対談 横山和正×小野美由紀 沖縄空手を巡る対話 03

| 横山和正、小野美由紀

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本サイトで「沖縄空手の基本」を連載されている横山和正師範と、この連載を読んだのを切っ掛けに沖縄空手に入門した作家・小野美由紀さんの異色の対談を、数回に渡ってお届けします。

三回目の今回は、横山先生の台湾時代の気づきと正中線のお話しです。

対談/横山和正(空手家)×小野美由紀(作家)

第三回  台湾時代の“気づき”と“正中線”

語り横山和正、小野美由紀
構成コ2【kotsu】編集部

 

「雑な空手」に真実があった!

小野 その後、台湾に武者修行に行かれたそうですが、その時にも同じようなことを感じられたんですか?

横山 そうですね。台湾は衛笑堂という方に教わったんですが、この先生が韓国で暴動に巻き込まれた時に、人を殺してしまって逃げてきた人なんですよ。中国でも政治の問題で奥さんと子供を目の前で殺されたりといった経験をした先生なんです。それだけに実戦をよく知っている。運良くその先生に習えたお陰で、色々なことに気づきましたね。

日本の空手をやっていた時に、組手での強さや型に対しても疑問があって、型の稽古なんてほとんどやったことなかったんですよ。子供の頃からやってる空手だけど、型の練習とかつまらない。道場では基本、移動稽古、組手とやって型で締めくくるんですが、とにかく基本の練習が大嫌いになっちゃって。だから基本が終わるまで外でぷらぷら遊んで、基本が終わる頃に入って組手やって満足して、最後の型は整理体操ぐらいに思ってましたから。それで型が下手で昇級審査を落とされたりするんですよ。そのくらいいい加減だったんですけど、頭の片隅にはあったんですよね。なんで型をやるんだろうって

でもそれを説明してくれる人も、見せてくれる人もいなかった。それで武道を考え直すために台湾に行ったんです。そこで出会った衛笑堂先生の教え方って、普通の中国武術と違うんですよ。理論的なこと抜きでまず動かされる。行ったらいきなり「空手を見せてくれ」と言われて、空手の型をやったんです。(参照:瞬撃手が解く、沖縄空手「基本の解明」第三回「衛笑堂老師のこと」)すると衛先生が「彼に動きを習いなさい」と若手の方を紹介してくれたんです。それで習った動きを衛先生に見せたら「なかなか良いな。明日から来なさい」と。

こうして学び始めて思うようになったんですが、それまで空手の動きってぶつ切りの基本の動きをくっつけたようなイメージだったんです。型から型への連結が不自然だな、と。でもそれは昇級、昇段審査のための型で、型が大事だと言いながらも、審査用に流れていたんだと思うんですよ。自分がそれまでやっていたのは。で、衛先生のところで型を習ってみると、空手に限りなく似てたんです。でも動きの流れが違う。動きと動きがうまく繋がっていて、衛先生が技を見せると繋がりの全てがコンビネーションとして組み立てられている。それまでは遠間からバーンと突いてたのですが、相手を崩して動けなくしてから打つ。身体全体を使って一つの技を構成する。そういう全体像が見えたのです。それが衛先生によって感じられて、その後に型を練習し、実は全部が大事だったってことが分かってきた。空手の突きもただ手を動かすだけじゃなくて、全身を動かしていく。部分の動作ではなく、全身の全てがその部分に収斂されて、技をかける時も全身を使う。だから型も全身を動かす。だから「ああ、型って動くんだなあ」と。

横山和正先生
横山和正先生

 

武術の達人って、たいして動かなくても、相手がぱたっと倒れるイメージがあるじゃないですか。でも自分は衛先生のところに行って、「やっぱ動かないとダメだよなあ」と思うようになって、「では、どう動いたら良いのだろう?」と。やっぱり動くことで身体って研ぎ澄まされてくるじゃないですか。動くことには必ず恩恵がありますから。それでまず動くことから始まって、その中で自分を鍛えていくという感じがあったのですよね。その時にピンと来たのが、空手なんです。やっぱり日本人だし空手に戻ろうと。これは空手の中でもやれることだから、と。でも自分の空手に足りないものを補うには、試合向けに流れてしまった現代の空手はあまり向いていない。だったら空手の原点と言われている沖縄の空手を勉強して研究を進め、自分の空手を完成させようと思ったのです。それで沖縄に行きました。

 

正中線は綿菓子みたいなもの

小野 正しく理解できてるか分からないんですけど、先生の本で書かれているような「正中線」とか、腰の使い方とかって私が通っている道場ではあまり言われないんです。そこも私がいいなと思っているところなんです。部分に分解して教えない、という教え方。そこはどうでしょう?

横山 例えば綿菓子ってあるじゃないですか。これをバッと振ると綿菓子が飛んで行って、芯の割り箸が残る。それと同じで、動かなかったら綿菓子は箸にくっついたまんまですよね。だからやっぱり根本に戻るには動いて振り切っちゃったほうが良いと思うんですよ。正中線もそのようなものです。

小野 へーっ! 動くことで正中線ができる、と。

横山 今は情報が色々とありますから、練習する前に色々と仕入れて全部やろうとすると、変なクセがついちゃうんですよ。またそういう情報を全部知らないと空手ってできないの? ってことになる。でも少なくとも自分はそうじゃなかった。それに姿勢をまっすぐにするとか当たり前のことじゃないですか。そこを正中線がどうのこうのと話を難しくしてしまうと、考え過ぎて動けなくなってしまう。でも綿菓子がついた箸を振り切れば綿菓子が飛んで行って、その中心にあった箸が現れる。動けば自然に余計なものが削り取られて、洗練されて来る。だから乱暴な言い方ですけど、自分としてはあれこれ理論を考える前にまず動いてみようと。速く動けるように、力強く動けるように、構造的に安定して動けるように、と、定められた姿勢の範疇で動いて、動いて、動き続けていくうちに洗練されてそうなってくる。より根本的な部分も含めて鍛えられながら、研ぎ澄まされていく。削ぎ落とすだけでなくて、同時に鍛えて向上させるという二つの作業が同時にできてくる

姿勢が悪いのを特に直さないでもバンバン号令をかけていくと、号令に合わせて突こうとしてだんだん姿勢が良くなってくるということもあります。悪い姿勢だと突けないですから。でも型をやりながらいちいち中断して直していくと、その前の動きとの繋がりが断裂しちゃうでしょ。だから型を大きな森とするなら、まず森全体を見渡してから、森に入って木を一本一本理解していくのが本来のやり方じゃないかと。でも現代はいきなり一本一本の木を見ようとしちゃうから、なかなか全景が見えてこない。音楽もそうですよね。一音、一音、正しく出そうとしたら音楽になりません。まずは下手でもなんでも最後まで終わらせる。曲を全部弾いてみないと分からないですからね。一音ずつ切り離すのではなく、全体の流れの中でみていかないと。型も同じだと思うんですよね。細かい事を直すのはその後ですよ。

作家・小野美由紀さん
作家・小野美由紀さん

 

小野 正しいか正しくないか判断しながら、いちいち不安に思いながらやっていってもなかなか身についた感じがしないんですよね。

横山 そうですね。だいたい、正しいとか正しくないとか誰が決めているのかと。

小野 そうですよね。

横山 やっぱり自分自身が磨かれていって、力が出るようになるのが正しい動きじゃないですか。もちろんこちらから見て、骨盤が左右均等でなかったり背骨が曲がっていたりして、ホースが曲がって水が流れにくくなっているような状態になっていることはあります。でもそれは本人が動きの中で感じていくものだと思いますよね。……話、硬すぎませんかね? 女性が相手の対談って初めてだから、イメージがつかめなくって(苦笑)

小野 最初より柔らかくなってきた感じがありますよ(笑) 分かりやすいですし。

コ2編集部 女性の生徒はいるのですか?

横山 アメリカにはいますね。日本にもぽつぽついます。

コ2編集部 教え方の違いとかありますか?

横山 同じですね。

(第三回 了)

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–Profile–

横山和正(Kazumasa Yokoyama
本名・英信。昭和33年、神奈川県出身。幼少の頃から柔道・剣道・空手道に親しみつつ水泳・体操 等のスポーツで活躍する。高校時代にはレスリング部に所属し、柔道・空手道・ボクシングなどの活動・稽古を積む。

高校卒業の年、早くから進学が決まった事を利用し、台湾へ空手道の源泉ともいえる中国拳法の修行に出かけ、八歩蟷螂拳の名手・衛笑堂老師、他の指導を受ける。その後、糸東流系の全国大会団体戦で3位、以降も台湾への数回渡る中で、型と実用性の接点を感じ取り、東京にて当時はめずらし沖縄小林流の師範を探しあて沖縄首里空手の修行を開始する。帯昇段を期に沖縄へ渡り、かねてから希望していた先生の一人、仲里周五郎師に師事し専門指導を受ける。

沖縄滞在期間に米国人空手家の目に留まり、米国人の招待、及び仲里師の薦めもあり1981年にサンフランシスコへと渡る。見知らぬ異国の地で悪戦苦闘しながらも1984年にはテキサス州を中心としたカラテ大会で活躍し”閃光の鷹””見えない手”と異名を取り同州のマーシャルアーツ協会のMVPを受賞する。
1988年にテキサス州を拠点として研心国際空手道(沖縄小林流)を発足する。以後、米国AAUの空手道ガルフ地区の会長、全米オフィースの技術部に役員に籍を置く。
これまでにも雑誌・DVD・セミナー・ラジオ・TV 等で独自の人生体験と古典空手同理論他を紹介して今日に至り。その年齢を感じさせない身体のキレは瞬撃手と呼ばれている。近年、沖縄の空手道=首里手が広く日本国内に紹介され様々な技法や身体操作が紹介される一方で、今一度沖縄空手の源泉的実体を掘り下げ、より現実的にその優秀性を解明して行く事を説く。

全ては基本の中から生まれ応用に行き着くものでなくてはならない。
本来の空手のあり方は基本→型→応用全てが深い繋がりのあるものなのだ。
そうした見解から沖縄空手に伝えられる基本を説いて行こうと試みる。

書籍『瞬撃手・横山和正の空手の原理原則』

ビデオ「沖縄小林流空手道 夫婦手を使う」・「沖縄小林流空手 ナイファンチをつかう」

web site 「研心会館 沖縄小林流空手道
blog「瞬撃手 横山和正のオフィシャルブログ

 

小野 美由紀(Miyuki Ono
文筆家。1985年生まれ。慶応義塾大学フランス文学専攻卒。恋愛や対人関係、家族についてのブログやコラムが人気。デビュー作エッセイ集「傷口から人生。〜メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった」(幻冬舎)を発売。著作に、自身のスペイン巡礼の旅を記した『人生に疲れたらスペイン巡礼~飲み、食べ、歩く800キロの旅~』(光文社新書)、原子力エネルギーの歴史について描いた絵本「ひかりのりゅう」(絵本塾出版)がある。

Twitter:@MiUKi_None
ブログ:http://onomiyuki.com/