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いよいよ10月14日(金)に迫ってきた第2回ソマティックフェスタ。 すでにコ2【kotsu】でもお伝えの通り、今回はソマティックフェスタさんからお声掛かりを得て、コ2【kotsu】コラボ講座が行われる。
そこで開催まで残り10日を切った今だからこそ、改めてソマティックフェスタになぜ今回、本WEBマガジンコ2【kotsu】とのコラボ講座“ソマティックアーツ:身体術WITHコ2PRESENTS”を企画されたのか、仕掛け人の有本匡男氏にお話を伺うとともに、それぞれのコラボ講座についての見所・期待のポイントをご紹介頂いた。
コ2【kotsu】特別インタビュー
ソマティックフェスタ&コ2 コラボ企画記念
有本匡男氏に訊く 第四回
ソマティックと武術の邂逅! 〜“刀禅”が秘める、ブレークスルーの可能性
語り●有本匡男
取材・構成●コ2【kotsu】編集部
セラピストが刀禅から学べるもの
コ2編集部(以下、コ2) では、次は講座解説文で一際異彩を放っている小用茂夫先生による刀禅です。これはコ2側からお薦めさせて頂いた経緯がありますね。
実は、有本さんから今回のコラボ企画のお話しを頂いた時にパッと頭に浮かんだのは小用先生でした。有本さんにも一度、刀禅の稽古会に参加して頂きましたが、改めて小用先生の印象はいかがでしょう?
有本匡男(以下、有本) そうですね、高名な先生方はそうなのかもしれないですけど、攻撃性が全然表に出ていないという意味で、小用先生は僕が理想とする武術の先生の雰囲気を体現されている方ですね。いい意味で、“入りやすい”という雰囲気があって、それは意図的ではないとは思うんですけど、そうした佇まいが印象的でした。
それでいて、実際にすごく強いというのは憧れるあり方ですね。
様々な強さの基準がありますが、多様性がキーワードの現代に必要な強さというのは、受け入れられる強さではないかと思っています。心理の現場で使われる“バウンダリー(境界線)”という言葉があるのですが、外部との境界線を固くして受け入れないことで自分を守るという強さではなく、「いつでも来ていいですよ」というところから始まるタイプの強さというのは、セラピストに必要な強さだと思います。
コ2 セラピストもバウンダリーが固いタイプの方がいらっしゃるんですか。
有本 僕が知る限り多いです。もちろん固いのがダメではなく、場において固めたり緩めたり適切な境界線の設定ができることが大事です。
そのためにセラピストにとってまず自身の境界線を知る必要がありますが、自分が傷つかないように、あらかじめバウンダリー(境界線)を強く、固くしておくということを無自覚で行っている方が多いですね。
コ2 予防線を張っておくわけですね。
有本 ええ、元々もあるでしょうし、逆にクライアントとして関わる方が適切なバウンダリーではない方だったりすることも多いので、影響を受ける部分はやっぱりあります。
コ2 予防線を張るのは、先ほどの「もらう、もらわない」に関連して、護身的には正しいこともあるのでしょうが、あまり固いとセラピストとしてそれが壁になることもありそうですね。
有本 はい。ある種、“受容”というのがセラピストにとっては大事なテーマでもありますからね。そういう意味では、自分自身の許容範囲というものを増やしていく、器自体を広げていくということは、セラピストとしてずっとついてまわる課題だったりします。
セラピストにとって“完全で、でも不安定な自分や他人、この世界というものをどこまで受容することができるか”というテーマに関して、小用先生の姿勢から沢山のことを学べると思います。
刀禅はブレークスルーの切っ掛けになる!?
コ2 実際に小用先生に触れてみることで、面白い体感を得られるかもしれませんね。有本さんは刀禅の稽古を体験されていますけどいかがでしたか?
有本 そうですね、本当に楽しく体験させていただいて、その後、伺えないのが残念なくらいです。いまでも自宅で教えていただいたことをちょっとやってたりしますが、シンプルな動きのなかで、集中の持続を求められるメソッドだと感じています。
セラピストでも外に対して敏感な方だと、意識を自分のなかに置いたまま動くということが苦手なことも多いんですよ。ですから刀禅のワークでの、センターを意識した状態を保持して、意識をそこに留めておきながら動くというのは、止まった状態でのマインドフルより一歩進んだ感覚で、ボディワーカーが身につけるとより実践的ですごくいいと思います。
コ2 刀禅の稽古のポイントは、一人で型を行ったりするのではなく、対人で行うことにありますがそのあたりはいかがですか。
有本 そこはまさに僕は武術の中に求めているところですね。結局、セラピーも人とのコミュニケーションなわけで、どんなに知識的に勉強しても、実際、人と相対してやるということをしないと、身にはなりにくい部分はあります。
刀禅のように実際に人と向き合って、近い距離のなかで相手の動きを感じながら動き合うというのは、すごい質の高いコミュニケーションだと思います。これはまさに武術ならではないでしょうか。
多くのセラピーのメソッドは、関係性がやる側と受ける側という一方通行になりやすいところがあって、それとは違う、互いに双方向で行う刀禅の稽古は、普段なかなか学べない体験ができるんじゃないかと期待しています。
小用先生も「対人であるというところに意味がある」と仰っていましたが、それは体験させていただいて、本当にそうだなと思っています。
コ2 体に関することで、結果が伴うスポーツは別にして、それが“正しいか、正しくないか”、“できているか、できていないか”を確認する場面って実はなかなかないように思えます。刀禅の場合は対人で行うので、脳内だけのイメージにならないのが面白いかと思います。相手の力を受け入れるんですけど、でも、それに乗っかりすぎて崩れはしない自立性というのが非常に大きなポイントで、そのあたりはもしかすると、施術の方にとっては新しい気づきがあるかもしれませんね。
有本 私が体験した稽古でも相手と組むことで自分の軸を意識しやすくなる、という感じが一人の時よりあったんですね。まさに対人稽古ならではの部分だと思います。
コ2 実際に施術などの技術を習得の過程のなかで、うまくできている、できていないみたいなものを、確認する作業というのはあるのでしょうか?
有本 施術をして「どうでした?」という受け手からのフィードバックが中心ですね。あとはどうしても自分の主観頼りになるところはあります。
ただ、その主観を磨くということはできるんです。ボディ感覚、身体感覚を高めることで、技術がうまく使えているか、使えていないか、自分が成長しているかという現状を認識する感覚も育ってきます。
刀禅の場合は組んで押されたときに、軸が自分の中にはっきりできるイメージがあったので、その感覚を持ち帰って、自分の手技等で確認することで、その感覚が動きの中で保てているかどうかを主観的に感じやすいと思います。3
コ2 それはかなり高度な話ですね。
有本 そうですね、少し高度な話です。
コ2 そういう意味では、刀禅の稽古のプロセスというのは、相対的な稽古のなかでフィードバックの正確性を補完する可能性はあるのかもしれないですね。
有本 特に小用先生にもお話ししたんですけど、やはり“禅”というものが名前についているということが、ある種、高度なところまでいける要素だと思うんです。座禅にしろ、そのまま止まっているところで、自分の内側を見つめていって、例えば執着の手放しが起こったりするわけですね。
身心の動きたいところをあえて留まって自分を見続ける。それって、質を深めたり、さらに変容、自分の中でのブレークスルーを起こすうえでとても大事な方法だと思うんです。
刀禅の場合、相手との押し合いの型を維持したままゆっくりゆっくり自分の感覚も維持して動いていくことによって、それ(ブレークスルー)が生まれるのではないかと思っています。通常の施術はもちろんですが生活のなかでは、なかなかゆっくりじっくり押していく、ということはないですからね。刀禅は高度な自分の内的感覚作りに対してとてもよいサポートになるだろうなと。
コ2 恐ろしく地味ですけどね(笑)。
有本 そうですね、まさにあの地味さを味わってほしい(笑)。“どれだけ待てるか”ということって、とても大事なことなんですよ。やっぱりすぐ結果が欲しくて逸ってしまうんですよね。でも、それを抑えることによって、感覚ってすごい高まる。また、一人で行う坐禅と違い、対人で少し立って動きながら行うことで気づけることがあるんですね。またその時その時に目的が設定されている分だけ、人によっては座禅とかに比べてやりやすいと感じる部分もあると思います。
コ2 確かに当たり前ですが成長する過程ではある種の短期の“なにをやるのか”という目的があったり、一人より対人で第三者的な存在を置くことによって、明確化するというのはありますね。逆に言うと、この相手が居ることで対抗するような動きが出てくるというのが、また難しく面白いところですね。
有本 そうですね。あとは、これはすごく手前味噌な話ですが、稽古で僕自身が動いたときに、「いいですね」という風に言っていただいたりして、それがお世辞だとしても、自分の中で今までやってきていたことが、そのまま刀禅のなかで“動きとして確認できる部分はあったな”と感じたんです。
逆に言うと、刀禅を行うなかで、そういう意識を使う別のメソッドにも還元される部分を確認できたことは僕の中で大きな発見でした。
コ2 小用先生ご自身、「刀禅は基盤だからなんにでも使えるんですよ」という言い方をされているので、今の有本さんの感想はやっぱり通じるのだな、と思いました。
有本 小用先生は刀禅を武術という枠組みのなかでされているのではないのでしょうか?
コ2 先生ご自身は「刀禅は武術ではなく日本発のボディワークです」と仰っていますね。
有本 なるほど、そうですか。武術はもともとは活殺自在ですよね。生かすも殺すも、方法を知っているからどちらでもいけるという意味ですが。実際に武術から整体技法が生まれた側面もありますし、傷ついた兵士をすぐに戦地に戻すということが必要だったわけで。そういう意味では、武術と治療って、陰と陽の関係ですよね。
今お聞きした刀禅の武術的な要素を持ちながら、それをボディワークとして平和利用するという姿勢にはすごく共感できますし、先生がボディワークという表現に拘っていらっしゃるのは、僕は凄く嬉しいですね。
コ2 是非、“日本発のボディワーク”を味わっていただきたいですね。
有本 本当に面白かったですからね。和ということでは能とかにも通じますよね。日本古来の能とかで培われたインナーマッスルや、内側から体を使えるようにするための身体技法と共通する、質の高いメソッドだと思います。多くのボディワーカー、武術家が受講するのも納得です。
コ2 分かりました、ありがとうございます。
(第四回 了)
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