この記事は無料です。
2017年7月7日金東京・八重洲ブックセンターにて、コ2【kotsu】でも「超人になる」を連載中の長沼敬憲先生と、沖正弘師の直弟子でもあるヨガ指導者・龍村修先生との対談が行なわれました。お二方とも、近著を出版されたばかり。その記念イベントとして「ミトコンドリアと呼吸」の深い関係について、科学的知見とヨガ・瞑想の観点から語っていただきました。
『龍村式指ヨガ 脳と体のセルフケア』
『ミトコンドリア“腸”健康法』(日貿出版社) ダブル出版記念
対談/龍村 修×長沼敬憲
ミトコンドリアとヨガ・瞑想、呼吸で繋がるカラダの世界
第2回 呼吸は私たちを生かすチカラ、生物が進化する源となる
語り●龍村 修、長沼敬憲
構成●大場敬子
協力●八重洲ブックセンター
実践!肩コリの方にお薦めの“指ヨガ”
司会 では、ここで実際に「龍村式指ヨガ」をいくつか指導していただけますでしょうか。
龍村 修(以下、龍村) わかりました。この会場の中で「指ヨガ」をやったことがない人はいらっしゃいますか はい、何人かおられますね。では、ちょっと実験してみましょう。まずは今の状態をお聞きしますね。肩が凝っている方は? 分かりました。
まず、手をひとつの自分の全身だと考えます。その時に、真ん中の指が背骨、人差し指と薬指が左右の腕、そして親指と小指が左右の足だと考えてください。そして、両足を広げて四つん這いになっているヨガの脚を広げた「犬」のボーズの恰好、それを自分の手だと捉えます。
もし肩が凝っている人は、肩甲骨に対応する薬指の関節と、人差し指の関節をまわしてみてください。すると、凝りがとれてきますよ。変化が分かりやすいのは、両腕を頭上に伸ばしてみると、短いほうがありますよね。そして、腕をまわしてみて凝り具合を感じてみましょう。
次に、人差し指の根元を中心に回まわします。この時に、息を吐きながらやるのです。吸って、吐きながら。また吸って、吐きながら今度は反対向きにまわして。最後に人差し指を引っ張っておきましょう。中指と薬指の間、中指と人差し指の間は、肩こりによく効きます。自分の親指を中指と人さし指、中指と薬指の間に当てて、キュッキュッ、キュッキュッと揉んでください。フーと息を吐きながら。痛いところがあったら、痛いほうを多めに揉みましょう。あとは、指を逆方向に反らしておきます。すると、なんか軽くないですか 腕が短かったほうが、長くなっていませんか 時間をかけて行なうとより分かりやすいですよ。
もう一つ指ヨガをやってみましょう。
次は首が凝っている人におすすめの方法です。まず、カラダは反らさずに首だけ天井を見上げてください。どこまで見えていますか ?見えた場所をマークしておきます。逆に今度はあごを引いて下を見下ろしてください。胸のどのあたりまで見えたかを覚えておきます。次に、カラダを動かさずに、首だけを横を向くようにねじって行き、横目で左右がどこまで見えたか?と覚えておきます。最後に、ぐーっと首をまわしてみて、今の凝りを感じてみてください。指ヨガでは、首の凝りを取る時は、中指を使います。
中指の先端が頭、第一関節と第二関節の間が首に相当します。第一関節と第二関節近くを持って、ねじったり、伸ばしたり、これからします。まず爪の両側をつかんで、息を吸って、吐きながら第一関節を狙って、右回し10回、左回し10回、回します。次に第二関節も同様にして、また吸って吐きながら左右10回ずつ回します。終わったら中指を引っ張って、逆側にぎゅーっとそらしておきましょう。
どうですか? さっきよりも上下左右がよく見えるようになっていませんか 首の凝りはどうでしょうか。少し取れてきていませんか?
この方法は、テレビに出た時にも行なったところ、アナウンサーの方が効果を実感していらっしゃいました。手が脳や全身と関係しているというのを利用するなら、すき間の時間に行なうのがおすすめです。電車に乗っている時もいいですね。研修の合間にやると、勉強が進みますよ。カラダの凝っている部分をとるのは、割と簡単です。
もし、カウンセリングなどを行なう方々なら、クライアントが来られた際に、お話を聞く前に手を出してもらって、手のひらや手の網を揉んだり、指をまわしてあげたりすると、心の硬さがとれて緩むのか、コミュニケーションのとれる度合いが高まります。いきなり話を聞き始めても、心が開かれず、なかなか進まないですからね。そんなことも可能でしょう。
息を“吐く”こと
司会 ありがとうございます。ちなみに龍村先生は今回、長沼先生の著書を読まれて、お聞きしたいことがあると伺ったのですが。
龍村 呼吸との関係はこれまでも長らく勉強してきたので、酸素を取り入れ、エネルギーをつくるということは理解できるのですが、多くの本に書かれているのは、物質としての酸素との関わりばかりですよね。でも、ヨガのような伝統的な方法による呼吸では「吐くことの重要性」を説きます。吐くことでカラダから外に炭酸ガスが出るのは分かるのですが、ミトコンドリアレベルでは「吐く」ことをどのように理解したらいいのかということをお聞きしたかったのです。
長沼敬憲(以下、長沼) 吐くことによって二酸化炭素を出しているのは、もちろんミトコンドリアの働きの一つですが、通常はそこだけ取り出して深く語られることはないですよね。
口から摂取した食べ物については、消化管で徐々に分解され、最終段階の腸でアミノ酸、脂肪酸、ブドウ糖といった分子にまで小さくされた状態で体内に運ばれていきます。そこから血液で細胞に運ばれて、解糖系を経てミトコンドリアにたどり着くまでにさらに細かく分解されていきます。
このミトコンドリアでエネルギーがつくりだされる最終過程、電子伝達系のプロセスに肺から取り込まれた酸素が入ってくるんですね。
ブドウ糖も脂肪酸もアミノ酸も、ミトコンドリアの最初の行程である「TCA回路」の中でぐるぐる回って、酸化還元しながらNADHという物質を作り出していきます。この物質が、電子伝達系に運ばれていき、5つあるうちの4番目のステップ(複合体Ⅳ)で、酸素とつながります。NADHが運ばれていく過程で水素が放出されていきますが、この段階で食べ物(水素)と呼吸(酸素)が結びついて水に変わることで有害だった酸素が無害になる。そんなややこしいことを、細胞の中でずっと行なっているんです。
つまり、私たちがなぜ食べて呼吸をしているかというと、ミトコンドリアの働きの最終段階でまず酸素を無害にするため。そして、たくさん出された水素を使って、次の5つ目のステップ(複合体Ⅴ)でATP(アデノシン三リン酸)というエネルギーの供給源がつくられ、これが燃料電池のような役割を果たします。ここまで分かるのに100年以上かかっています。こうしたノーベル賞クラスの研究が、いまも続いているんです。
説明が長くなってしまいましたが、こうした過程で食べ物から取り込まれた炭素が酸化し、二酸化炭素が作り出されます。これが呼気として外に出されますわけですね。でも、なぜ息を深く吐くと 健康につながるのか? ということは、科学的にはあまり探求されていないように思います。
そもそも、栄養学でも「入れる」ということばかりが重視されてきました。何を食べれば良いのか、どんな栄養が良いのかということはいろんな情報がありますが、いかに出すか、どうやったらカラダに溜まったごみを出すことができるのか、というのはようやく分かってきた段階かなと思います。
もちろん、生きていくために尿や汗によって老廃物が排泄されることはわかっています。息を吐くことによって、肺が動くと同時に腸も動きますよね。すると、消化器官の活動がさかんになります。消化の過程で生まれた有害なガスが、便や吐く息として排出されるということはあるでしょう。
でも、ヨガで探求されているような「なぜ吐く息のほうが重要なのか?」ということは、これから解明される部分という気がします。
私たちを結びつけている力“プラーナ”
龍村 実際に私たちが呼吸するときは、できるだけたくさん吐くことで、あとは自然に吸う息が入ってきます。肺には容量がありますから、肺が4000CCだとしたら、約400CCは普通の時は400CC位が出入りしている状態。残りの3600CCは、肺の中で淀んでいるのです。その淀んでいる中に、体の老廃物が溜まったままになってしまう。
空気中には約20パーセントの酸素が含まれているのですが、ふーっと深呼吸をすると、空気中の酸素量は変わらないのに、気持ちがいいですよね。それはなぜかというと、炭酸ガスを吐くとともに、カラダの中に溜まった老廃物が出ていくから、心地よさを感じるのではないでしょうか?。龍村はその様に理解しています。
長沼 それはあり得ると思います。呼吸に関しては、酸素がミトコンドリアのエネルギー産生に関わっていることは科学的にも分かっていますが、それだけではなく、空気の気は「氣」ですよね? インドでは「プラーナ」と呼ばれ、生命を成り立たせているエネルギーと考えられています。そうしたものを想定しないと生命の本質に近づけないと思いますが、この種のエネルギー的なものはなかなか科学では扱えないところがあります。
たとえば、吸うときに酸素以外のエネルギー的な何かを取り入れている可能性はあるだろうし、そこに呼吸によってカラダの内外にあるものを出し入れする、生体コミュニケーションの本質的な意味があるのかもしれません。
つまり、生命を活性化させているのは、本当に酸素だけなのか? ミトコンドリアを元気にさせている要素はほかにないのだろうか? このあたりを科学でどこまで追求できるのか、ロマンは感じますがまだまだ未知数の領域でしょうね。
龍村 「プラーナ」って言葉が今出ましたね。私がヨガを始めた頃、「プラーナってなんですか酸素ですか」と、師匠(沖正弘師)に聞いたことがあったんですよ。すると師匠が、「違う、それは生かしているチカラなんだ」とおっしゃった。それを聞いてはっとしました。最初は、生かされているという意味がよく分からなかったんです。
私たちは、食べ物を食べるときに、タンパク質が多いとかビタミンが多いとか、物質に分解して考えますよね。けれどプラーナって、空気だけじゃなく食べものにも当てはまります。物質に分解する前の考え方に戻って考えると「プラーナ=氣=生かすチカラ」なんだなと。分解して考えようとしていること自体が、すでに頭が、物質として人参を理解するという知識に汚染されているのじゃないか と思いました。なぜ空気と食べ物が、同じレベルでプラーナと呼ばれているのか。それは後から分かってきました。
たとえば、お店に同じ値段、同じグラムのにんじんが2本あるとします。どちらかを選ぶなら、どういう基準で選びますか? 選ぶ決め手はなんですか?
参加者 見た目がキレイとか、元気そうに見えるとかですかね……。
龍村 そうそう「新鮮さ」ですよね。食べ物にある「イキイキ感」。私たちがイキイキとしていたいから、同じように活き活きとしたものを食べる。それがプラーナを食べるということです。
食物の中のタンパク質とかビタミンを食べるとかいう話ではないのです。それ以前に、生かしているチカラをいただくという感覚。そのイノチに感謝するからこそ、古来「(あなたのイノチを)頂きます」、と食前に言ってきたと思います。それなのに私たちは今、何でも物質に分解して理解しようとしているから本質が分からなくなる。だから実感として、新鮮なほうを選ぶなら、そういう見る目はまだ失っていないということです。プラーナというのは、生命を活かしている全ての力のことを言うのですね。光も空気もみんな含まれます。
長沼 そうですね。それは大きな課題のひとつだと思います。科学の世界もミトコンドリアのところまで行くと、もう「要素還元主義」なんです。とにかくいろいろな分析をして、細かく細かく探求していくことで、必ず最後には真理が分かるはずだという考え方をしてしまう。
人のカラダは元素でできていますから、どんな組織も器官も、バラバラにして細かく見ることができるんです。たとえば、細胞を含めて、酸素、炭素、水素、窒素はそれぞれ何%で構成されているのか? 科学では全部ブロックにして捉えます。
元素がいくつか集まったものを分子と捉え、ブドウ糖やアミノ酸、脂肪酸と呼んでいます。食べ物も消化によってまずバラバラのブロック状にされ、そこから再構築しながら、カラダの材料にしたり、エネルギーにしたりとコミュニケーションしていきます。これは科学の世界では、異化・同化と呼ばれています。
植物、動物、私たちのカラダは、みんなバラバラの見えない小さなブロック状に分解することができる。もっといえば、(目の前のコップを指し)こうしたモノだって元素からできているので、同じことが可能です。
ここで龍村先生のおっしゃっていた「プラーナ」の話に戻るのですが、問題はこのブロック一つひとつを結び付けているものが何か? ということですよね。
つまり、物質だけで本当にすべて解明できるなら、私たちだって人や動物を作ることができることになります。元素を材料にしてバラバラだったものを再構築させ、生命の進化を再現できるかというと、それは無理な話でしょう。そこには、このブロック同士を結び付けるチカラがあり、私たちは「生命」や「プラーナ」と呼んでいる……そこにこの世界を成り立たせている根源的なカギがあるのではないでしょうか。
(第2回 了)
新刊情報『カラダの中の隣人 ミトコンドリア“腸”健康法』(長沼敬憲著)
知ってますか、私たちの体の中にはミトコンドリアと呼ばれる無数の小さな生き物がいることを。今から約20億年前、この小さな“隣人”が私たちの中に入ってきたことで、生き物は爆発的なエネルギーを手に入れ、人へとなったのです。溢れる健康情報や新しい健康法を試す前に、ちょっと彼らの声を聞いてみませんか? 彼らと仲良くなることが健康はもちろん、生き方を変える切っ掛けになるはず。この本はそんなミトコンドリアと私たちの関係をもう一度見直せます。新しい健康法を試す前に読むべき一冊です。
単行本(ソフトカバー): 207ページ
出版社: 株式会社 日貿出版社 (2017/6/15)
言語: 日本語
ISBN-10: 4817070439
ISBN-13: 978-4817070432
発売日: 2017/6/15
詳細はこちらからご覧ください。
全国書店、アマゾンで好評発売中です。
新刊情報『龍村式 指ヨガ 脳と身体のセルフケア』(龍村 修著)
呼吸に合わせて手指を刺激することで自然治癒力を高める「龍村式指ヨガ」。
本書では、その基本となる考え方とともに、脳と体のバランスを調えるメソッドを多数収録。
応用メソッド、実践エピソードなど「指ヨガの新しい広がり」も紹介。
単行本(ソフトカバー): 112ページ
出版社: 株式会社 日貿出版社 (2017/6/9)
言語: 日本語
ISBN-10: 4817070447
ISBN-13: 978-4817070449
発売日: 2017/6/9
全国書店、アマゾンで好評発売中です。
連載を含む記事の更新情報は、メルマガとFacebook、Twitter(しもあつ@コ2編集部)でお知らせしています。
更新情報やイベント情報などのお知らせもありますので、
ぜひご登録または「いいね!」、フォローをお願いします。
–Profile–
●龍村 修 (Osamu Tatsumura)・ヨガ指導者
1948年、兵庫県生まれ。神奈川県秦野市在住。1972年、早稲田大学文学部卒。学生時代の演劇活動の中でヨガに出会い、1973年に求道ヨガの世界的権威・沖正弘導師に入門、内弟子になる。導師に同行し世界10数ヵ国以上でヨガ指導を経験。1985年導師没後、沖ヨガ修道場長就任を経て、1994年4月に独立、龍村ヨガ研究所を開設。国内外でヨガの指導に従事。ヨガや東洋伝統の英知を活用する心身づくりを提唱している。現在、龍村ヨガ研究所所長、国際総合生活ヨガ研修会主宰、NPO法人日本YOGA連盟副理事長、NPO法人沖ヨガ協会理事長、一般社団法人手のひらセルフケア協会理事長。主な著書に、『龍村式指ヨガ健康法』『龍村式ゆがみ解消法』『眼ヨガ』『龍村式耳ヨガ健康法』などがある。
Web Site:龍村ヨガ研究所