間接護身アドバンス 第四回 自棄の人

| 葛西真彦
introduction

2019年5月の刊行以来、ご好評いただいている『本当に大事なものを護りたい人が知っておくべきこと 間接護身入門』。元刑事の立場から、自分や家族の身を護るためであっても、「対処を誤れば被害者である自分が罪に問われる」という現実を改めて突きつけた内容は、よりリアルな護身を求める多くの方の注目を集めました。

この連載では、前著『間接護身入門』をさらに進めた内容を目指し、より具体的に危機を回避する方法として、著者・葛西真彦氏が現役刑事時代に実際に使っていた人相術、読心術、筆跡術を中心に、その具体的な使い方を紹介していきます。

元刑事の武術家が教える、本当に役に立つ術

間接護身アドバンス

第四回 自棄の人

葛西真彦

 

無敵の人に非らず

ここで話を進める前に、もう一つ忘れてはいけないのが、いわゆる「無敵の人」の存在です。

2019年は悲惨な通り魔事件が幾つも起きました。なかでも川崎で起きたバスを待つ小学生を狙った通り魔事件やアニメーションスタジオ・京都アニメーションの放火事件は一際痛ましく、日本はもちろん世界に衝撃を与えました。

こうした事件が起きるたびに話題に上るのが「無敵の人」という言葉です。

大意は「無職で引きこもりを長年続け、責任も守る者もない、失うものが何もない人」というものです。

私はこの言葉に違和感があり、変更したいと思っています。

実際に事件を起こす人は、自暴自棄な状態で人を道連れにする覚悟ができているからです。この定義を加えないと正確ではなく、様々な事情から家に引きこもっている多くの人に対する、無用な偏見を増長することにつながると考えています。(関連したリンク「ひきこもりと犯罪 (SYNODOS 井出草平 / 社会学)」を紹介しておきますので、興味がある方はご覧になってください )

こうした人は滅多にいるものではないですが、たまに出現して犠牲者を出す痛ましい事件が起きています。

私はこうした人のことを、「自棄の人」と造語で呼んでいます。「無敵の人」という言い方をすることもできるのですが、「無敵」という言葉の持つ影響・力を考えて、あえて私は「自棄の人」という言葉を使いたいと思います。これは自分も他人も社会も、何もかもに背を向けて「棄ててしまった人」という意味を込めています。

日常に混じったこの「自棄の人」をどう察知していくか、私はこれは大事な課題だと思っています。(自棄の人が登場してしまう社会背景や、そうした人を生み出さないための社会的な仕組みが必要なことは言うまでもありませんが、私はそちらの専門家ではありませんので、ここでは語りません)

Image: iStock

 

重要なことは二つ

当然、過去の事件を参考にすべきですが、個々の事件のシチュエーションだけでは足りません。

こうした自棄の人は身近にもいる可能性はあります。川崎通り魔事件の被疑者の近所に住んでいた人たちは、彼の粗暴かつ攻撃的な日常に戦々恐々としていたそうです。もし彼らがほんの少し被疑者への対応を間違えていたら、彼らも悲惨な事件に巻き込まれていた可能性も捨てきれません。

またそうした人物を察知できたらどうすればいいでしょうか? 当事者とその状況によるので絶対的なことは断言できませんが、まず「刺激をしないこと」「最悪の場合を想定して備えておくこと」この2つが必要になるかと思います。

ここで言う刺激とは、「相手の反応や対応にいちいちアクションを起こさない」ということです。うるさいからといって文句を言いに行く行為は相手を刺激し根に持たれます。警察に通報するのも同様です。近所を徘徊している時に、じろじろ見ていていることも刺激となります。

つまり「大抵の反応は全て刺激となる」ということは理解してないといけません。普通の人の考え方と違い、屈折し憎悪する可能性も高いわけです。極論を言うと目が合っただけで恨まれて殺される可能性もあるということです。

もし運悪くそうした人物が近所にいる、あるいは引っ越してきた場合どうすべきでしょうか。

私個人としては危険で将来的に刃物沙汰になる可能性が捨てきれないなと判断したら、引っ越しの準備をすると思います

仮に相手が別の場所で事件を起こして逮捕されたとしても、いずれは出てきますし、もし自分が何らかの標的になっていると考えられる場合は、自分の住所が特定されている以上、危険であり、そのリスクと一緒に生活することに精神的に耐えられないからです。

こういった話をすると「そんなことできるわけがないじゃん」の一言で終わってしまう人が大半だと思いますが、ここから先できることを考えるのが大事なのです。それでは「警察に相談したけど何もしてない」で終わるのと一緒です。警察が何もしないからといって、無防備で諦めていい訳がありません。誰も何もしてくれなければ自分で何とかするしかありません。この点を放棄して誰かのせいにしても、結局泣くのは自分や家族です。

また、その「自棄の人」のリスクが実際にどの程度なのかを冷静に査定する必要もあります。そのために必要になるのが備えと情報収集であり、これから紹介する技術となります。

なにをするにもリスクがあり、それをゼロにすることはほとんどの場合不可能です。間接護身で大事なことは、冷静にリスクがどの程度なのかを把握し、その上で難題に対して諦めず、否定せず向き合うことです

この考え方と行動を積み重ねることで、防げるトラブルと防げないトラブルの個人差が出てきます。

繰り返しになりますが、警戒して備えてもどうしようもない事例は多々あります。それを認めた上で、誰かのせいにして放棄するのではなく、やれることを全部やっておくのでは可能性と未来は全く違う、それだけは覚えておいて欲しいのです。

 

究極の護身は「挨拶」?

先ほど刺激をしないということが大事だと書きましたが、挨拶は重要です。

挨拶、これは相手の意図や性格や態度を読み取る上で大事なツールです。

私は警官時代に職務質問で、この挨拶のアプローチについてかなり研究してきました。制服の警察官に声をかけられるというのは、相手からすれば当然嫌なものです。

善意の一般人を相手にしている場合、威圧的にならないように細心の注意が必要です。もしその人が何か犯罪について有益な情報を持っていた場合、そんな態度の警察官に進んで情報を提供してくれるわけがありません。また記憶を辿ってもらうには、できるだけリラックスしてもらう必要があります

Image: iStock

 

また、その人が犯罪の当事者でなく、関わっていない場合でも、鼻から「俺は知らない、やってない」などと全面的に職務質問を拒否をして押し問答になってしまった場合は、こちらも念の為その嫌疑を確認しなくてはならず無駄な時間をかけることになり、非常に効率が悪いわけです。

逆に威圧的じゃなければいけない場合もあります。先日ツイッターで大阪府警の捜査員がヤクザ事務所にガサ入れに(家宅捜索)行った動画が話題になりましたが、こうした際は超オラオラで威圧していかなければ仕事になりません。当たり前ですが、相手が一般人なのか明白な嫌疑がかかっている人・団体なのかで態度を使い分ける必要があるわけです。

もちろんこの「オラオラスタイル」で普通の人を相手に職質でやったら警察官としては終わりです。

ここでは、こうした職質の経験から生まれた「挨拶の極意」を話していこうと思います。

まず大事なのは「相手を優しく抱擁するイメージ」で話しかけることです。このイメージを持っていないとダメなのです。笑われるかもしれませんが、経験からこの気持ちは必ず伝わります

そのうえで相手のどこを見るかが大事ですが、ここはできれば目をしっかり見ていきたいところです。

  • 視線をやたらと逸らす
  • 焦点が合わない
  • きょろきょろと落ち着きがない

など、目の動きがおかしければ、それだけで色々とおかしいということがわかります

さらには挙動も見ていきます。しかし露骨にジロジロ見ている印象を与えないようにしなければいけません。目を睨めつけて見ていると、相手も“威圧された”と思い不愉快になるわけです。ですからジッと一箇所を見つめるのではなく、ゆっくり瞬きを入れたり、適度に外したりと緩急をつけて見ることが大事です。

相手が善意の第三者だと判断できたら、少し俯瞰する形で視線を顎下に持っていき、相手の全体を見ていきます

一声かけた時の相手の反応も大事です。

なにかやましいことがあって怯む者、見透かされないように必死で攻撃的な態度をとる者、単に警察が大嫌いだから反抗的な態度をとる者、急いでいてそんなの関わってられない者、色々な人がいるわけです。これらを瞬時に正確に見抜く必要があります。

このノウハウは、そのまま皆さんもご近所さんとの挨拶にも通用します

実際にやってみると反応は様々で、印象と違い話好きのおばちゃんだったり、ぶっきらぼうで無視する人や、なかには挨拶を交わすうちに気が合って飲み友達になる人もいるかもしれません。

大事なのは反応がなくても続けることです。続けるうちに、段々顔見知りになり、それまでの印象と違う面が見えてきます。なかには普通とは違う気配を感じる人もいるかもしれません。その時は要チェックです。家族と情報を共有して、それとなくアンテナを張っておくと良いでしょう。

挨拶一つで、想像以上に周囲の人の情報や動きが知ることができるわけです

また相手にとっても、自分から挨拶をすることで「挨拶がちゃんとできる人」という認識を与えることで、最初の信頼関係の道筋を作ることにも繋がり、そこから自分の知らない情報を得ることもあるわけです。

もちろん、時折ニュースなどで、事件を起こした人物の評判で「挨拶もしっかりしてくれたので驚いた」ということもあるので、絶対ということはありません。しかし、リスク管理ということで考えれば、挨拶のメリットはやはり大きく、お勧めしておきたい護身技術の一つです。苦手な人はゲームや技術習得のつもりで根気よくトライしてみてください

今回ご紹介した挨拶のノウハウは男性向けのものです。女性の場合はもう少し状況が複雑になり、リスクを考えると、誰でもこのまま実行することはお勧めしません。まずは相手も女性の同性の方から始めると良いでしょう。それだけでも十分護身としてのメリットはあります。

(第四回 了)

 


【講座情報】

◯間接護身オンラインセミナー 講師・葛西眞彦

『間接護身入門』の著者・葛西眞彦氏のオンラインセミナーが開催されることが決定しました。講座は前編(理論編)と後編(実践編)の2回で行われ、テーマは「身近な大切な人の守り方」と、現在大きな問題となっている「ネットいじめから大切な人を守る方法」の二つ。どちらもリアルティーのある対処法・解決策をお話しする予定です。台湾在住の著者のお話を直接聴け、質問ができるこの機会をお見逃しなく!

日程:2020年6月28日(日) 19時-21時15分 2020年7月4日(土) 19時-21時15分
参加費:4コマ 10,000円 2コマ 6,000円
講師:葛西眞彦(間接護身アドバイザー)
締め切り:6月26日(金)
お問い合わせ、お申込みは下記からお願いいたします。

https://kansetsu-goshin.amebaownd.com/pages/3927876/page_201603171106?fbclid=IwAR0IQcYiUDfgjNrVX9n7225I4vo_wYlL8dGkSckNoo_LW6MQ4a4dRAtnqR0

『本当に大事なものを護りたい人が知っておくべきこと 間接護身入門』

本連載の基本編にあたる『本当に大事なものを護りたい人が知っておくべきこと 間接護身入門』は現在、全国書店、アマゾンで発売中です。

自分が被害者であっても対処を誤ったばかりに加害者になることがある。コミックやドラマ、映画のようにいかない「護身のリアル」を元刑事である著者がわかりやすく解き明かします。被害者にも加害者にもならないための現代人が知っておくべき知恵がここにあります。

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–Profile–

葛西眞彦(Masahiko Kasai)(写真右)

かさい・まさひこ。1977年10月26日生まれ、青森県出身。間接護身アドバイザー。

日本在住時は意拳、フルコン空手、杖、剣道、逮捕術、合気道等を修行していた武術歴約30数年の元刑事。現職時代に大病を患い、発作で仕事もままならなくなったことから、漢方治療を受けるため早期リタイヤし台湾へ移住。

1年間の漢方治療を経て発作も収まり、体がある程度動くようになったため、台湾での本格的な中国武術修行を開始。

台湾では、中華民国八極拳教練資格を日本人として初取得、また同様に推手教練資格も日本人として初取得。

台湾で実施される競技推手世界大会を運営する団体に所属し、詠春拳と太極拳、八極拳を修業し、シニアの身の上でありながら、競技推手青年部での中量・重量級チャレンジを続け、優勝・入賞経験を積み重ね、その経験と技術を後進に伝えている。

日本の選手を団体流派の制限を一切問わず、最短の時間と努力で台湾大会に入賞・優勝するために必須の技術と哲学を公開指導。

競技推手大会開催地である台湾に居住し、常に参加選手、参加団体との交流があるからこそできる分析、解析を強みに、熱意のある方に情報を還元。

指導者としてのスキル研鑽にも力を入れ、関わった日本人全員が世界で優勝することを目標にして、指導と修業を並行した研鑽を続けている。

現在は競技推手のみならず、自由推手と養生推手および詠春のチーサオを融合させた、総合的な崩しと打撃へ対応できる技術を研鑽し、独自の境地を見出すための努力を続けている。

最終的には日本に帰国して、素手の崩しと武器の崩し、ランダム性の中で戦えるものを、刑事時代の経験等からも総合的な形でまとめた独自の技術として提唱すべく準備中。

執筆活動も精力的に行なっており、台湾では心理学と人相に関する本を1冊、護身術に関する本を1冊出版。

日本ではwebマガジン「コ2」にて、直接的な攻撃や抵抗の段階に入ることなく、事前に危機を察知、回避することを主体とした「間接護身」という独自の概念を紹介・解説するコラムを書籍化し、応用編を現在執筆中

主な入賞経歴
2016年10月、 台湾世界大会「第六屆世界盃太極與推手錦標賽」第七級(76〜83kg)にて三位入賞(台湾推手大会の入賞としては日本人初)。

2016年12月、 台湾全国大会「第十二屆志堅盃全國太極拳錦標賽」社男第五級(80〜90kg)にて優勝(台湾推手大会の優勝としては日本人初)。

2017年5月、台湾全国大会「第10屆道生盃武術錦標賽-定步推手比賽」第七級(82kg以下)にて優勝。

2017年10月、台湾最大の全国大会である「第7届總統盃全國太極拳錦標赛」青年男子第八級(83〜91kg)にて優勝。

2017年12月、台湾全国大会「第十三屆志堅盃全國太極拳錦標賽-定步推手比賽」第七級(91kg以下)にて2位。

2018年10月、台湾世界大会「第七屆世界盃太極與推手錦標賽」青年男子第七級(76〜83kg)にて2位。

2019年12月、台湾全国大会「第十五屆志堅盃全國太極拳錦標賽」小よく大を制すを体現するため、中量級の体重で最重量級に参加し、110キロ、115キロ、140キロの重量級選手を倒し優勝。

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