【インタビュー】バートン・リチャードソン「ブルース・リーが目指した進化とはなにか?」後編

| コ2編集部

バートン・リチャードソン インタビュー(後編)

取材・文コ2編集部
取材協力光岡英稔

毎年恒例となっているJKDアンリミテッドを主催するバートン・リチャードソン氏の講習会が、2019年10月18日〜27日まで、東京と岡山で行われた。

バートン氏は多年に渡ってブルース・リーの盟友である、ダン・イノサント氏に師事。JKDの他にもブラジリアン柔術、カリ、シラットなどをはじめ、アフリカ・ズールー族のスティック術など、様々な民族武術を現地を訪ねて学んでいる。※以前のインタビューはこちらから。

1992年にJKDアンリミテッドを設立、ハワイで活動を開始。「アンリミテッド」という名前は、ブルース・リーの「制限、制約がないということが、唯一の制約だ」という言葉に拠っているという

前回は主催の光岡英稔先生のご厚意により、セミナー3日目に行われた「ブルース・ リーの基本技術の変遷とJKDU前編 〜ジュンファンJKD〜」「ブルース・ リーの基本技術の変遷とJKDU後編 〜JKDU〜」の模様をレポートでお伝えした。

ここでは改めてバートン氏へのインタビュー後編を紹介する。(前編はこちら


「彼の目標はセルフディフェンス」(バートン先生)

コ2編集部(以下、コ2) 改めてブルース・リーはJKDで競技的なものを目指したと思われますか? それとも武術を目指したのでしょうか。というのは「燃えよドラゴン」のサモハンとの闘いのシーンや、独特の防具の開発などを見ると競技的な要素が伺えますし、今回の講習でも改めてボクシングを始めとするスポーツに対して深く研究していたことがわかるからです。

バートン・リチャードソン(以下、バートン) 彼の目標はあくまでもストリート向けのセルフディフェンスです。しかし、彼は武術の経験を生かし沢山の競技者のトレーナーもしています。

例えばキックボクシングのチャンピオン・ジョー・ルイス。彼によると実はアメリカでのフルコンタクトのキックボクシング競技(編集注・PKA(Professional Karate Association))を確立するにあたっていろいろ提案をしたのがブルース・リーだったのです。

JKDの一部の人たちは「JKDはスポーツとは一切関係ない」と言います。確かにJKDは詠春拳を母体にしたものに、オリンピックスポーツのボクシング、フェンシング、柔道といったものを取り入れています。スポーツの良い点は実際に競技の中で技の検証が行われることです。そこにブルース・リーは注目し、また好んでいました。論理から入るのではなく実用性から研究を進める点が気に入ったわけです

 

ですからスポーツはJKDにとって非常に大事です。先ほど挙げたもの以外でもムエタイもそうですね、「ドラゴンへの道」で回し蹴りの練習をするシーンがありますが、あれはムエタイですね。彼は「ドラゴン危機一髪」でタイに行っていますので、ムエタイを見て既に研究していましたから。(編集注・「ドラゴン危機一髪」は1971年公開、「ドラゴンへの道」は1972年公開)

コ2 蹴りについてはテコンドーの影響もあると聞きます。

バートン ジューン・リー(アメリカの「テコンドーの父」と呼ばれる人物)とも大変仲が良かったので影響を受けているでしょう。中国の北方の拳法(北派少林拳)の影響もあるでしょうがスピンキックなどはテコンドーの影響があるかと思います。

コ2 どこかで「ブルース・リーはチェスも嗜んでいた」と読んだ記憶があります(編集注・記憶違いかもしれません)。こんなことを伺うのは、今日拝見していた技術が、常に相手の動きのを先回りし、自分の望む方向へ追い込む戦略的な要素を強く感じたからです。

バートン チェスについては私は知りませんが、確かに戦略や兵法などについてはかなり研究をされていて『孫子の兵法』なども読んでいたそうです。

 

「対武器、対多数、寝技、シナリオがアンリミテッド」

コ2 今日の後半で紹介されていた護身の技術は、バートン先生の主催される「アンリミテッド」で新たに展開された部分と考えてよろしいのでしょうか。

バートン そうです。シナリオやクリンチ、対武器などもそうです。相手が武器を持っているという想定のもとに稽古をするというのは、それまでのJKDではありませんでした。多人数を相手にするということも同様に行われていませんでした。寝技についてもボリュームが違います。

その他、以前のセミナーで紹介したズールー族のスティックファイト術なども参考にして加えいています。そうしたことが講座でも紹介した「プログレッシブ・インダイレクト・アタック」などに生かされています。

コ2 現在バートン先生が指導されているハワイのクラスでは、セルフディフェンスと武術では、どちらを学ぶ人が多いのでしょうか。

バートン 全部やります。私のスケジュールは、ストリートのブラジリアン柔術のクラスから、BJJにJKDとカリ・シラットの要素を合わせたクラスグラップリングの最中にナイフが登場するクラス、日本のワークショップでは実際にはやりませんが目潰しなども練習します。

ハワイではバトル・フィールド・カリ、BJJなど何クラスかに分けて指導してますが、JKDアンリミテッドのクラスでは必ずシナリオとキックボクシングクリンチ(首相撲)、グラウンドを行います。もちろん武器を想定してです。ですから全てをカバーできるようにしています。

三つ目のクラスはアドバンスド柔術です。道着あり、なしを週毎に変えてグラウンドの柔術だけを集中的に行います。最後はカリ・シラットクラスです。スティックスパーリング、ナイフスパーリングを行います。このクラスでは、ただスティックで相手を打って終わりではなく、攻防の練習をします。

コ2 そのクラスを一人で教えているのですか?

バートン そうです(笑)。フルタイムでやっていますが大好きです(笑)。もちろんクラス以外にもプライベートレッスンもあります。純粋に柔術だけを学びたい人や、ジュンファンJKDのインストラクターになるために学びに来る人もいます。

他にも武器術のスパーリングだけをしたい人など様々ですね。その他にも奥さんとも週に二、三回スパーリングをしています。実際、これが一番危ないんですよ(笑)。

 

コ2 (笑)。最後に日本の読者に向けてメッセージをいただけますか。

バートン もし日本で最もハイレベルで信頼できるジュンファンJKDを学びたいと希望する方がいらっしゃったら、中村頼永先生をお薦めします。私は知り合って30年ほど経ちますが、本当に素晴らしい武術家ですので本当に学びたい人は是非訪ねてみてください。

(了)

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–Profile–

バートン・リチャードソン(Burton Richardson
ハワイ在住の武術家、JKD(ジークンドー)と東南アジア武術の第一人者。
ブルース・リーのジークンドー・コンセプト、ジュン・ファン・グンフーとフィリピン武術 カリを継承し伝えるグル(導師)ダン・イノサントやラリー・ハートソールからJKD・インストラクターの認可を得る。
フィリピン武術に関してはアメリカ、フィリピン在住の多くのマスターやグランドマスターと交流し学ぶ。その多くは今となっては殆んど稀である、互いに武器を持っての素面で行う命をかけたデス・マッチやチャレンジ・マッチを生き抜いて来た世代のフィリピンの武術家ばかりであった。
カリ・イラストリシモの今は亡きタタン(フィリピン武術指導者最高の象徴)・アントニオ・イラストリシモから公認の指導者として認められる。
イラストリシモ門下の故マスター・クリステファー・リケットや故マスター・トニー・ディアゴ等と共にイラストリシモの下で稽古に励む。
グランドマスター・ロベルト(ベルト)・ラバニエゴにも師事しエスクリマ・ラバニエゴを習得。
フィリピン武術の世界では有名なドッグ・ブラザーズの立ち上げ当初のオリジナル・メンバーの一人でもあり、ニックネーム“ラッキー・ドッグ” の名前でも知られる。
インドネシア武術ペンチャック・シラットにおいては、今は亡きグル・バサァー(最高導師)ハーマン・スワンダに長年に渡り師事しマンデムダ・ハリマオ流(インドネシアで失伝しそうであった16流派のシラットを受け継いだハーマンがまとめた流派)を修得。
ペンチャック・シラットをペンダクラ・ポール・デトゥアス(最初にペンチャック・シラットをアメリカへ紹介したアメリカにおける第一人者)から習い、シラットにおけるグル(導師)のタイトルを授与される。
他にムエタイ、クラヴ・マガ、南アフリカのズールー族の盾と棍棒、槍の技術等を修得。イスラエル武術 クラブ・マガの指導をニル・ナマンから受け習得する。
イーガン井上からブラジリアン柔術黒帯を授与される。
90年代には総合格闘技UFCのコーチとしても活躍。

Web site:JKD UNLIMITED 

●光岡 英稔(Hidetoshi Mitsuoka
日本韓氏意拳学会会長。日本、海外で多くの武道・武術を学び10年間ハワイで武術指導。現在、日本における韓氏意拳に関わる指導・会運営の一切を任されている。また2012年から「国際武学研究会(I.M.S.R.I.International martial studies research institute)」を発足し、多文化間における伝統武術・武技や伝統武具の用い方などの研究を進めている。著書に『武学探究―その真を求めて』『武学探究 (巻之2) 』(どちらも甲野善紀氏との共著、冬弓舎)、『荒天の武学』(内田樹氏との共著、集英社新書)など。

Web site: 日本韓氏意拳学会
国際武学研究会: bugakutokyo.blogspot.com
twitter:@mclaird44