連載 扇谷孝太郎 「身体と動きの新法則 筋共鳴ストレッチ」08

| 扇谷孝太郎

身体と動きの新法則

筋共鳴ストレッチ

第8回 犬歯の役割

扇谷孝太郎

 

Image: iStock

ここまで、柔軟性トレーニングにとってもっとも重要な要素は背骨の安定性の確保だということを書いてきました。そして、背骨の安定性を得るにはチャクラを意識して動くこと、また、チャクラを支える呼吸を意識することが必要だということもお伝えしてきました。

呼吸によってチャクラを安定させることで、体幹の筋肉のバランスが整い、それが「筋共鳴」によって全身へと波及していきます。

では、どのような呼吸をすれば良いのでしょうか?

それにはいくつかのポイントがありますが、前回は

  • 休息のための胸・腹呼吸から運動のための背中・腰呼吸へのシフト
  • そのための呼吸と背骨の動きの関係
  • 頭部の安定の必要性

についてお伝えしました。

とくに頭部の安定については、目、顎、首の筋肉の連携を高めるために、犬歯で割り箸をくわえて動くエクササイズをご紹介しました。

顎や舌が犬歯で噛むポジションにあるとき、柔軟性や安定性が高まりましたね?

今回は「犬歯で噛むポジション」の続きです

 

犬歯と奥歯の割り箸エクササイズの比較 

犬歯で割り箸をくわえることの効果

前回、犬歯で割り箸をくわえることで、顎、首、目の連携が高まり、頭部の安定性と柔軟性が向上することをご紹介しました。

まずは、エクササイズの復習をしてみましょう。

犬歯で割り箸をくわえてゆっくり呼吸をしていると、以下のような変化が起こるのを感じられるでしょう。

  • 目の動きがスムーズになる
  • 背骨の柔軟性が高まる
  • 舌が丸まって、付け根が安定する
  • 上下の奥歯と奥歯の間が少し開く
  • 鼻腔の奥の息の通りが良くなる

エクササイズのコツは、ただくわえるのではなく、引っ張られても離さないくらいの気持ちでしっかり「犬歯に」力を入れることです。犬歯に力が入ると、奥歯の方はむしろ力が抜けてだんだん上下の奥歯の隙間が広がってくるのが感じられるでしょう。

また、日頃から唇の動きが悪くなっている人の場合は、犬歯で割り箸をくわえたときに唇の両端の口角を引き上げたり、歯を見せるようなつもりで上唇を持ち上げたりすると、顔の筋肉(表情筋)が活性化して、効果を感じやすくなります。

ちなみに、奥歯でくわえると、逆に目が動かしにくくなって、柔軟性や安定性も低下します。

歯の噛み合わせが身体のバランスに影響を与えることは、よく知られています。

隙間なく上下の歯が密着するのが良い噛み合わせのように思われるかもしれませんが、実はそうでもありません。前方に位置する犬歯と奥に位置する臼歯は、同時に上下が噛み合うのではなく、犬歯側が噛み合うと臼歯側はわずかに離れ、臼歯側が噛み合うと犬歯側がわずかに離れるようにできています。

ですから、犬歯で噛んでいると、奥歯を噛みしめるのに使われていた筋肉の緊張が自然にリセットされて、身体を動かすための顎のポジションが思い出されてくるのです

この犬歯で噛むポジションは、舌の付け根の安定感や、首の角度、鼻腔の奥の息の通り方などを感覚的に覚えることで、割り箸が無くても作れるようになります。

犬歯で噛むポジションのメリットは柔軟性だけではありません。目の動きがスムーズになるということは、目標を目で捉えたまま素早く動いたり、高速で動く目標を目で追うことがしやすくなるということです。これは、コンマ何秒の動きを競うスポーツにおいては、大きな意味を持ちます。

力の発揮と犬歯で噛むポジション

犬歯で噛むポジションによって頭蓋骨と頸椎をつなぐ環椎後頭関節(AOJ)が安定することで、背骨全体も安定します。そのため、関節を介した力の伝達がスムーズになり、楽に強い力を発揮できるようになります。

この力の伝達についても実験をしてみましょう。二人組で行います。

<実験1>(犬歯/奥歯で割り箸をくわえて「押す」動作)

A:割り箸をくわえる人
B:抵抗をくわえる人

(犬歯)

  1. (ウォーミングアップ)犬歯で割り箸をくわえて、目の動きやすさ、舌の付け根の安定、上下の奥歯の開き、息の通り方などを感じるようにする。

  2. (ウォーミングアップ)割り箸を軽く前に押した状態で、テンションを感じながら頭を前後、左右、上下に動かす。二人で行う場合は相手に割り箸を引っ張ってもらうと行いやすい。

  3. AとBは向かい合ってお互いの片手を合わせ、Aが押してみる。Bは壁役として、しっかり抵抗する。

(奥歯)

  1. (ウォーミングアップ)奥歯で割り箸をくわえて、目の動きにくさ、上下の犬歯の開きなどを感じてみる。

  2. (ウォーミングアップ)割り箸を軽く前に押した状態で、テンションを感じながら頭を前後、左右、上下に動かす。

  3. AとBは向かい合ってお互いの片手を合わせ、Aが押してみる。Bは壁役として、しっかり抵抗する。

(比較)

  • Aは犬歯で噛んでいたときと、奥歯で噛んでいたときの全身の力のつながり、力の出し易さをくらべてみる。Bは受けとめた力の違いをくらべてみる。

奥歯で噛むポジションに比べて、犬歯で噛むポジションの方が楽に強い力を発揮できることがわかるでしょう

スポーツの世界などでは、「歯をくいしばって頑張る」のではなく、顎や舌を適度にリラックスさせる方が良いと言われています。

「歯をくいしばる」ときは、たいてい奥歯を噛みしめているので、力を効果的に使えなくなっているからだと考えられます

ギックリ腰になってセッションを受けに来るクライアントの方にお話しを聞くと、多くの場合、長期にわたって仕事が忙しかったり、人間関係で悩んでいたりします。つまりストレスに耐えている状態が続いているときに、発症することが多いのです。

ストレスに耐えて頑張っているとき、わたしたちは無意識に奥歯を噛みしめるポジションにいます。その状態で重い荷物をもつとか、急に立ち上がるなどの負荷がかかると、背骨が安定していないためにギックリ腰になってしまうのだと考えられます。

エクササイズと犬歯で噛むポジション

もう一つ、実験をしてみましょう。今度はエクササイズに応用してみます。二人組で行います。

<実験2>(犬歯と奥歯のエクササイズの行い易さハンドレッドでの比較)

A:割り箸をくわえる人
B:抵抗をくわえる人

  1. Aは仰向けに寝て、両膝を立てる。

  2. BがAの額を指で押さえる。

  3. AはBの指を押し返して頭を持ち上げる。同時に腕を床から浮かす。

  4. Aは手のひらで水面を叩くように両手を上下させる。

  5. Aが犬歯で割り箸をくわえて、首を前後、左右側屈、左右回旋したあと、1〜4を行う。

  6. Aが奥歯で割り箸をくわえて、首を前後、左右側屈、左右回旋したあと、1〜4を行う。

  7. 割り箸なし、犬歯でくわえる、奥歯でくわえるの3つのパターンを比較してみる。

犬歯で噛むポジションを使うと、額を押さえられていても楽に高く頭を上げられるのがわかるでしょう。自然に背骨が安定してコアの筋力が使えるようになるからです。逆に奥歯で噛むポジションだと頭を上げるのが困難になります。

ハンドレッドはピラティスの定番エクササイズですが、頭を上げているのが辛いという人は、前もって犬歯で割り箸を噛んだ状態で練習して、動作中の目、顎(+舌)、首のポジションを覚えることで楽にできるようになります。

このように頭部のポジションは、柔軟性を高めるだけでなく、筋力アップや体幹強化が目的のエクササイズをするときにも重要になります。

なお、このポジションで頭部が安定していると、エクササイズ中の呼吸や発声もスムーズになります。エクササイズの強度を決めるときに、「会話をしながらできる程度」という基準がありますが、会話ができるかどうかは単に負荷の大小の問題ではなく、動作の質の問題に起因するということは気をつけておかなければなりません。

エクササイズは「量」より「質」

無駄の多い動作ほど、息が詰まったり、筋肉が悲鳴をあげたりするため、努力感や疲労感が大きくなりがちです。無駄が多い分、エクササイズを続けていったときの筋肉の量も増えやすいと言えますが、動作の質を伴わない筋肉の増加は、一方で柔軟性や安定性の低下を招くため全体的なパフォーマンスの向上には結びつきにくいと言えます。

無駄が多いということは、本来の動作で活躍してほしい筋肉の連携ではなく、その他の筋肉が代償的に動員されていることを意味しています

そのような筋肉の増量よりも、まずはより無駄の少ない動作のための神経回路の構築にエネルギーを費やすべきというのが、ロルフィングをはじめ多くのボディワークで言われることです

ストレッチなどのエクササイズで柔軟性向上だけに注目してしまうと、全体のバランスが不安定になってしまうのと同様に、筋力アップを目的としたエクササイズの場合、ターゲットの筋肉に負荷を強化することだけに注目していると、やはり全体のバランスを悪化させてしまう危険があります。

このことは、ときどきバレエダンサーや愛好者の中に、太くてモリモリした筋肉がつくことを理由に、筋力トレーニングに後ろ向きな人たちがいることとも関係しています。

筋トレで踊りのパフォーマンスアップにつながらない形で筋肉がついてしまうのは、主に姿勢を安定させるためのスタビライザーの筋肉群の働きが不十分なためです。これまでご紹介してきたように、背骨のチャクラのバランス、呼吸の仕方などを正しくセッティングしてスタビライザーを働かせることによって、効果的な筋力トレーニングを行うことができます。

これから運動を始めようという人の場合には、「とにかく運動してみよう」」というモチベーションが大事なので、最初は運動すること自体を日常に組み込む努力にエネルギーを費やす事になりますが、その次の段階では、故障の予防や運動の本質的な効果を高める意味でも、「動作の質」に注目してほしいと思います。

(第8回 了)

※(筋共鳴)は現在、商標登録出願中です。

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–Profile–

扇谷孝太郎(Kotaro Ogiya

大学院在学中に演出家竹内敏晴氏の「からだとことばのレッスン」に出会い、身体と身体表現についての探求を始める。2001年、ロルファー™の資格を取得し公務員からボディワーカーに転身。現在は恵比寿にてロルフィング®を中心に、クラニオセイクラルやソマティック・エクスペリエンス®などの個人セッションを行う。 ヨガやバレエスタジオでの定例セミナーでは、身体のメカニズムのほか、呼吸や感覚、イメージの活用を独自の視点でまとめた「動くための解剖学」を教える。その内容はダンサーやヨギなど、柔軟性と身体バランスを必要とする人々から高い支持を得ている。また「からだと息で読む朗読」講座では、朗読という表現手法をとおして「共鳴を生む身体の育て方」を探求中。

●米国The Rolf Institute認定アドバンストロルファー
●米国The Rolf Institute認定ロルフムーブメントプラクティショナー
●クラニオセイクラルプラクティショナー
●ソマティック・エクスペリエンシング®︎認定プラクティショナー
●JMET認定EFTプラクティショナー

公式Web Site (https://www.rolfing-jp.com)