実践、超護身術 第三十二回 直接護身のリスク03

| 葛西真彦
introduction

武術の根幹と言えば身を護ることにある。法治国家である現在の日本においてもそれは同じだ。時として、理不尽な要求や暴力から自分や大事な人の身を護るためには、決然と行動を起こす必要があるだろう。しかし、そうした行為もまた、法で許されている範囲の中で行わなければ、あなた自身が法に裁かれることになる恐れがあるのも事実だ。

では果たしてどのような護身が有効なのか?

本連載では元刑事であり、推手の世界的な選手でもある葛西真彦氏に、現代日本を生きる中で、本当に知っておくべき護身術を紹介して頂く。

元刑事の武術家が教える、本当に役に立つ術

実践、超護身術

第三十二回 直接護身のリスク03

葛西真彦

 

誰に助けを求めるのか?

さて、今回は警察が来るまでどうやって対処するか、このことについても触れたいと思います。

まずケースとして自分が当事者の場合で、相手を殴り倒す、蹴り倒すなどの実力行使によらずトラブルを回避するためには、逃げるか説得するか周囲の助けを求めるかしかありません。もちろん警察も助けのその一つです

自力で警察に通報するのであれば、既に相手と口論の状態のときにできるかどうか、ここも重要なポイントです。もし相手に「じゃあ埒があかないから警察を呼ぼう」と言ったときに、「おう呼べよ!」と挑発的に応じるようなタイプであれば、まだ危険度は高くない状況です。

とはいっても、ここから相手の感情が爆発して、警察官が来た頃には互いに殴り合っていたというケースもままありますので、(自力で110番通報できたとき=危険度は高くない)油断しないほうがいいでしょう。

自力で通報する余裕がなく、第三者の手を借りる必要があるときは、具体的に

「警察を呼んでください!」「助けてください!」

明確に自分の意思を明確に周囲に大声で伝える必要があります

相手と自分で互いに大声で口論しているだけでは、面白がったり、撮影してネットにあげようとする輩が集まるだけで、何も意味がありません。

またこのある種見世物的な空気感が一度できてしまうと、あなたが無抵抗で殴られても、周囲は助けもしませんし、面白がってあなたが殴られているところをネットで発信する程度でしょう。

切迫感を持って「警察を呼んでください! 助けてください!」と叫ぶようにしてSOSを発信しなければ、責任のない第三者には届きませんし、集まってくるやじ馬は、無責任にその状況を面白がっている人間の方が多く、中には”警察が来たら邪魔だ”とすら考えている者も周囲にはそれなりにいることを忘れてはならないのです。

そうした無責任な第三者を越えて、警察や警備員などへの通報をしてくれる人に届かせるためには、より大きな声で、現場が見えていない人にまで声が届くようにすることが重要です。

私が現役時代、実際に通報を受けて現場に駆け付けたときも、通報したのは現場で面白がって見ていたやじ馬ではなく、現場を直接見ていない近隣の家の方が、「叫び声が聞こえた。助けて!と叫ぶ声が聞こえた」という通報があり、周囲を検索(「叫び声を聞いた」といった通報を受けた場合、警察官はその周囲数百メートル圏内を検索します)した結果、そこで事件を初めて認識したというケースも少なくありません。

ですから第三者に助けを求めるときは、周囲のやじ馬に声よりも、それを越えた見えてない人たちに声が届くようにすることが前提です

葛西先生連載32イメージ

 

警察が来るまで如何にしのぐか

また、通報を受けた警察官がどれぐらいで現場に来られるか、これは地区やトラブルの場所、交番に警察官がいるかいないか等によってもかなり状況が変わりますが、緊急を要するトラブルでの通報なら最低でも10分程度、相手の攻撃を回避し続けることが必要だと私は思っています。

大抵10分も相手は攻撃し続けられません。ほとんどの場合すぐにスタミナがなくなり肩で息する状態になります。口論から喧嘩に発展するようなトラブルの場合で、自分が圧倒的に体力と技術があるのであれば、110番通報を自分がした、または誰かがしてくれるような助けを求めたことを前提に、相手の攻撃を回避し続け、助けが来るまでしのぎきることも一つの選択肢になるでしょう。もちろんこれには相手を圧倒する体力と技術が前提になります。

前回のくり返しになりますが、護身を真剣に考えるのであれば、まず体力が必須要件であることをよく考慮しなければいけません。

さらに付け加えれば、これはトラブルの当事者ではなく駅員や病院関係者などよくあることですが、トラブルに仲裁に入ってそこから暴力に巻き込まれるケースも多々あります。

警官時代こうしたケースを毎日のように扱っていたのでよく分かりますが、この場合、警官として無抵抗でやられるわけにもいきませんが、相手を叩き伏せるわけにもいきません。そうした際には相手の攻撃を回避し続ける技術としては、ボクシングもかなり役に立つと感じました

一般にボクサーの方は体力もありますし、パンチを避ける技術が巧みで、素人が殴りかかろうが掴みかかろうが、フットワークでいなして延々と逃げ続けることができます。もちろん試合では殴るという武器も持っているわけですが、それを封印して相手の攻撃を避けることに特化すると、護身技術として非常に有効だとボクサーの方と交流して感じたものでした。

他の格闘技でもそれぞれに有効な技術はあり、柔道や柔術の方も相手が掴みかかってくる手をさばくのが非常に巧みで、素人が挑んできても逃げ続ける、相手も自分も無傷のまま、その場を離脱することができます。

いずれにしろ相手が疲れてくれれば逃げるのも容易ですし、相手が戦意や犯意、逃走の意志を喪失するきっかけとなるので、相手を疲弊させるという技術は極めて重要な位置を占めます。

他の格闘技でも錬度を積めば同様でしょう。ただし、これだけで対刃物、対武器、対複数などを含めた、全ての危機回避のスキルを網羅するわけではないので、決して過信することなくさまざまなテーマで研究することが必要なのは言うまでもありません。

またそこまでの技術を習得するにはそれなりの時間がかかります。私を感動させてくれたいずれの競技の方々は、いずれも10年以上続けている経験者であり、練習も毎日のようにされているわけで、一般の方ではそこまで練習をすることは難しいでしょう。

しかし護身、しかも事後の法的なリスクを考慮した上での直接的な護身を実現するのであれば、そのレベルの実力が必要なのもまた現実なのだということは頭に入れておく必要があるでしょう。

 

意外に使える推手の技術

私自身、こうしたことを考慮して上で、トレーニングはもちろん推手を日々行っています。

推手も相手を強引に突き飛ばしたりするのではなく、接点だけで軽くいなし、相手も時分も無傷のまま時間を稼いだり、相手を疲労させて戦意を無くさせたりなど、護身的な応用ができます

そうした意味では体力的な敷居も高くなく、若い人から年配の方まで誰でもできるうえに、「こうきたら、こうする」といった、想定的・パターン的な練習ではなく、ある程度密着した状態で、相手が自由に仕掛けてくる中での技術を養える為、このような離脱系の護身を真剣に考え際には推手も選択肢の一つだと思っています。

また推手の技術を武器に応用すると、相手を打ちのめしたり武器対武器的な使い方だけにとらわれず、相手との接点を増やすツールとして活用し、相手を怪我させずに崩す、投げといった使い方もできます。

私は現在、孫の手、杖、傘、自撮り棒、あんま棒など、いわゆる警察の職質を受けても紛議にならずに普段所持できるものを用いて、相手を破壊せず最低限の行為で制圧する、あくまでもランダム性の中で体現できる技術を追及しています

武器(護身用具という意味で)を用いれば相手を破壊することも、相手が武器を持っていても対抗することができる可能性が高くなりますが、その分相手を壊す技も多くなります。

せっかく武器を持っても相手を壊すことが前提では、活用した後の法的な紛議を気にすると、危機的な場面でも自分の持つ武器を有効活用するのに戸惑いや甘さが生まれてしまいます

こうした場面で自分の持つ武器を迷いなく最大限に有効活用するためには、武器を使いながらも相手を壊さずに使う方法、最小限の使い方を知り、学ぶことが大事になります。そうすることによって、法的な紛議を踏まえた上で、武器を使い、活用する幅がもっと広くなる考えています。

その考え方にマッチするものの一つが、先に説明した推手の技術を武器に応用することです。推手の考え方と技術を用いることで、相手を崩す、投げる、破壊するなく組み伏せることが比較的容易に、しかもそれをパターンを想定した訓練ではなく、ある程度のランダム性のなかで訓練でき、より実際に活用できるよう方法を研究しています。

(第三十二回 了)

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–Profile–

葛西真彦(Masahiko Kasai
1977年10月26日生まれ青森県出身。某県において、知能犯係を中心に約11年勤務。詐欺罪等を中心に取り締まり担当の刑事として勤務し、覚せい剤や暴力団等の組織犯罪対策業務も並行して経験。
危険な現場も多く、培った武術武道の技術がどうすれば現場で通じるか、そのことをひたすらに研究し、現場での実戦と訓練のずれをまとめながら、さまざまなランダム性が生じる中で使える武器術を追求。特に対刃物に特化した警棒と杖の使い方に習熟し、学んだ技術を独自に昇華し、現在中国武術との融合を兼ねながら、さらなる研究を続けている。
昇任し、刑事人生これからというときに大病を患い、意識混濁と発作を起こして倒れるようになり、刑事としての勤務することどころか日常生活すら厳しい状況となり、しかも西洋医学では完治は難しいとさじを投げられたため、早期退職して台湾にて中医の治療を受ける。
約1年間ほど養生した結果、発作を起こして倒れるような症状がなくなったため、リハビリもかねて台湾の武芸に励む。
武術歴は30年近くになり、幼少から様々な武道、武術を学んできたが、現在は台湾で武器を使った競技格闘技を指導しながら、太極拳、詠春拳、八極拳の修行に明け暮れる。
また、日本人では初の中華民国八極拳協会の教練試験に合格し、認定を受ける。現在は競技推手教練であり、最重量級においての競技推手世界一を目指している。
日々休みなく、体が壊れる限界ギリギリまで自分を追い詰め、仕事をしながらも、毎日1日8時間以上の稽古を設定して、修行に臨んでいる。
現在は、世界大会3位、国際大会1位、全国大会1位の実績を持ち、台湾および世界中の人間が集まるハイレベルな競技推手の大会に足跡を残した、唯一の日本人である。
台湾ではこれまでの経験をまとめた、心理学と人相学と筆跡で人を読む本と、護身術の本を出版しており、今後は日本でも同様に護身術や武術、読心術関連の執筆や講演と、競技推手、競技武器術の普及活動に力を注ごうと準備中である。

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