連載 扇谷孝太郎 「身体と動きの新法則 筋共鳴ストレッチ」10

| 扇谷孝太郎

身体と動きの新法則

筋共鳴ストレッチ

第10回 筋共鳴™とインナーユニット

扇谷孝太郎

 

Image: iStock

「呼吸モード」の4回目です。

呼吸モードは、呼吸という運動の過程を、

  • 息を最大まで吸ったとき
  • 息を吐ききったとき
  • 自然な呼吸のとき

の段階に分けて、それぞれの段階の筋肉の使われ方の特性を柔軟性トレーニングに利用するというアイディアです。

前回ご紹介したように、この呼吸モードは、インナーユニット(第9回)による腹腔内圧の高まりと、それをどの呼吸の段階と組み合わせるのかによって、

 a)自然呼吸モード
 b)努力吸気モード
 c)努力呼気モード

の3つに分けられます。

今回は、呼吸モードのつかい方、とくにcの努力呼気モードによる柔軟性と安定性の向上についての探求をさらに深めていきましょう

そして、後半は呼吸モードを意識した上で、いよいよ本連載のメインテーマである「筋共鳴™」の話しに入っていきましょう

筋共鳴の仕組みと組み合わせることで、努力呼気モードへの移行をスムーズにすることができるでしょう。

 

インナーユニットをつかうためのポイントはチカラの拮抗

呼吸モードの要は、インナーユニットと呼吸の段階の組み合わせ方にあります。

エクササイズやストレッチをするときに、ただ呼吸を意識するだけではなく、もう一歩進んで、インナーユニットの筋肉群がつくりだす「腹腔内圧のコントロールのための呼吸」を意識することで、より効果的に行えるようになります

前回ご紹介したとおり、この腹腔内圧を高めるためには、インナーユニットを構成する筋肉同士が「力の拮抗」を作り出さなければなりません。

具体的には、努力吸気モードでは、横隔膜が下降する力、つまり短縮性収縮(筋肉が縮もうとして長さも短くなること)によって腹腔が前後左右(水平方向)にふくらんでいくので、それを抑え込むために腹横筋の伸張性収縮(筋肉は縮もうとしているが外からの力で長さは伸ばされていること)によって腹部を締め付ける必要があります。まとめると以下のような仕組みになります。

著者制作

【努力吸気モードの仕組み】

努力吸気のために横隔膜が下降(短縮性収縮)
→ 腹腔内の内臓や血液が圧迫される
→ 圧力により腹腔が水平方向にふくらむ(下方向は骨盤底の収縮(短縮性収縮)によりやや上昇)
→ 腹横筋が収縮(伸張性収縮)して腹腔を締め付ける
→ 腹腔内圧が上昇する

 

次に、努力呼気モードでは、呼気で腹横筋の収縮(短縮性収縮)によって腹腔が絞り込まれていく力に対して、横隔膜を収縮(伸張性収縮)させ、内側からの腹横筋を押し広げる力で抵抗します。

【努力呼気モードの仕組み】

努力呼気のために腹横筋が収縮(短縮性収縮)して腹部を締め付ける
→ 腹腔の内蔵や血液を圧迫
→ 腹腔が垂直方向にふくらむ((下方向は骨盤底の収縮(伸張性収縮によりやや下降)
→ 横隔膜が収縮(伸張性収縮)して腹腔の天井を押し下げようとする
→ 腹腔内圧が上昇する

努力吸気モードでも、努力呼気モードでも、どちらの場合にも、横隔膜は腹腔内圧を高めるために収縮して下降する方向への力を発揮し続けています。そのため通常の呼吸のようには横隔膜は自由に上昇・下降ができません。そのままでは呼吸量が不足してしまうので、肋間筋などの呼吸補助筋によって胸郭を拡張・収縮させることで補うことになります。

「人間は安静時には腹式呼吸、運動時には胸式呼吸を主につかっている」と言われることがあるのは、このためです。

ストレッチや筋力トレーニングを行う際に重要なのは、動作中、この腹腔内圧の上昇を作り出している横隔膜と腹横筋と骨盤底の力の「拮抗」が失われないということです。

その上で、努力吸気モードによってモビライザーの筋肉群の活動を高めるのか、努力呼気モードによってスタビライザーの筋肉群の活動を高めるのかを、選択していくことになります。

 

努力呼気モードがなぜ難しいのか?

自然呼吸モード、努力吸気モードの2つにくらべると、努力呼気モードは難しく感じる人が多いと思います。

自然な呼吸をしているときや、努力吸気のあとにつづく呼気では、息を吐くためにほとんど筋力を使いません。息を吸うときにつかっていた横隔膜の下降や、胸郭をふくらませるための筋肉の力を抜けば、骨や靭帯、筋肉の弾性力によって息は自然に吐き出されます。膨らませた風船の口をゆるめれば、勝手に空気が抜けていくのと同じです。

そのため、日常動作や軽度の運動(荷物を持つ、歩く、階段を上下するなど)では、ゼロポジション~自然な吸気~努力吸気の範囲で呼吸をしていることが多いのです。そのため、自然呼吸モードと努力吸気モードには、身体が馴染んでいます。

しかし、努力呼気では、自然な呼気の吐き終わりを超えて、つまりゼロポジションを超えてお腹を凹ませて息を吐く必要があります。これは、意識的に行わなければなりません。そのため、努力呼気とインナーユニットの活動を組み合わせる努力呼気モードの身体のつかい方には訓練が必要なのです。

息を限界まで吸うことや逆に息を吐き切ることは、ヨガやエクササイズなどでもよく言われることですが、腹腔内圧を維持するという正しいつかい方が身についていないと、エクササイズ自体の本来の効果を引き出すことができなくなります。これは意外な盲点です。

ヨガのポーズの多くは、息を吐きながら行います。しかし、ポーズを完成させるまでの動作の途中で腹腔内圧が失われてしまっている人をよくみかけます。そうすると、一見同じ形にポーズを完成させたように見えても、努力呼気モードが機能していないため、十分な柔軟性が引き出せていなかったり、関節の安定性が得られていなかったりします

動作中に横隔膜がゆるんで腹腔内圧の上昇が失われてしまうと、ただお腹を凹ませているだけの不自然な運動になってしまうのです。

また、お腹を凹める際、口から息を吐いてしまうと、腹横筋ではなく腹直筋や内・外腹斜筋の収縮が優位になるため正しい姿勢が保てなくなります。腹直筋や内・外腹斜筋は背骨を屈曲させるための筋肉だからです。もしもこの屈曲の力に抵抗してまっすぐな姿勢を保とうとすると、背骨の伸筋である脊柱起立筋を必要以上に収縮させることになり、体幹部の柔軟性を失うことになります。その結果、不必要な緊張状態のまま身体を動かしてしまい、痛めてしまうことも少なくありません。

筋共鳴™とインナーユニット

努力呼気モードを正しく身につけるには、呼気とともにインナーユニットを構成する筋肉が働いている「感覚」をつかむことが早道です。

そこで、本連載のメインテーマである、「筋共鳴」を積極的に活用していきましょう。インナーユニットの活動を、「筋共鳴」の仕組みを使って引き出します。筋共鳴によって、それぞれの筋肉を個別に活性化させることができます。

インナーユニットを構成する筋肉と筋共鳴の関係にある筋肉は下記のとおりです。

a)腹横筋 = 手の掌側骨間筋
b)横隔膜 = 手の母指内転筋
c)骨盤底(肛門挙筋群) = 僧帽筋 / 骨盤底(尾骨筋) = 手の小指外転筋

a、b、cを見ると、興味深いことに、インナーユニットは手の指の筋肉と深くつながっていることがわかります。

 

これら以外にも、手や足の小さな筋肉は体幹の筋肉と共鳴している場合が多いので、身体の中心である体幹部のうごきのパフォーマンスを向上させるには、末端部である手足の動きの操作が必要不可欠だと言えます。

座禅や瞑想ときのの手の「印」や、ヨガの手の「ムドラ」、武術における「手のうち」など、手の形が特別な意味や実用性をもっていると伝えられてきたのも、筋共鳴の視点からみるとその合理性がはっきりします。まさに、先人の身体感覚の繊細さと合理的な思考の表れとしてとらえることができるでしょう。

 

手の掌側骨間筋から腹横筋を活性化

では、今回は腹横筋を活性化させるために、手の掌側骨間筋を刺激してみましょう。。

手の掌側骨間筋は、指と指の間を閉じる動きにつかう筋肉です。中指に向かって人差し指と薬指、小指の付け根部分を引き寄せます。また、それら4本の指を伸ばしたまま、付け根から屈曲させる働きもあります。

したがって、人差し指から小指までの4本の指を閉じて、指を伸ばしたまま付け根から曲げた状態(手を横から見ると逆L字型)が掌側骨間筋を活性化させます。

呼吸とともに掌側骨間筋をつかうことで、腹横筋を中心にインナーユニットを活性化させ、体幹を安定させられます。

掌側骨間筋の効果を実験してみましょう。

【実験1】 掌側骨間筋と腹横筋の共鳴

(A)

  1. まっすぐに立って、5回くらい深呼吸をする。
  2. 膝を胸につけるつもりで片足できるだけ高く上げてみる。左右それぞれを行う。軸足側の膝を曲げないように注意する。

(B)

  1. 胸の前で、指を伸ばした状態で、左右の手の指を互い違い差し込むようにして、両手を組む。指の付け根の方まで深く組むようにする。
    手の組み方
  2. 掌側骨間筋を働かせて指と指の間を閉じるようする。お互いの指の付け根の側面を押し合うことになる。
  3. その状態で5回くらい深呼吸をする。
  4. 手を組んだまま膝を胸につけるつもりで片足をできるだけ高く上げてみる。左右それぞれを行う。軸足側の膝を曲げないように注意する。

 

(A)(B)を比較してみましょう。(B)のときのほうが、楽に高く足が上がったのではないでしょうか?

インナーユニットの働きによって腹腔内圧が高まり体幹が安定すると、足を上げる動作が楽に行えるようになります。

また、深呼吸をした際にお腹が締まる感覚に気づいた人もいるかも知れません。掌側骨間筋からの共鳴によって、腹横筋が活性化し収縮したのです。この感覚に気づくことで、努力呼気モードを感覚的に理解しやすくなるでしょう。

なお、この筋共鳴は、掌側骨間筋→腹横筋という一方通行ではなく、腹横筋→掌側骨間筋という逆向きの方向でも生じています。

この原理を理解していると、ストレッチやエクササイズのときの指のつかい方を変えることによって、努力呼気モードでインナーユニットを簡単に活性化させることができます。

たとえば、スクワットや腹筋の筋力トレーニングの際に頭の後ろで手を組むことがありますね? そのときに漫然と手を組むのではなく、掌側骨間筋の指と指の間を締める力をつかって努力呼気モードで行うなどの工夫が考えられます。

努力呼気モードで行うことで、筋力トレーニングを柔軟性トレーニングへと変えられます。

こちらも、実験してみましょう。

【実験2】 スクワットと掌側骨間筋

※ スクワットのポイント

  • 肩幅に足をひらいて立つ。つま先はやや外にひらく。
  • 動作中は頭から尾骨までをまっすぐに保つ。
  • 股関節で屈曲・伸展を繰り返す。屈曲したときに腰を丸めないように注意する。
  • 膝がつま先より前に出ないように屈むことで、お尻を後ろに引く形になる。
  • 屈曲の深さは、無理のない程度でよい。可能なら太ももが床と平行になるくらい(ハーフスクワット)まで、または完全にしゃがむ態勢(フルスクワット)まで。

(A)

  1. (Before)前屈・後屈・側屈・回旋をして柔軟性をチェックする。
  2.  実験1とおなじく、まっすぐに立ち、5回くらい深呼吸をする。
  3.  腕を胸の前で軽く交差させて、10回スクワットをする。
  4.  (After)前屈・後屈・側屈・回旋をして柔軟性の変化をチェックする。

(B)

  1. (Before)前屈・後屈・側屈・回旋をして柔軟性をチェックする。
  2. 実験1とおなじく、まっすぐに立ち、胸の前で両手の指と指を組み合わせる。
  3. 指と指の間を閉じるようにして、掌側骨間筋を働かせた状態で5回くらい深呼吸をする。息を吐くときにお腹が締まるのを感じてみる。
  4. 手を胸の前で組み合わせたまま、10回スクワットをする。
  5. (After)前屈・後屈・側屈・回旋をして柔軟性の変化をチェックする。

(A)のスクワット後の変化と、(B)のスクワット後の変化を比較してみましょう。普段の運動経験の違いによって、個人差はあると思いますが、ほとんどの人は(B)のスクワットの後のほうが、柔軟性がアップしているでしょう。

もしも、ペアで実験を行えるなら、以前ご紹介した三角筋テストなどの筋反射テストで運動の前後の比較を行ってみるのも良いでしょう。

このように、筋共鳴と努力呼気モードをうまく組み合わせることで、ふつうの筋力トレーニングの効果を向上させるとともに、柔軟性トレーニングと両立させていくことができます。

ぜひ試してみてください。

呼吸モードについては、今回でひとまず終了です。次回から、本連載のメインテーマである筋共鳴について、さらにご紹介していきたいと思います。

(第10回 了)

※(筋共鳴)は登録商標です。

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–Profile–

扇谷孝太郎(Kotaro Ogiya

大学院在学中に演出家竹内敏晴氏の「からだとことばのレッスン」に出会い、身体と身体表現についての探求を始める。2001年、ロルファー™の資格を取得し公務員からボディワーカーに転身。現在は恵比寿にてロルフィング®を中心に、クラニオセイクラルやソマティック・エクスペリエンス®などの個人セッションを行う。 ヨガやバレエスタジオでの定例セミナーでは、身体のメカニズムのほか、呼吸や感覚、イメージの活用を独自の視点でまとめた「動くための解剖学」を教える。その内容はダンサーやヨギなど、柔軟性と身体バランスを必要とする人々から高い支持を得ている。また「からだと息で読む朗読」講座では、朗読という表現手法をとおして「共鳴を生む身体の育て方」を探求中。

●米国The Rolf Institute認定アドバンストロルファー
●米国The Rolf Institute認定ロルフムーブメントプラクティショナー
●クラニオセイクラルプラクティショナー
●ソマティック・エクスペリエンシング®︎認定プラクティショナー
●JMET認定EFTプラクティショナー

公式Web Site (https://www.rolfing-jp.com)