連載 扇谷孝太郎 「身体と動きの新法則 筋共鳴ストレッチ」09

| 扇谷孝太郎

身体と動きの新法則

筋共鳴ストレッチ

第9回 腹腔内圧のコントロール

扇谷孝太郎

 

Image: iStock

「呼吸モード」の3回目です。今回は呼吸モードの要となる「腹腔内圧」のコントロールについてお話しします。安定性を保ちながら柔軟性を高めるためには、ぜひ知っておきたいポイントです。

なお、呼吸モードとは、呼吸という運動の過程を、息を最大まで吸ったとき、息を吐ききったとき、自然な呼吸のときに分け分け、それぞれの段階の筋肉の使われ方の特性を柔軟性トレーニングに利用するというアイディアです。

前回まで書いてきた、

  • 背中&腰呼吸
  • 呼吸のゼロポジション
  • 背骨のコントロール
  • 頭部の安定化

といった要素は、この腹腔内圧のコントロールを効果的に行うための準備でもあります。

腹腔内圧のコントロール

腹腔内圧とは?

筋肉などで仕切られた身体の中の空間のことを「腔(くう)」と呼びます。上から鼻腔、口腔、胸腔、腹腔などがあります。

このうち、横隔膜より下の空間のことを「腹腔」と呼びます。ここには胃や腸、肝臓や腎臓などの臓器が入っています(腹腔の中でも下の方の骨盤に囲まれた部分は骨盤腔と呼ぶこともあります)。

腹腔はいくつかの筋肉によって囲まれています。腹腔を楕円形の円柱に例えると、天井は横隔膜、前面と左右の側面は腹横筋、後面は多裂筋、底面は骨盤底筋群によって構成されています。これらの筋肉が収縮することで生まれる腹腔内の圧力が「腹腔内圧」です

そして、この腹腔内圧をつくりだしている上記の筋肉たちを「インナーユニット」と呼びます

ここでインナーユニットによる腹腔内圧の上昇を体験してみましょう。

姿勢を安定させた状態で腕や脚を大きく早くうごかそうとすると、反射的にインナーユニットが収縮して腹腔内圧が高まります。

<実験1>

  1. (準備)まっすぐ立って、骨盤底の中心をかるく引き上げる(この感覚がわからないときは、お尻の穴を軽くしめておくことで代替する)。
  2. 足の裏を床にしっかりつけて、頭が天井から、足は地面から引っ張られているようなつもりで15秒くらいゆっくり呼吸をする。
  3. 腕を下にまっすぐ伸ばして、そのままペンギンが羽をはばたかせているようなイメージで、両腕をパタパタと振る。肘や手首、指先をしっかり伸ばして行う。
  4. 羽ばたきのスピードをどんどん早くしていく。自然なペースで呼吸をつづける。
  5. スピードを早くするにつれて、お腹に力が入るのを観察してみる。
  6. その力を抜かないようにして腕振りを止めて、お腹にさわってみると腹筋群がはたらいて硬くなっているのがわかる。

インナーユニットによる体幹の安定化

インナーユニットによる腹腔内圧の上昇は、体幹を安定させるためには欠かせない機能です

なぜ体幹の安定が必要なのかというと、体幹は腕や脚をうごかすときの土台だからです。土台がグラグラしていると、腕や脚をうごかす勢いや、重心の変化に対応でずに姿勢が崩れてしまいます。

土台になる体幹が安定しているほど、腕や脚の筋力と関節の可動域を最大限に引き出せます。反対に、体幹が不安定なままで無理に腕や脚を動かせば、姿勢が崩れてケガや故障の原因になります。

腰痛の予防や治療後のリハビリテーションで、体幹トレーニングを行うのはそのためです。

インナーユニットが収縮して腹腔内圧が高まると、腹腔全体がパンパンに張った大きな水袋のようになります。するとそれがクッションになって、急なうごきや負荷の高いうごきに対して腰椎を保護してくれます。

自分が腰椎で、腹腔という「柱」に抱きついているのだと想像してみてください。もしもそこに地震がきたら、フニャフニャの状態の柱(腹腔)にしがみついても自分(腰椎)は立っていられないでしょう。逆に柱(腹腔)が安定していれば、しがみつくことで自分を支えられます。

©︎Kotaro Ogiya

インナーユニットが正しく活動することによって、運動中でも背骨のS字カーブのバランスを維持することができます。

このインナーユニットによる腹腔内圧のコントロールを精密化していくことが、筋共鳴ストレッチの大切な要素です

インナーユニットと筋共鳴

インナーユニットの活動による効果は、腹腔内圧の上昇だけではありません。筋共鳴によって全身の筋肉に影響を与えます

インナーユニットのそれぞれの筋肉の活動に共鳴する形で、全身の「スタビライザー」や「モビライザー」の筋肉にスイッチが入ります。脳からの司令にすぐ反応して力を発揮できる、いわばアイドリングのような状態になるのです。このことを生かして、インナーユニットを効果的につかえれば、それだけで四肢をふくめた全身の柔軟性と安定性を向上させることができます

このとき、スタビライザーを中心にスイッチが入るか、モビライザーを中心にスイッチが入るかは、インナーユニットと呼吸の組み合わせ方によって変化します

大きく息を吸ったタイミングでインナーユニットを働かせれば身体は「硬く」なり、深く息を吐いたタイミングで働かせれば、「やわらかく」なります。

それぞれの呼吸の段階の特徴をふまえた上で、目的に応じて使い分けることが重要です。

ヨガやバレエの初心者で、なかなか身体がやわらかくならない人や、逆にやわらかいのだけれど動くと姿勢が安定しないという人の場合、この呼吸の段階の使い分けができていないことがよくあります。

呼吸の段階の復習

ここで、呼吸の段階について、復習しておきましょう。以下の段階があります。

「呼吸のゼロポジション」を思い出してください。これは、安静時に自然な呼吸をしているときの、息を吐き終わった瞬間の身体の状態です。このとき、全身の筋肉は弛緩し、骨格はもっとも自然な位置関係に収まります。

そしてゼロポジションから自然に息を吸っていく段階は「自然な吸気」、そこから自然に息を吐いていく段階を「自然な呼気」と呼びます。ゼロポジション~自然な吸気~自然な呼吸~そしてまたゼロポジション、という呼吸のサイクルをここでは「自然な呼吸」とします。

これらの過程では、主に横隔膜の収縮/弛緩によって呼吸が行われます。

ここからさらに、深呼吸のように大きく息を吸ったり吐いたりする場合があります。「自然な吸気」の範囲を超えて、さらに息を吸う段階を「努力性の吸気」「自然な呼気」を超えて息を深く吐く段階は「努力性の呼気」といいます。

「努力性の吸気」には、横隔膜のうごきに加えて、多くの呼吸を補助する筋肉(外肋間筋、上/下後鋸筋、前鋸筋など)が参加します。

「努力性の呼気」には腹横筋と内肋間筋を中心に、外/内腹斜筋、腹直筋などがはたらきます。

このように、呼吸の段階によって、はたらく筋肉が変化するため、筋共鳴のスイッチがはいる筋肉も変化するのです

呼吸の段階のつかい分け

呼吸の段階ごとの、インナーユニットによる腹腔内圧の上昇と、筋共鳴によって活性化される筋肉の組み合わせを、ここでは「呼吸モード」と呼ぶことにします。

大きく分けると、以下の3つのモードがあります。

A 自然な呼吸モード
B 努力吸気のモード
C 努力呼気のモード

これらのうち最も柔軟性が高くなるのはCの「努力呼気のモード」です。逆に最も体が硬くなるのはBの「努力吸気のモード」です。Aの「自然な呼吸モード」は両者の中間になります。それではそれぞれのモードについて実際に体験してみましょう。

<実験2>

各呼吸モードの効果を比較するために各モードの柔軟性をチェックしてみます。

  1. (準備)まず呼吸モードが働いていない状態での柔軟性をチェックしておきましょう。前屈、後屈、側屈、回旋などの動きを試して、柔軟性を確かめておきます。
  2. 自然な呼吸モードは、【実験1】で行った動作を行います。お腹に力が入っている状態で柔軟性をチェックしてみます。
  3. 次に努力吸気のモードを試します。 息を大きく吸いきって腹部が前後左右に膨らんだところで【実験1】の動作を行います。それからお腹の力をぬかずに柔軟性をチェックします。
  4. 最後に努力呼気のモードを試します。息を深く吐き切ってお腹が凹んだところで【実験1】の動作を行います。動作中は呼吸はつづけますが、凹めたお腹はそのままを維持します。その後お腹の力をぬかずに柔軟性をチェックします。
  5. それぞれのモードの動きや柔軟性を比較してみましょう。

各モードのあとの柔軟性をチェックしてみると、あらかじめ腹腔内圧を高めておくことで、身体の柔軟性や剛性をコントロールできることがわかります。

以下に各モードの特徴をまとめてみます。

【自然呼吸モード】

自然な吸気と呼気のサイクルで呼吸をしながら、立つ、歩く、座るなど日常的なうごきの中で身体を安定させるためにインナーユニットが使われている状態です。とくに何も意識せずにエクササイズやストレッチをしているときにも、このモードがつかわれていることが多いです。

腰痛や、肩、股関節のトラブルの多くは、このモードでインナーユユニットが正しく活動できていないことが原因です。

【努力吸気モード】

努力性の吸気のタイミングで、インナーユニットをつかって腹腔内圧を高めた状態です。このモードでは、筋共鳴によって全身の主に「モビライザー」のスイッチが入ります。そのため、身体の剛性が高まり、身体は「硬く」なりますが、衝撃に対する耐性は発揮しやすくなります。大きな筋肉をはたかせられるので、ウェイトトレーニングなどでパワーを発揮するのに有利です。

ウェイトトレーニングなど、自重を超えた負荷をつかった筋トレをするときには、自然にこのモードが多く使われます。

【努力呼気モード】

努力性の呼気はゼロポジションを超えて息を吐くので、腹横筋が収縮してお腹が凹みます。その状態を保ったままで腹腔内圧を高めると、主に全身の「スタビライザー」が活性化します。そのため身体は「やわらかく」なります。関節のそばの小さい筋肉をはたらかせられるので、細やかなうごきがや機敏なうごきもしやすくなります。

ヨガのポーズの中でも、いわゆる「深いポーズ」でうごきが関節の可動域の限界に近づくにつれて、このモードが使われていきます。このとき、腹腔内圧の上昇をともなわないままにストレッチだけを意識してポーズを作ってしまうと、ポーズをほどいたあとに関節の安定性を失ってしまいます。

筋共鳴ストレッチにおいては、まずこの「努力呼気モード」で腹腔内圧を活用することによって、柔軟性と安定性を高めていくことができます

なお、武道などで行われる「逆腹式呼吸」について「息を吐きながらお腹をふくらませる」と説明されることがあります。これは努力呼気モードとは異なります。呼気とともに横隔膜を下降させて腹腔内圧を高め、内側からお腹がふくらむ方向に力をかけるところまでは同じです。しかし、努力呼気モードではふくらんで来る力よりも腹横筋の収縮の力の方が強いので、お腹はふくらみません。むしろ凹みます。これとは逆に、腹横筋の力の方が弱いと、お腹はふくらむことになります。この点で、努力呼気モードといわゆる「逆腹式呼吸」は異なります。

呼吸モードと腹腔の形状 

呼吸モードの切り替えは、腹腔の形状をイメージすることでもしやすくなります。

©︎Kotaro Ogiya

腹腔を「楕円の円柱」としてイメージしてみましょう。ゼロポジションのとき(自然な呼吸で息を吐き終わったとき)の腹腔の形を基準とします。

「努力吸気モード」では、円柱は太く、高さは低くなります

これは横隔膜が下がり、骨盤底が上昇することにより腹腔内圧が高まって、側面の壁である腹横筋を横方向に押し拡げるからです。また多裂筋を中心とした回旋筋群も伸ばされて、腰椎のS字カーブは深くなります。

逆に「努力呼気モード」では、円柱は細く、高くなります

腹横筋が収縮して胴回りを締めつけることで腹腔内圧が高まり、それに押されて横隔膜は上昇、骨盤底は下降するからです。そして、多裂筋を中心とした回旋筋群は収縮し、腰椎のS字カーブは浅くなります。

呼吸モードの切り替え

はじめのうちはこれらの呼吸モードを意識的に切り替えるようにしてみてください。それによって、それぞれの呼吸モードの特徴を活かしたコンディショニングやトレーニングができるようになるでしょう。

呼吸の各段階を意識できるようになると、ストレッチやヨガのポーズが完成した段階で、努力呼気モードから努力吸気モードまでをカバーするように大きく深呼吸を行うことで、全身のスタビライザーとモビライザーを刺激することができます。それによって、柔軟性だけではなく、安定性を向上させることができます。

次回は、呼吸モードを活用するための、腹腔内圧の高め方について、さらに掘り下げてご紹介したいと思います。

(第9回 了)

※(筋共鳴)は現在、商標登録出願中です。

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–Profile–

扇谷孝太郎(Kotaro Ogiya

大学院在学中に演出家竹内敏晴氏の「からだとことばのレッスン」に出会い、身体と身体表現についての探求を始める。2001年、ロルファー™の資格を取得し公務員からボディワーカーに転身。現在は恵比寿にてロルフィング®を中心に、クラニオセイクラルやソマティック・エクスペリエンス®などの個人セッションを行う。 ヨガやバレエスタジオでの定例セミナーでは、身体のメカニズムのほか、呼吸や感覚、イメージの活用を独自の視点でまとめた「動くための解剖学」を教える。その内容はダンサーやヨギなど、柔軟性と身体バランスを必要とする人々から高い支持を得ている。また「からだと息で読む朗読」講座では、朗読という表現手法をとおして「共鳴を生む身体の育て方」を探求中。

●米国The Rolf Institute認定アドバンストロルファー
●米国The Rolf Institute認定ロルフムーブメントプラクティショナー
●クラニオセイクラルプラクティショナー
●ソマティック・エクスペリエンシング®︎認定プラクティショナー
●JMET認定EFTプラクティショナー

公式Web Site (https://www.rolfing-jp.com)