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2016年12月9〜11日、ホリスティックヘルスケア研究所と日本プロセスワークセンターの主催により、コーマワークの実際を伝えるシンポジウムとセミナーが、東京で開催されました。長年にわたり、コーマワークの実践を豊富に積まれたゲリー・リース博士が来日。ゲリー博士は、プロセスワークの創始者であるアーノルド・ミンデル博士から直接、薫陶を受けておられます。前編に引き続き、後編では日本でのコーマワークの実践者たちを招いて行われたシンポジウムのようすをお伝えします。
※コーマワークの実際を伝える実践セミナーの様子は、前編で紹介しています。
コ2【kotsu】レポート
新刊『システム感情片付け術』刊行記念、
小笠原和葉さんトーク&サイン会
文●寒川夕紀(ライター)
写真●コ2編集部
ロジカルでシンプル、それが『システム感情片付け術』
早く原稿を書かないといけないのに、締め切り間際に部屋の汚れが急に気になりだしたり、「あのとき、お母さんはなぜあんなことを言ったの……」とはるか昔の親子関係を思い出してシュンとしたり。
でもそんな気持ちになるのはなぜかと考え出すと、すでに原因は風化していてわからないうえに、気持ちはずっとモヤモヤしたまま。
そんな“終わりのないグルグル思考”にハマってしまい、モヤモヤした気持ちから抜け出せなくなったことってありませんか?
5月17日に発売された『システム感情片付け術』(小笠原和葉著 日貿出版社刊)は、イライラ、落ち込み、怒り……そんなままならない「感情」との新しい付き合い方が、伊東昌美さんのイラストとともに紹介されていると聞き、
「感情のグルグルも、仕事のごちゃごちゃも、スッキリ片付くといろいろはかどりそう!」と、
さっそく八重洲ブックセンター本店でおこなわれたイベントに申し込んでみました。
著者の小笠原和葉さんは、大学院で宇宙物理学を専攻した元システムエンジニアです。それだけに本書の内容は、神経生理学をベースにしたわかりやすい解説で、ロジカルかつシステマティック。
私たちがついハマってややこしくしてしまう感情のトラブルを「神経系の仕組み」ととらえて、お部屋を掃除するようにシステマティックに片付けていくのが、『システム感情片付け術』の骨子なのだそう。
しかも家庭をもち、お母さんでもある和葉さんの語り口はとても優しく、シンプルでもあります。
実際に講演の後に読んだ本書では、実践編として日常生活の中で誰もが取り組めるエクササイズが、16コ紹介されています。思い立ったらすぐできる「即効系」、日々コツコツ取り組める「日常系」、一生ゆっくり続けられる「人生系」と、取り組むスパンによって三つに分かれています。
こうしたエクササイズの全てをやりこむ必要はなく、お気に入りのワークを2~3コ見つけて、組み合わせを考えればOK。さらにお気に入りのエクササイズを記録して「マイルーチンをつくる」という、ページまでちゃんと用意されています!
ボディーワークとは? カラダとココロはつながっている
イベント会場には、和葉さんが主宰されている講座の受講生から、和葉さんに会うのはまったく初めてという方までさまざま。イベントが本の先行発売の場でもあったため、この日の参加者はまだ誰も本を読めていない状況でしたが、カリスマボディーワーカーの対談とあって、会場は定員オーバーの満席。お二人の人気を実感します。
そして和葉さんと藤本さんが登壇すると、会場は拍手喝采。藤本さんは「これ対談なんですかね? コンビみたいな感じになってますけど(笑)」とおっしゃるくらい、はじめからお二人の息はピッタリで、あうんの呼吸でトークがはずみます。
そんな対談は「そもそも“ボディーワーク”とは何か?」についてからスタートしました。和葉さんは「カラダとココロのつながりをちょっと経験してみましょう」と会場の参加者に呼びかけると、
「いまどんなふうに呼吸をしているか、ご自分のカラダの感覚を感じてみてください。何となく感じられましたか? そうしたら、お隣の方と手をこんな感じにして……」
と、藤本さんと手を合わせます。
会場のほとんどの人にとって、初めましての方といきなりの“手のひらタッチ”! しょっぱなから意外なワークの展開に、照れくささやら面白さで、会場からは笑い声があがります。
「手を合わせているときに、いまご自分がどんな呼吸をしているか、気づいてみてください。手を触れたまま、お隣の人となんとなく目を合わせると……どうでしょう? ちょっと体を動かしたり、お隣の人に触れる。その皮膚のふれた感覚が体にインプットされただけで、部屋の空気が変わった感じがありますよね」と和葉さん。
和葉さんはボディーワークを
「カラダとココロを切り離さずに一つのものとしてとらえ、その人に向かってアプローチするものの総称」
とおっしゃいます。
見ず知らずの人と距離を縮めるのは少し照れくさいもの。ですがたしかに“手のひらタッチ”をしてしばらくすると、空間の感じ方が明らかに変わり、私の呼吸はより深く滑らかになって、会場の方々、和葉さんや藤本さんをグッと身近に感じることができました。
ボディーワーカーの原点—ヨガでリラックス、自分のカラダと出会う
藤本さんは「ふとしたことで“ホンマ腹立つわ〜”と思ったり、イライラしながらFacebookを見たり……そんなことを日常の中で繰り返していますよね。でもそのときに、“カラダから働きかける”ことで、感情のモヤモヤがスッキリする。
アタマで整理できなくても、カラダから働きかけることで、感情のモヤモヤが、とりあえずどっかにいく。
そんなやり方を提供できるところが、ボディーワークの強み」だといいます。
藤本さん自身はそうしたボディーワークの魅力にはまってしまい、
「ボディーワークの世界ですごくいい状態を知ってしまうと、『もう会社とかどうでもええわ』と思えてきて。結果、会社を辞めちゃったんですけど(笑)。
せっかくカラダを立て直しても、またストレスを受けながら仕事を続けるよりは、もう全部カラダメインでいったほうがええやん!」
とボディーワーカーになったのだそう。
そんなご自身の経験をお話の上で「“カラダから働きかけた”ことで実際、すごい助かった体験があれば、お話ししてもらえます?」と和葉さんにリクエスト。
それに応える形で小笠原さんが、「理系から→癒し系へ」と転身されたきっかけを伺うことができました。
大学院で宇宙物理学を専攻後、システムエンジニアになった和葉さん。恵まれた職場環境で仕事を任され「期待に応えて成果を上げて、評価されたい」とがんばったといいます。
でもエンジニアならではの激務もあり、子どもの頃からのアトピーが悪化。横になって眠ることができず、息をするのも痛いほどのつらさに「このままではマズイ」とヨガのクラスへ。
何よりまずこのミッションを解決する! という勢いで「私、カラダを治したいんです!」と訴えたところ、ヨガの先生は静かに「まずは自分のストレスに気づいてください」と一言、おっしゃったそうです。
これには最初、「ストレスとかないんですけど??」と全く理解できなかったという和葉さんでしたが、
「ヨガをやると、カラダもココロも、本当にリラックスするんですよね。こうして日常の“緊張”と、ヨガの“リラックス”とのコントラストができてはじめて、会社にいる時、実はストレスを抱えているんじゃないか? ということに、やっと気づけたんです。
カラダの感覚を通して、いまここで“自分が何をすべきか”じゃなくて、いま“自分が何を感じているか”を、やっと感じられるようになりました」。
これに「“いい状態を知る”ことが、きっかけとしてすごく大事ということですね」と返す藤本さんに、
「ええ。当時の私は、“緊張してがんばっている”状態しか知らなかったので、“リラックスの状態”がスケールに付け加わることによって、自分の客観的な状態がすごくわかった。
自分が、リラックスと緊張とか、幸せと不幸とか、不安と安心とか、その振れ幅の間のどこにいるのか。これがわからないと、自分のカラダとココロの現在地がわからないんです」
と、和葉さんからは理系ボディーワーカーらしく、ロジカルな分析で応じます。
“おもしろがり”和葉さんの才能—システムへのあくなき探究心
ここで藤本さん、「ボディーワーカーに転身したきっかけって、“緊張”と“リラックス”を行ったり来たりするカラダのジレンマを、何とかしたかったからですか?」と、さらにツッコミます。
なぜ今の道を選んだの? という率直な問いかけから、“宇宙と意識を語るボディーワーカー”、和葉節が炸裂します。
「カラダのジレンマというよりも……」と楽しそうに答える和葉さん。
「カラダとココロのつながりには、すごいシステムがあるから。
研究者時代に知った、あのすばらしく整合性がとれていて、美しく体系化された“宇宙”とは別に、ここ(自分のカラダ)にまだ未知の世界があると気づいたんです。
『もう一個おもしろいシステムを見つけてしまった!もうこっちに行く!』 と、勢いがついて会社員を辞めたような気がします」
「知的好奇心があって、まさに研究者魂。僕が考える和葉さんの魅力というのは、“おもしろがる力”がすごくあるということなんですよね」と感心する藤本さん。
「え? そうですか? こういう考え方、普通だと思ってた(笑)」と、和葉さんは高校の物理で初めて斜方投射(しゃほうとうしゃ=斜め方向に初速を与えた物体が、重力の力で落下するまでの放物線を描く運動)の公式を習ったとき、一日中、そのことについて考えていたエピソードを披露。
「それまでの十何年間の人生では、ボールをなんとなく投げて、なんとなく落ちるんだろうと思ってた。でも条件さえわかると、軌道を正確に計算できる。そのことにすごく衝撃を受けて。もう一日、そればっかり考えていたんですよね」。
「あんまりそういう人、いないと思うんですけど(笑)」とすかさずツッコミを入れる藤本さん。
物理から宇宙へ、コンピューター、人間へ——和葉さんの興味の対象は折々、さまざまに変化しても、その根っこにあるのは“純粋な好奇心のカタマリ”。
「今起きていること」をココロから楽しんでいる姿に、すっかり惹き付けられました。そんなお話を聞きながら、「この人のボディーワークなら受けてみたい!」「この人からボディーワークを学びたい!」と、思ったのでした。
理想的なカラダって? カラダのバランスはその人の歴史
ここで会場の皆さんからの質問タイム。「お二人は、自分の“理想のカラダの状態”を知っていますか?」というもの。
藤本さんは「禅問答みたいですけど、カラダは常に理想的な状態と思ってます」という、意外な答え。
「例えば、ここで胃腸の具合がすぐれなくて、おもしろいこと言えへんかったとしても、それはそれで調子に乗りすぎないでいられるとか。どんなにガチガチの状態だったとしても、そうなることで自分を守っている部分もある。
常に最適な正解を、カラダは勝手にやってくれている。
カラダということに関して、もうすべてが全部うまくいっている。これは本気で僕が思ってることなんで、そのまま正直にお伝えしますね」
これに和葉さんは「なるほど深い。どのようなココロやカラダのバランスであっても、その人の歴史の中でカラダにとっての合理性やニーズをとらえた結果、最適化されたところにいるといえますよね」と大きくうなずきました。
対談も佳境を迎え、会場からは続々と質問の手も挙がりましたが、残念ながらこの辺で終了の時間に。イベントの最後に、和葉さんからのメッセージがありました。
「まずワークをやっていただいて、自分のカラダがどういうふうに反応しているのか、気分はどう変わっていくのか。カラダの感覚やものの見え方がどう変化していくのか、まず経験していただきたいです。
皆さんの日々の生活に使っていただいて、カラダとココロがより楽な毎日を、楽しい毎日を送っていただけたらなと思っています」
「感情のモヤモヤがスッキリして、仕事もはかどればいいな~」と軽い気持ちで参加したイベントでしたが、ココロに対してカラダからアプローチする効果を、納得できた内容でした。
和葉さんは現在、クラニオセイクラルセラピー(頭蓋仙骨療法)の施術者として活躍されるだけでなく、独自のメソッド「PBM(プレゼンス・ブレイクスルー・メソッド)」を展開されています。
さらにピーター・リヴァイン博士の開発したSE(ソマティック・エクスペリエンス®)という、身体志向のトラウマ療法を学び続けていて、それらの成果が本書にはギュッと詰め込まれているそうです。
その“進化し続けるボディーワーカー”和葉さんをして、「カラダからのアプローチは、コストが低くリスクも少ない」とのこと。
特別な知識も道具もいらず、いつでも・どこでもすぐできる。カラダとココロをシンプルに扱えそうという手応えは、誰にとっても大切なことだと思います。
お二人の対談は、日常に役立つエクササイズから、深~い話までもりだくさんで、どこまでも深く追究していけそうでした……。でもまずは私、目の前の仕事を片付けて今のモヤモヤなくします!
(了)
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