【追悼特集】研心会館館長 横山和正先生を偲んで
インタビュー04「空手をずっとやってきて良かったな」
聞き手・文●日貿出版社 コ2編集部 下村敦夫
空手家・横山和正先生が2018年5月26日に亡くなられて、一年が経ちました。
コ2では追悼特集として、横山先生の残された言葉や映像をご紹介しています。
先週に続き、今週も闘病中の病室で伺ったお話をお届けします。今回でインタビューは最後となります。
※本インタビューは2018年5月12日に入院先の病室で収録したものです。
普段練習していないことができるのが武道
コ2 「スポーツは練習したことが出るけれど、武道は練習しないことが出る」というお話もありました。
横山 さらに本には書いてなかったんですけど、「武道の練習をしていると、やっていなかったことが意識的にできてしまう」。
だから例えば俺が鎌ヌンチャクのデモンストレーションをやっているとき、本番では(事前に想定していたことと)かなり違うことをやっていることがあるんですけど、あれって「やったことのない」ことなんですね。普段、鎌ヌンチャクの練習なんかしないから。やったことがないことでも自分の頭で想像すれば現実にできてしまう。
だから後になって「あれは凄いな」とか、「よくこんなことできな」と思います。
それだけじゃなくて咄嗟な出来事にも対応できる。それが出たのがBABジャパンで作った「ナイファンチをつかう」というビデオに特典映像で入っている高速度撮影の動画で、この時、スタッフの方にリンゴを先についけた棒を口にくわえてもらって、それをヌンチャクで打ったときの話です。
この時は最初に一番リンゴを打ちやすい場所にセットアップしたんですけど、直前になってリンゴが落ちてしまって、スタッフさんが付け直したんですね。それは良かったんだけど、今度はいざ打つという時に彼が「リンゴが落ちないように」と少し顎を持ち上げてくわえていたんですね。
実際に打とうとモーションに入ったなかでその顎が見えて。「まずい!」と思って、一瞬空振りしようかと思ったけれど、ああいう撮影って一度外すとなかなか上手くいかないのも知っているから、「このままいこう」と思って振り抜た結果、無事にリンゴを打てました。ああいう時はほんの一瞬の間にバーッと色々なことを考えているんですよ。
それで改めて動画を見ると、いつもは地面に平行に振っているヌンチャクが、顎が上がっている分、ちょっとだけ上むきのスイングになっていて。普段の通り振っていたら顎に当たっていたものを咄嗟に調節していたんですよ。でも、それがどうしてできたかはわからない。
だけどやっている自分に不安感はないんですよ。
どうしてできたかはわからないけれど、振っている段階では絶対的な自信がある。
結果的に普段練習していないことができてしまうのが武道なんだろうな、と思います。
その根本にあるのは「チャンスは一回だけしかない」というそういう考えもあるかな。だからデモンストレーションをやる時に大事なのは、二回あると思うと集中力が切れてしまう。だから最後の最後まで一回で終わらせると思ってやるというのはありますよ。
ビデオの撮影だと何回もやるように指示されるんだけど、やっぱり最初にやったものが一番集中できていて、武道的にはいいですね。
本当の武道は生産的で垢抜けたもの
横山 武道って実はすごく生産性のあるもので、だからこそこれだけ長い年月を生き延びてきたんだと思いますよ。
俺は本当に自分がやってきたものが、何百年と国を越えてつながって現代にあるというのは、伝えてきた人が生産性を持っていたからだと思うんですよ。それがなくなってしまったものは、流れが止まってしまった水みたいなものでダメだと思うんですよ。その為には絶えず絶えずやっていないと。
日本の空手のまずいのはすぐ組織とかそういう方向に走ってしまうから。むしろ組織になると新しいものを拒否することが多くなってしまう。
だから研心会館という組織は作ったけれど、俺自身が一番守っていないから(笑)。
でもそうじゃないと生徒たちを教えられないんですよ。生徒たちだってやっぱり上手くなってくるわけだし。絶えず絶えず自分もやっていかなければならない。それをやっていこうと思ったら、武道に関していえばトップに立っている人間がいかにフリーでいられるかだと思うんですよ。それを理解してくれる生徒がいるかいないか。
マニュアルを作っても、5年前に作ったものをそのまま使い続けているとしたらそれもおかしな話で、それは成長がないんじゃないかと思ってしまう。
だから俺は型というものがあればそれでいいと思うんですよ。型はマニュアルじゃないかと。
それを使って覚えていくかというのはそれぞれ次第で。練習の指揮をとってなるべくそういうものがわかるように稽古をしていますけど。
俺はそういう面から考えると武道ってすごく垢抜けたものだと思うんですよ。サッカーとかに比べても。だからなんでそうならないのかが不思議で。
コ2 もっと垢抜けていいと。
横山 例えばその垢抜けている部分を表現したのがブルース・リーだと思うし、俺は武道をちょっと違った角度で見た場合、ものすごく垢抜けしていて、ものすごくカッコよくて、ものすごく近代的なものになり得てしまう。でも、そこにある深さは何百年も昔からつながっているもので。
やっぱりアメリカで武道を教えていこうと思ったのは、やっぱり武道のイメージって色々あって、お坊さんみたいな感じが武道家に見えるとか、色々あるとも生んだけど、俺があえて思ったのは、若い兄ちゃんみたいな感じで、武道の哲学を言えるのがカッコいいんじゃないかなと思って。
アメリカに行って表現をするということにすごく考えることがあって、人に伝えていく為にはどうしたらいいか。それには自分がどうなったらいいのか、と。そういうのから考えると確かに昔からの年老いた感じの方が説得力があるのかもしれないけれど、そういうのは元からあまり好きじゃないから。むしろ動きを感じさせる、ある意味、ちょっと自由人で、それでいて技術があって、古い空手も話せる。そういう風になろうと思いましたね。
日本の人たちには理解されにくいというところがあるけれど、でも、結構受けましたね。
「新・空手道」に期待してます
横山 そこかな、今度の藍原(しんや)さんの(雑誌)「新・空手道」に期待しているのは。藍原さんだったら武道の色々な面を紹介できるじゃないかと思って。
藍原 タイトルは「新・空手道」なんですけど、意外に「空手」って、「空手道」という人がまずいなくて、他は「柔道」「合気道」と必ず「道」をつけていて。先生の研心会館は「沖縄小林流空手道・研心会館」と「道」がついていますね。
横山 藍原さんから色々聞いているからというのもあるんですけど、「空手道」という名前を聞いた時に金城(裕)先生の創られていたものがパッと浮かんで、それに新しい「新」がついたことで、何か新しいものが表現できるんじゃないかな、と思ったんですよ。そういう面ではものすごく期待していて、楽しみにしているんですよ。
藍原 金城先生も昭和30年に「空手道」を創刊された時に、流派会派を問わず空手界の交流と、空手を知ってもらいたいという、情熱から家を担保に入れてまで創ったそうで。色々(金城先生には)お話を伺いましたが、「やめろ、と言われても楽しくて」とおっしゃっていました。
横山 やっぱり俺自身、子供の頃からそこのところを感じていたのかな、と思いますね。サッカーとか陸上競技も得意でスポーツの選択はいっぱいあったんですね。それでも空手に惹かれて。柔道もやって、結構強くて「いけるな」という気持ちもあったんですけど、やっぱり柔道じゃないんですよね。柔道には華麗さがなかった。でも空手には古臭い、当時空手というと田舎の武術みたいなそういうイメージがあって、その一方で意味不明なかっこ良さがあって。
そのかっこ良さというのは、子供心にそう思うのは「紅三四郎」とかああいう風に限りなくかっこ良く化けてしまうのが空手なんですよね。
藍原 すごい多様性が。
横山 その辺にすごく力強さを感じたというか、古いものと新しいものを空手に感じていて、それは今だにありますね。
だから衛先生の話をしていても、やっぱり衛先生には衛先生の生きざまがあって、仲里先生にもあって、結局そういう生きざまがあってのあの人達の武道だったり武術だったりするわけじゃないですか。そういう人間の生きざまもあるし、だから俺は「空手をずっとやってきて良かったな」と思いますね。
練習をしていても一番充実感があるものだし。だからもっともっと色々な人が、俺がいう空手というのは俺から見た空手であって、また違う人は違うものを発展させればいいし。
沖縄も良いですけど台湾にももう一回行ってみたいですね。衛笑堂先生に会ったのも良かったけれど、初めての海外というのがあったから。アメリカ人ともたくさん知り合ったし、国際的な場に出たというのはかなり大きなことでしたね。
藍原 「新・空手道」で台湾密着したいですね。
横山 当時の台湾の中国武術会は面白かったですね。公園に行くと色々な先生がいて……。※ここまで
(第四回(最終回) 了)
『沖縄空手の学び方』横山和正著
横山和正先生の遺著となった『舜撃の哲理 沖縄空手の学び方』。本書はすでにご自身が重篤な癌に冒され、余命宣告を受けたなか「最後の仕事」として向かい合った一冊です。横山先生が追求し実感した空手の姿がここにあります。
現在、アマゾン、全国書店で発売中です。
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