連載 本気でトラウマを解消したいあなたへ 第十三回 医療トラウマ 後編〜子どもの医療トラウマを防ぐには

| 藤原ちえこ

「トラウマ」という言葉からは、何を連想されるでしょうか。震災や戦争といった“大きな出来事”の当事者が受けた“心の傷”、またはそれにともなう症状(フラッシュバック、うつなど)を思い起こす方が多いのではないでしょうか。

ですがトラウマセラピストの藤原ちえこさんは、

「トラウマ反応は、心ではなく、まずは身体で起こるもの。そして出来事の大小にも、それを直接体験したかどうかにも、必ずしも関係がないのです」

とおっしゃいます。ここでは、

  • 本当のところ、トラウマとは一体何なのか
  • トラウマからはどうすれば回復可能なのか

を、お伝えしていきます。トラウマからの回復をのぞむ、“あなた”のための連載です。

トラウマイメージ

ココロの傷は、カラダで治す

本気でトラウマを解消したいあなたへ

第十三回 医療トラウマ 後編〜子どもの医療トラウマを防ぐには

文・写真藤原ちえこ(写真提供は☆のみ)

こんにちは。トラウマセラピストの藤原ちえこです。
前回に引き続き、医療トラウマの話です。

連載6回で、トラウマの原因探しは必要ないという話をしました。
人間はとかく、物事を複雑に捉えがちですが、
トラウマ症状がいかに深刻でも、その症状を引き起こした主な要因が一度の手術だったという場合もあるのです。
だから、原因探しからトラウマを癒そうと試みると、かえって回り道をしてしまうことがあります。

そしてもし、あなたに未処理の医療トラウマ(特に子ども時代の)があれば、
たとえ本人がそれをすっかり忘れていたり、その体験を問題視していなかったりしても、
(医療トラウマは、幼少期に親から受けた心の傷などと比べて見過ごされやすいテーマなので)
身体心理療法的なセラピーを受けていれば、どこかの段階で必ず、身体はその医療トラウマにまつわる身体感覚を出してきてくれます。

私のクライアントさんの中には、親との確執をテーマにずっとセッションを行っていて、
ある時突然セラピー中に呼吸が苦しくなり、小学生の時に受けた扁桃腺手術の記憶が蘇った方もいます。

そのように、身体が自ら表現してくれた時が、その出来事にまつわる活性化を解放する一番良いタイミングなので、
こちらが必ずしも頭で原因を探さなくてもいいのです。
(そもそも、たった一つしかトラウマがない人などこの世に一人もいませんからね)

 

医療トラウマは防げます

そして、単純に一回の手術と言っても、そこには非常にさまざまな要素が絡み合っています。

身体にメスを入れられるという物理的なショックはもちろん、
麻酔にかかるとき、出てくる時に自分がどれほど動揺していたか、
検査や診察も含めた治療全体のストレスはどれほどだったか、
看護師や医師とのやりとりで傷ついたり腹が立ったりしたことはあったか、
家族のサポートがどれだけ得られたか、または得られなかったか、
こういった、術前術後の体験はすべて、さまざまなレベルで私たちの心身に影響を与えます。

そして、手術前後の家族からのサポートの有無はそのまま、自分がそれ以前に抱える発達トラウマともつながっているので、
たかが一度の手術といえども、そのプロセスに何回ものセラピーセッションが必要になっても全くおかしくはないのです。

トラウマイメージ
ただ、医療トラウマの大きな救いは、予防が可能であることです。
多くの医療トラウマは、自然災害や不慮の事故などとは違い、完全に不必要なトラウマなのです。
緊急搬送をのぞき、医療処置は前もって準備可能、予測可能であり、
医療従事者の心がけ次第で予防しようと思えばできるからです。

前回の連載12回で、生後9カ月の時の医療処置が原因で、長じてから爆弾テロを繰り返した米国の天才数学者の話をしましたが、
私が強く望むのは、子どもに対する手術や医療処置という、毎日全国で何千件、何万件と普通に行われている行為が、
その子、ひいては周りの家族に生涯にわたる悪影響を及ぼすことがあるという事実を、すべての医療従事者と親、そして子どもにかかわる人たちに知ってもらうことです。

私のトラウマ療法の師ピーター・リヴァイン博士は、子どもの医療トラウマの多くは、医療従事者が以下の3つを実行すれば防ぐことができると述べています。

  • 両親が子どもに付き添うことを奨励する
  • 事前にできるだけ十分な説明をする
  • 子どもが落ち着くまで治療を遅らせる

こんなシンプルな原則だけで、子どもが医療トラウマで一生を台無しにされるのを予防できるのです。
今回は改めて、子どもの医療トラウマを予防するために親や医療機関ができることについて、詳しく見ていきたいと思います。

 

子どもの医療トラウマを防ぐために、親ができること

【何よりもまず、親自身が落ち着く】
愛する我が子がけがをしたり、入院、手術が必要なほどの病気にかかったりすれば、親も動揺するのは当たり前です。
でも、子どもがけがをした時、あるいは歯科医院や病院などの医療機関にかかる時に、親が落ち着いて子どものそばにいることほど大切なことはないのです(これはいくら強調してもしすぎることがないくらいです)。

これは子育て全般に言えることですが、子どもにとって何よりも助けになるのは、
親の言動ではなく、親がどのようなエネルギー(あり方)で子どものそばにいるかです。
これは、私がしょっちゅう引用する、米国のHeartmath Instituteが作成したイラストです。

人がつくりだす心臓の電磁場(イメージ)

人間の心臓はその人の周囲に電磁場を作り出していて、
その電磁場のエネルギーは、半径数メートル以内にいる他の人にも影響を与えていることが、同研究所の研究から明らかになっています。
私たちは、何も話さなくても、同じ空間にいるだけで互いに影響を与え合っているのです。
ましてや、親子であればその影響の大きさはなおさらのこと。
怪我で痛がっていたり、病気で衰弱していたりする子どもにとって、何よりも安心できるのは、親が落ち着いて自分に寄り添っていてくれることです。

ただ、これは言うは易いですが、行うのは必ずしも簡単なことではありません。
私自身も偉そうにこんなことを書いていますが、娘が1歳の頃、散歩中に小さな土手から転げ落ちた時には、立ちすくんで大声をあげるだけで、とっさに助け起すことすらできなかったことがあります。(幸い、娘に怪我はありませんでしたが)

いざという時に親が落ち着きを保つためには、日頃から、親が自分自身の感覚に気づく練習をしておく必要があります。
緊急時に動揺するのは当たり前ですが、その時に自分が動揺していることにすら気づけなければ、動揺のままに行動して、結果的に子どもをさらに不安にさせることになりかねないからです。

感覚に気づくためのエクササイズは、以下の本に紹介されていますので、ご参考までに(残念ながら、どちらも入手困難ですが……。図書館などで探してみてくださいね)。

心と身体をつなぐトラウマ・セラピー』(ピーター・リヴァイン著、藤原千枝子訳、雲母書房)
子どものトラウマ・セラピー』(ピーター・リヴァイン著、浅井咲子訳、雲母書房)

【子どもを騙して医療機関に連れて行かない】
「アイスクリーム食べに行こう」と騙して子どもを病院に連れて行ったり、痛い注射をする予定なのに「注射しないよ」「痛くないよ」と言ったりするのは論外です。

トラウマの大きな特徴の一つは「予測不可能であること」です。心の準備なく突然ショックな出来事に遭遇することは、大きなストレス症状を引き起こす原因になります。騙して医療処置を受けさせることは、医療処置のショックを増幅させるのみならず、親子の信頼関係も大きく損なう行為で、子どもに医療トラウマに加えて発達トラウマさえ与えかねません。

痛みを伴う医療処置が予想される場合は、「注射はちょっと痛いけど、じっとしていればすぐに終わるよ」「点滴の針を刺されるときはママがそばで手を握っていられるようにお医者さんにお願いするからね」などと、事実に基づいた見通しを伝える方がずっと子どもに安心感を与えます。また「お医者さんがいる部屋に入ったら、お腹をもしもしされるからね」「お医者さんが口の中を見せてと言ったら、お口をあーんと開けようね」など、予想されるプロセスを前もって子どもに伝えておくのはいつでも助けになります。

【子どもが医療処置を受けている間、子どもの側を離れない】
これも非常に大切なことです。弱っている子どもが、一人ぼっちで見知らぬ白衣の大人に取り囲まれ、注射されたり検温されたりする恐怖を想像してみてください。

前回、私の娘の病院での体験をお伝えしましたが、小児科の中にでさえ、親を子どもから引き離して処置を施すのが当たり前になっている病院がまだまだあるようです。もし部屋から出ることを求められたら、それを断る勇気を持ちましょう。

ただし、子どもに付き添い続けるには、親が落ち着いていることが大前提です。親が動揺していれば、ますます子どもは不安になります(そしてその場合は、医療者はなおのこと親に退室を求めることでしょう)。落ち着いて穏やかに、子どもに付き添い続けることを医者にリクエストできるよう、事前に心の準備をしておきましょう。

トラウマイメージ

【子どもが治療を嫌がれば、無理強いをしない】
子どもが治療を嫌がって暴れた時、決して、医者や看護師と一緒になって子どもを押さえつけたりはしないでください。その場合は医者に一旦処置を中止してもらうよう頼み、子どもを診察室の外に連れ出して本人が落ち着くまで待ってください。子どもがなかなか落ち着きを取り戻さない場合は、その日の受診をそこで切り上げる必要もあるかもしれません。よほど深刻で緊急を要する処置でない限りは、子どもの心身に残る可能性があるトラウマの大きさを考えると、無理に治療を続けるのは全く割に合わないことを覚えておいてください。

特に子どもが初めて医療機関を受診する際には、上記の点に留意することが肝心です。
最初の病院体験がトラウマになれば、子どもはそれ以降ずっと病院通いを拒絶するようになることでしょう(現に私の知人のお子さんで、最初に受けた歯科治療がトラウマになり、その後断固として歯医者通いを拒否するようになったケースがあります)。そして、拒絶すればするほど無理やり治療を受けさせることになり、ますますその子のトラウマが大きくなる…という悪循環に陥ってしまいます。

 

子どもの医療トラウマを防ぐために、医療機関ができること

親と治療者を比べると、治療者の方が圧倒的に力関係が上なので、上に書いたようなことは本来、医療機関側が配慮すべきことです。医療機関の取り組みが遅れている日本では親が自己防衛せざるを得ませんが、米国ではすでに、医療トラウマ予防のプログラムを実践する病院が出始めています。
その一つである、カリフォルニア州ロングビーチのミラー・チルドレン&ウィメンズホスピタルの取り組みをご紹介します。

まずは、同病院が最近リリースした、手術の手順を紹介したビデオをご覧ください。小さな女の子を主人公に、彼女が実際に手術を受ける際のプロセスを、病院の敷居をまたぐところから、手術を終えて退院するところまで順番に紹介するビデオです。

ビデオで紹介されている、同病院の手術の手順は以下の通りです。

  • 受付を済ませる
  • 手術着に着替える
  • 体重、身長、検温、血圧を測る
    (「血圧を測っているときは、腕がぎゅっと抱きしめられている感じがするよ」と女の子の声でナレーション)
  • プレイルームで遊ぶ
    (プレイルームにいる間にリラックスするための薬を飲む子どももいること、同じように手術を待つ他の子どもたちもいること、両親とは手術の直前まで一緒に過ごし、麻酔から目覚める時にもそばにいること、プレイルームにはチャイルドライフスペシャリストというケアの専門家がいて、術前、術中、術後のどんな質問にも答えてくれること、チャイルドライフスペシャリストはマスクや身体に取り付けるモニターなどのおもちゃを持っていて、子どもと遊びながら実際の手術をシミュレーションしてくれること、プレイルームには麻酔医もいて、麻酔医は保護者からの質問を歓迎すること…などの説明)
  • 手術担当の看護師が迎えにきて、一緒に手術室まで行く
    (その際子どもが緊張していたら親も手術室まで付き添えること、手術室へ向かうときは、手術後まだ昏睡状態にある子どもとすれ違って親子が不安にならないよう、術後の子どもが通るのとは別の廊下を通るという説明)
  • 指に血中酸素濃度計、胸に心電図の電極、腕に血圧計がそれぞれ装着される
    (「親御さんは不安かもしれませんが、手術チームの全員があなたをサポートし、あなたの子どもをケアするためにここにいることを覚えておいてください」というナレーション)
  • 麻酔をかけられる
    (子どもにもわかる麻酔の説明と、「あなたが眠るまでママとパパが付き添っていてくれますよ」という説明。麻酔には自分の好きなフレーバー〔イチゴ味、レモン味など〕を選べる)
  • 手術の最中、家族は近くの待機スペースで待つ
  • 手術後、麻酔から覚めるまでの間に、執刀医が家族に説明をする
  • 手術が終わると、回復室まで運ばれ、そこで麻酔から目覚める
  • 目覚めたら家族がすぐに呼ばれ、再び医師か看護師から説明がある
  • 医者の許可があれば、麻酔から目覚めた時にアイスキャンデーかジュースがもらえる
    (麻酔の時と同じく、好きな味を選べる)
  • 手術後一晩を病院で過ごす場合は病室に移る。そうでない場合は自分の服に着替える
    注:米国は医療費が高いので入院は最小限のことが多い
  • 最後、着替えた子どもが車椅子に乗って病院を出て行くところでビデオ終了
    (最後に再び、「親御さんは不安かもしれませんが、手術チームの全員があなたをサポートし、あなたの子どもをケアするためにここにいることを覚えておいてください」というナレーション)

同病院のホームページでは他にも、麻酔や非侵襲的手術のメリットなどについて詳しい説明がされています。ビデオ、HP、実際の診察を通じて、これほど詳しく事前に説明を受けたり、遊びながら手術をシミュレーションしたりできれば、親も子もどれほど安心して本番の手術に臨むことができることでしょう。

トラウマイメージ
日本では残念ながら、こうした理想的な非侵襲的手術のプロトコルが確立されている病院はまだまだ少ないと思います。
(私が調べた限りでは、兵庫県立子ども病院がミラー小児病院の取り組みにもっとも近い手術プログラムを実践しているようです)
なので病院側の良心に期待するのではなく、子どもが手術を受ける際は、親の方から積極的に病院に様々なリクエストをしてみてください。

特に、麻酔がかかるまでの手順を詳しく聞き、子どもが分かる言葉で事前にそれを伝えることと(小さな子にはおもちゃを使いながらロールプレイをするといいです)、麻酔にかかるとき、麻酔から覚める時に親が子どもに付き添えるようリクエストすることだけは、必ずやっていただきたいと思います。

親が自ら、積極的にそうした対応を求めて行くことで、日本の医療機関のあり方も少しずつ変わって行くはずです。医療現場を良くするためには、医療者側に頼るだけではなく、利用者からの働きかけも必要不可欠なのです。

皆で力を合わせて、子どもの医療トラウマを予防していきましょう。
子どもに優しい社会は、誰にとっても優しい社会のはずですからね。

 

〜ちえこの札幌だより 013〜

写真(☆)提供:著者
写真(☆)提供:著者

9月7日午前3時8分、北海道で大規模な地震がありました。
おかげさまで我が家は翌朝には電気も復旧し、被害もまったくありませんでした。
ご心配いただいたみなさま、ありがとうございました。

災害の時には孤立しないのが一番。わたしも当日の夜は、娘を連れて行きつけのカフェに行き、ろうそくの灯りの中、他のお客さんたちとまったり会話を楽しみました。
外に出ると、停電のおかげで普段見えない星空がくっきり見えました。
あの夜の静けさと暗さ、仲間と過ごした静かな時間は、ずっと心に残ると思います。

インフラ復活のために奔走してくださった全ての人たちに深く感謝しつつ、
被害に遭われたみなさまに心よりお見舞い申し上げます。

(第13回 了)

 

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–Profile–

藤原ちえこ先生
Photo by Takashi Noguchi

藤原 ちえこ(Chieko Fujiwara

大阪大学人間科学部卒業。新聞記者を経て渡英、Emerson Collegeにてシュタイナー教育を学ぶ。その後サンフランシスコに移り、カリフォルニア統合学研究所(California Institute of Integral Studies, CIIS)にてカウンセリング心理学修士号取得。サンフランシスコの日系カウンセリングセンターや小学校、近郊のホームレス支援の非営利団体などで心理セラピストとして勤務。サンフランシスコ、ハコミ研究所(Hakomi Institute of San Francisco)にて2年間のハコミセラピーのトレーニングを修了するとともに、トラウマへの身体的アプローチであるソマティック・エクスペリエンス(Somatic Experiencing, SE)の3年間のトレーニングを修了。禅、瞑想、ヨガ、気功、ムーブメント、ボディワークなど、ベイエリアで当時アクセス可能だった数多くの癒しやスピリチュアリティのメソッドを探求したのちに、身体と心のつながりという最も基本的な真理にたどり着く。
05年2月に帰国、札幌にカウンセリングルームを開く。私立女子校のスクールカウンセラーとしても活動中。
訳書に『心と身体をつなぐトラウマ・セラピー』(雲母書房)、共著に『「ソマティック心理学への招待—身体と心のリベラルアーツを求めて』(コスモス・ライブラリー)、『トラウマセラピー・ケースブック』(星和書店)。特別養子縁組で迎えた4歳の娘の子育てを楽しむ毎日。


website:プレマカウンセリングルーム(http://premamft.com)
blog:明るい鏡~本当のわたし、そしてあなたを映し出す