甲野善紀先生から『ヒモトレ介護術』の推薦文をいただきました

| コ2編集部

2020年9月9日発売

甲野善紀氏 寄稿

「浜島院長から現れるヒモトレの可能性」

大久保さん 晴れ豆
甲野善紀先生。

 

武術研究者であり、『ヒモトレ革命』の著者でもある甲野善紀先生より、『ヒモトレ介護術』の推薦文をいただきました。こちらに公開させていただきます。甲野先生ありがとうございます!

 

浜島院長との出会い

本書『ヒモトレ介護術』の著者、浜島貫・浜島治療院々長に初めてお会いしたのは、私の古くからの知人である小池弘人・小池統合医療クリニック院長の紹介で、JR代々木駅近くのビルで鍼灸関係の方々に講座を開いていた時だったと思う。

しかし、実はこの代々木が初対面と思っていたのだが、後日この時から遡ること二十数年前、浜島院長は高校生の時、私の講習会に来られた事があったそうで、私は全く記憶していないが、その事実には心底驚いた。

そして、代々木でお会いした時に「ああ、この人は感覚も頭も良さそうだな」と思った事は、今でもハッキリと記憶にある。この時話題になったのは、本書でも紹介されているヒモトレの「えぼし巻き」による嚥下のスムーズな発現だった。

この知り合った当初は、浜島院長がヒモトレに関心を持たれたのはヒモトレ創案者の小関勲・バランストレーナーとの出会いによるものだと思っていたが、実は浜島院長もヒモトレ効果を実感する体験があって、そこから「同様の研究をしている人はいないか」とネットで検索して、小関氏と出会われた事を知り驚いた。

というのは、サイエンスの世界では「誰が最初に気付いたか」という事で、とかく手柄争いになることが少なくないからである。浜島院長はそうした手柄争いなど、まるで関心がないようで、より有効な働きにのみ関心がある方のようである。この辺りが浜島院長が人としても深く信頼できるところだと思う。

その後、折に触れてお話しするようになったが、この浜島院長との出会いで、私の日常が大きく変わったのは、浜島院長が今からもう四十年ぐらいも前に四国で医院を開業されていた見元良平医師が自費出版された『健康であるためにーゴム紐症候群について』という本を見つけ出して来られて、ゴム紐など伸縮性のあるものを身につける弊害についての認識を、ヒモトレを研究している人達の間に知らしめられ、それに関連して「素肌寝」の効用についても広く啓蒙をされ始めたためである。

私は外出時も自宅にいる時も、殆ど和装なのだが、作務衣のようなものを着る時、最近の作務衣に多いゴム入りが気になってはいたが、そのまま着ることもあった。しかし、「ゴム紐症候群」の問題に関して、浜島院長から詳しい説明を受け、衣類には一切ゴムの入ったものは用いなくなり、また「素肌寝」の効用も説かれていたので、これを実践し、その効果を実感してから、夜寝る時に下半身は何も身につけないで寝るようになり、その結果、冬でも足先まで温かく寝られている。

浜島院長が深く信頼できるところは、物事の原理原則、物理法則等にも明るく、いわゆる科学的説明が容易に出来るところは明快にそうした説明をされるが、そうした科学的原理で説明がつかない現象も素直に受け入れられ、その中で出来る研究を柔軟にこなされているところである。

したがって、以前からこの浜島院長にはヒモトレに限らず、さまざまな気付きについて、是非著書を出していただきたいと思っていたのである。それが、この度、日貿出版社から本書『ヒモトレ介護術』が刊行されるこになったとの知らせを聞き、ここは是非推薦の文章を書かせていただきたいと思った次第である。

ヒモトレが見せてくれる“人間の可能性”

ヒモトレの実践面では、何といっても浜島院長ほど高齢者の介護などの経験を積まれている方は他に見当たらないと思うし、そうした介護、介助、鍼灸の治療以外でも、裸足で走るman氏とも親しく、自らも「はだしラン」を実践し、「はだしラン」愛好者用の「マンサンダル」の製作講習会などもman氏と共同で行なわれるほど精力的な活動をされている。

また、農場での羊毛刈りや、鶏の飼育、発酵食品の研究などでも活躍されていて、私個人としては、いつか是非、ニホンミツバチを飼ったり、木だけの火起こし、そして車や自転車、チェーンソーなどのメカニックに大変詳しく、子ども達と遊ぶ時は自身もすっかり子どもに成り切っているという佐世保のユニーク郵便局員、野元浩二氏にも会っていただきたいし、鍛冶の技術も私がお伝えするので身につけていただきたいと思っている。

浜島貫院長は、現代にあって真に貴重な人材で、今後、世の為人の為、大いに活躍していただきたいと心から願っている逸材である。

本書は、この浜島院長の体験談に加えて、「ヒモトレ」に早い時期から注目された、四国にある善通寺養護学校の藤田五郎教諭の、障害のある子ども達にヒモトレを行なった時の予想外の変化など貴重な体験談に加えて、すでに述べた、このヒモトレの効果に気付き、この不思議な働きを「ヒモトレ」と命名された小関勲バランス・トレーナーも、巻末で浜島院長や藤田教諭との座談で登場。「『ヒモトレ』とは何か」を世に問う上で非常に説得力のある内容になっている。

何しろ「ヒモトレ」は、その事実はあまりにもハッキリとしているが「なぜ、そうした効果があるのか」という事に関しては、何とも説明が難しいからである。「ヒモトレ」は心理的な事とも密接な関連が伺えるが、そうした心理的なプラセボ(プラシーボ)効果だけではとても説明のつかない、施術する者が「まさか、この程度のことで差は出ないだろう」と思うような僅かな変化にも、敏感に反応するなど謎があまりにも多い。

例えば「丸ヒモなら『ヒモトレ効果』が出て、平打ちの平らなヒモでは『ヒモトレ効果』が出ない」という事に関しては、被験者に丸ヒモか平ヒモかを伝えずに巻いて、人を起こしたり、重い物を持ってもらうなど、何らかの負荷をかけてみると、その差がハッキリと出る。しかも、ダウンコートのような分厚いクッション性のある衣類を着ていても、ヒモはその腹部に緩く巻くため、常識で考えれば、そのヒモが「丸ヒモか平ヒモかなど判るわけはない!」と思うのだが、別に特殊能力があるなどとは全く思えない、ごく普通の人でも驚くほど正確に違いが出る。

この事実に、私は「ヒモトレ」の実用効果も貴重だが「人間には誰しも驚くべき能力が備わっている」という事の、非常に具体的な証明として、この「ヒモトレ」は大きな説得力を持っていると思う。

また「ヒモトレ」の効果は認めるが、それだけに「このヒモに依存してしまうのは問題ではないか」という意見も一部で囁かれている。確かにヒモの効果に驚き、身体中ヒモだらけという人には気味悪さを感じるが、この不思議な感覚と落ち着いて向き合っている人は、ヒモを巻かなくてもヒモを巻いた時の感覚が維持されてきたり、ヒモを巻くことが、力士がまわしを締める事と同じような標準装備として捉えた場合、それは依存とは言えないと思う。また、普段はつけていなくても、必要に応じてヒモを巻くことで、さまざまな状況に対応出来るところも、この「ヒモトレ」の特色である。

例えば、「手が腱鞘炎になって日常の家事もうまく出来ない」とか「捻挫してうまく歩けない」などといった事が起こった時、手指から手首、また足指から足首にかけて蜘蛛の巣状に細い丸ヒモを巻くと、その瞬間から驚くほど痛みが楽になって家事が出来たり、普通に歩けたり、といった事実を、私は数え切れないほど見てきた。また、ピアノの演奏なども、この径2~3ミリの細ヒモを巻いて演奏してもらうと、同じ曲でも別人が演奏しているのかと思うほど変わることは、よく起こる。

私はほぼ月一回、音楽家を対象として講習会を行なっているが、その折「ヒモトレ」は人間の身体の可能性と不思議さを参加した方々に実感してもらう上で、大きな力を発揮している。

今後、この本などを通して、より多くの方々に人間の身体の不思議さを、この「ヒモトレ」によって実感していただけたら、あらためて「生命」というものに対して新鮮な視界が開けてくるのではないかと思う。

いま、COVID-19の感染拡大で身も心も萎縮している人々が多いだけに、本書によって生命の不思議さと可能性を実感出来ることは、大きな意味のある事だと思う。

甲野善紀

『がんばらない、カラダが目覚める ヒモトレ介護術』は現在、Amazonで発売中です


『がんばらない、カラダが目覚める ヒモトレ介護術』

定価:1,600円(税抜き)
単行本: 271ページ 並製
出版社: 株式会社 日貿出版社
発売: 2020/9/9

現在、全国書店、アマゾンで発売中

 

 

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–Profile–

甲野善紀(Yoshinori Kouno
武術研究者 1949年東京都出身。1978年松聲館道場を設立。日本古来の武術を伝書と実技の両方から研究し、その成果がスポーツ、楽器演奏、介護、工学等から注目を集め、日本各地のみならず海外からも指導を依頼されている。2007年から3年間、神戸女学院大学で客員教授も務める。著書に『表の体育 裏の体育』(PHP文庫)、『剣の精神誌』(ちくま学芸文庫)、『神技の系譜』(日貿出版社)、『できない理由は、その頑張りと努力にあった』(聞き手・平尾 文 PHP研究所)など多数。

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