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様々な門派がある中国拳法の中でも、恐らく世界的に最も普及しているのが太極拳であり、その源流とも言えるのが陳氏太極拳だ。
その陳氏太極拳の創始者直系伝人であり陳氏二十世・陳沛山先生がこの程、『大図解 陳氏太極拳』を日貿出版社より発表した。本書では、陳氏太極拳の歴史から理論、技法までを網羅、一路はもちろん、炮捶とも呼ばれる二路を完全掲載。高速度撮影により空中姿勢を含む、激しい動きも全2241枚の連続写真で紹介している。
そこでコ2【kotsu】では、本書の発売を記念して、数回に渡り著者である陳沛山先生に、本書とご自身の修業の道程を伺った。
コ2【kotsu】特別インタビュー
『大図解 陳氏太極拳』発刊記念、
陳氏二十世 陳沛山老師 第一回
語り●陳沛山
聞き手・構成●コ2【kotsu】編集部
太極拳の全体像を伝える大著が完成!
コ2【kotsu】編集部(以下、コ2) 『大図解 陳氏太極拳』の発刊、おめでとうございます。見た目も、内容も、これまでにない大ボリューム(上製本B5判、535ページ、厚さ3センチ、重さ1.3キロ、6000円(税別))で、まさに大著ですね。本書の制作のきっかけを教えてください。
陳 日本には太極拳を練習する方がたくさんいますが、単純に健康のためにやっている方が多い。大半の方は、健康体操と考えているのではないでしょうか。もともと太極拳に備わる武術の要素を認識している方は少ないように思えます。
それで私は、ずっと以前から、太極拳の本来の姿、全体像を伝える書籍を作りたいと考えていまいした。今回、その機会を日貿出版社から与えて頂きましたことで、その考えを実現できました。
コ2 それで本書には、基本功や套路だけでなく、歴史や理論、対練にも多くのページを割いていますね。本書の全体像について、簡単に説明していただけますか?
陳 本書は4編で構成されています。第一編は基本理論、第二編は小架第一路 基礎架、第三編は小架第二路 炮捶、第四編は対練です。
第一編の基本理論では、陳一族及び陳氏太極拳の歴史と系統、代表的な拳師を紹介しています。また、陰陽太極理論や太極図が中国でどのように生まれてきたのか、ということについても詳しく説明しています。陰陽理論と太極拳との結びつき、陰陽太極と経絡理論の関係についても触れています。
コ2 確かに、様々な種類の太極図が掲載されていて、興味深いですね。
陳 第一編では、太極拳の学習方法についても詳しく解説しました。どんな学習段階があり、どうやって太極拳を実戦で使えるまでに至るか、という話題は、読者に太極拳の全体像を理解してもらうために重要であると考えています。
コ2 太極拳の学習に段階あるということを知らなければ、ただ漫然と套路を繰り返すだけになってしまいますから、これも重要なお話だと思いました。
陳 本書の第二、三編で套路を紹介しています。第二編で小架一路 基礎架、第三編で小架二路 炮捶を紹介していますが、この二つが一冊に揃っている書籍は日本では珍しいです。
そして、第四編は対練についてまとめてあります。推手の定型練習、推手の用法、套路の使い方、そして散手的な表現まで、対人で太極拳を用いる場合に必要な一連の段階的学習法を示しています。太極拳の「武」の表現ですね。
太極拳の原風景
コ2 太極拳の歴史を紹介する章では、代表的な拳師を紹介していますね。特に、沛山先生のお父上・陳立憲師、叔母様・陳立清師についての記述は、大変興味深く読ませていただきました。
陳 私は、父と叔母から太極拳を教わったので、他の先祖の方たちよりも多く文章を書いています。他の遠い先祖とはお会いしたことはありませんが、私が実際に手を取って教えてもらった二人のことを、ちゃんと伝えておきたいですから。
コ2 先生は何歳の頃から太極拳の練習を始めたのですか?
陳 実は、よく覚えていないのです。記憶があるのは、文化大革命の少し前の頃だったと思いますが、気が付いたらすでに太極拳の練習に参加していました。私が1962年生まれで、文革が始まったのが1966年頃。私の住んでいた地方に激しい影響が出始めたのが、1967年くらいですから、私が3、4歳くらいのころの記憶です。
私の家の庭に、毎晩、たくさんの人が太極拳の練習のために集まってきていました。練習前には皆、思い思いに話しをしている様子が思い出されます。あの頃は、娯楽も少なかったですし、自然に私の父のところに集まって、世間話をしたり、情報交換をしたりしていたのです。
コ2 なるほど、太極拳を中心に一種のコミュニティを形成していたのですね。何人くらいの人が集まるのですか?
陳 今のように名簿があるわけではないので、定かではありませんが、何十人もいたように思います。
コ2 今の日本では、体育館などの公共施設の中で練習をするのが普通ですね。
陳 当時は、公共の体育館が少なく、体育館は限られた選手しか使えない場所でしたから、太極拳の練習はもっぱら庭で行っていました。ですが、私の家の中にも練習場所があって、長方形の建物の両端に居住スペースがあって、真ん中に練習できる場所がありましたね。
文化大革命中の練習着は、いわゆる人民服でした。ちなみに、「人民服」という言い方は、日本の方がそう呼んでいるだけで、中国ではそう言う表現はしません。中国では「中山装」と呼びます。学生の場合は、学生服を着ていたのですが、「中山装」や解放軍の軍服に近いような服装でした。
コ2 そうなんですね!
陳 練習中は、だいだい先生は椅子に座っていて、生徒は立っている。生徒は必ず先生のために椅子とお茶を用意しておく。これは中国の礼儀ですね。
生徒が各々で練習をしていて、先生が指導を始めると、指導を受けていない生徒も先生の言っていることを、耳を澄ませて聞く。動いてもいいのですが、生徒は誰も音を立てないように気をつけるので、しーんと静かになっている。そんな場面をよく覚えています。
コ2 それが先生にとっての太極拳の原風景なんですね。
陳 文革が始まると、私の父のもとに弟子たちが集まって練習することは、当時の政府にとっては好ましくないもの。政府は民衆が集まることに対して警戒をしていたのです。拝師の儀式のような古い伝統については、やってもいけない、言ってもいけない、という時代でした。幸い、私の家では太極拳の技と知識の多くを残すことができましたが、失われてしまった伝統もあるのです。
コ2 それは残念なことですね。
陳 私の場合も、本来は子どもの頃に拝師しておくべきだったのですが、時代がそれを許さなかった。でも、大学に入学する直前に、やはり伝統を受け継ぎたいと思い、父親に拝師しました。すでに弟子ではあったのですが、改めて儀式をして誓いを立てたわけです。
私の二人の息子は、長男の紹華が4歳、次男の紹康が3歳の時に、中国に帰った際に私に拝師をしました。ロウソクを立てて、ご先祖様に誓いを立てる時、私の家内や参列者たちは涙を流していました。
コ2 感動的なお話ですね。
(第一回 了)
太極拳の創始者直系伝人、陳氏二十世 陳沛山が陳氏太極拳の歴史・論理・技法を網羅した決定版! 上製本全535ページ、連続写真全2241枚による詳細な解説写真で、ビデオでは分からない細かな動きをしっかり確認できます。 収録内容は、小架一路はもちろん、これまであまり公開されることのなく、“陳氏太極拳の源流”とも言われる貴重な小架二路(炮捶)を完全公開。激しい動きも高速度撮影で完全にフォロー、気になる空中姿勢もしっかり分かります。さらに推手、套路用法、実戦用法まで網羅した歴史的な一著です。
大型本: 535ページ
定価:6000円(税別)
出版社: 株式会社 日貿出版社
言語: 日本語
ISBN-13: 978-4817060150
発売日: 2016/7/21
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