冒頭の部分で新陰流の車の構えに似た構えを取り、この構えから始まる四種類の技法が各路の冒頭に示されている。日本剣術を彷彿とさせる構えだが、弓歩での一重身はかなり深く、正面から見ると刀身が体の陰に隠れるほどである。

倭刀術
倭刀術の基本の構え。

 

差し入れていく刀法

刀身が長いため、苗刀は試斬で巻き藁を斬るときのように、刀を大きく振って斬るのには向いていない。そのため、相手の隙間に差し入れ、抑えて入るような使い方を多用する。大きく踏み込んで行くときも、ズバッと叩き斬ったりはせず、刀身を滑り込ませるようにして抑えに行くことが多い。または抑えた上で刀尖から物打ちの部分を差し込んで、突き斬りのイメージで刀を扱う。

倭刀術

倭刀術

倭刀術

倭刀術

 

相手の剣先を抑えて差し入れていく際は、決して相手の刀を横にどかそうとするのではなく、相手の中心を捉え抑えに行かなければならない。相手の刀をどかそうとする動きは、同時に自分の中心を開けて、自ら体勢を崩してしまうことになる。こちらが正しい動きで相手の中心を捉えることができれば、結果的に相手の刀をずらして入ることができる

 

順逆による差込み

正面から見ると青岸順逆の繰り返しになるが、基本の稽古ではまっすぐ打つ稽古も重要

相手を割って入った時に逆勢に変化する際、ただ刃を返しただけでは、相打ちになるか、悪くすれば一方的に斬られてしまう。

倭刀術

 

順逆の入れ替えの中で、まっすぐ刃を立てて中心をしっかり取ってから刃を返し変化させると、相手に取られることなく入っていくことができる。

この一連の動きは他の多くの技法の原理となっている。

例えば下から斬っていくとしても、入って中心を取るということに変わりはない。

倭刀術

倭刀術

倭刀術

 

極端な例をあげれば、相手と距離がある場合でも、中心を取ってしまえればそのまま歩み寄るだけで相手を制することができる。細かい技よりもこの感覚を習得することが重要だという。

 

中心の感覚を得る稽古法・1

この中心の感覚を得るにはまずまっすぐに剣を振り下ろす稽古を行う。人間の体の構造上、長い刀を両手で持って、体の正面で真っ直ぐに振り上げ、振り下ろすことは、腕の角度が左右非対称になるため意外と難しい。苗刀のように柄が長く、両拳の距離が離れれば、なおさらである。そこで稽古の際は、刀を振り上げたときは柄頭を自分の正中線上に置き、振り降ろすときは右拳が正中線を通るようにして、刀の軌道を確認しつつ、一回一回を丁寧に行う。

倭刀術

倭刀術

倭刀術

倭刀術

 

この素振りは、まずその場での順歩と拗歩で行い、動作がある程度身についたら継ぎ足、歩み足などの歩法と併せて行う。

 

中心の感覚を得る稽古法・2

相手にまっすぐ木刀を構えてもらい、そこへ木刀を振り下ろす。接触の際に、体を開いて僅かに刃を傾け、物打ちで相手の中心を取る。うまく中心を捉えることができていれば、相手の剣は逸らされ、青岸の構えの形となる。

倭刀術

倭刀術

倭刀術

 

相手の刀を横にどかすのではなく、相手の首のつけ根に斬り込むような感覚で行う。大切なのは、我が身を刀身の裡に置く感覚を養うことである。

 

鍔を使った技術

苗刀の代表的な技法のひとつが鍔の使用である。日本剣術ではあまり見られないが、苗刀では積極的に鍔を使用するため、練習用の木刀にも鍔が標準装備されている。日本武術でも即位付けのような鍔迫りの技法があるが、苗刀はより積極的に鍔を使ってゆく。

基本的には先に挙げた技法と同じく中心を取って抑えていくが、ここでは鍔を相手の刀身にぶつけるようにして、中心を取って抑えていく。鍔で中心を取ることができれば、相手の刃はこちらには届かない。この状態から柄頭を相手の両腕の間に上から差し入れるようにして、身体を抑えながら首筋を斬る。擒拿の要素も入った、中国の刀術にしばしば見られる技法である。

 

いずれの技法も中心を捉えることを何よりも重視しているが、その技と身体を作り上げるために、まず套路や素振りでしっかり基準を作り、その上で構えがどのように変化しても常に刀身の裡に身を隠すことを徹底する

2回に渡って紹介した倭刀術は、日本剣術の遺伝子が中国武術の伝統技法と合わさることで生まれたが、単なるハイブリッドではなく、互いの要素を残しつつも洗練された兵器として完成されていることが、中国武術の名門・武壇の基礎教科のひとつとなっていることからも感じられる。日中剣術の類似、相違、奥深さを学んでみたい方に倭刀術をお勧めしたい。

(後編 了)

告知

10月から恵比寿で身近に倭刀術を学べる講座が開講!
9月30日には事前体験会も。
10月から恵比寿のよみうりカルチャーセンターで倭刀術の講座を開講
9月30日には開講に先駆けて事前体験会を行う。
この講座では、苗刀の技術を損なわない程度にアレンジを加えて、普通の長さの木刀で練習できるようにしたものを教える予定だ。

 

[歴史参照資料]
「倭刀術考」情報と調査NO.108 20154・5月合併 著・野村暁彦
倭刀術稽古会については以下のサイトを御覧ください。

http://watoujutu.jimdo.com/

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