ソマティックワーク入門 第六回 ロルフィング®️ 田畑浩良さん(理論編02)

| 半澤絹子

健康とウェルビーイングの一歩先を求めて−−。
今、こころとからだの健やかさの質を高める、
マインドフルネス瞑想やボディワークなどが人気を呼んでいます。
からだの感覚に注目し、
心身が心地よい状態へとフォーカスすることで、
深い気づきや静けさを得たり、
自己肯定力や自己決定力といった心身の豊かさを育んだりしていく。
これらは、
こころとからだのつながりを目指す

「ソマティックワーク」という新しいフレームワークです。

その手法は、タッチやダンス/ムーブメントなど多岐にわたり、
1人で行うワークから、ペアやグループで行うワークもあり、
自分に向くものはそれぞれ異なります。
この連載では、
これからの時代を生きる私たちにとって、知っておくべき「からだのリベラルアーツ(一般教養)」として、各ワークの賢人たちの半生とともに
「ソマティックワーク」が持つ新しい身体知を紹介し、
それらが個々の人生や健康の質をどう変化させたのかを探っていきます。

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リベラルアーツ(一般教養)として学ぶ

ソマティックワーク入門

−新しい身体知の世界をめぐる−

第六回 ロルフィング 田畑浩良さん
ロルフィング®︎とはなにか? (理論編02)

取材・文半澤絹子
モデル吉田裕子
取材協力日本ソマティック心理学協会

筋膜リリースを始めとする多種多様なアプローチで身体的統合をはかるアメリカ生まれのソマティックワーク「ロルフィング」

前編に引き続き、後編となる今回は、ロルフィングの骨格となるベーシック10セッションなどについてご紹介したいと思います。

10回のセッションを通して身体を整える意味、そしてクライアントの変化などを、ロルファーの田畑浩良さんにお話しいただきました

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身体は少しずつ良くなっていくもの

「5分で肩凝り改善!」「たった1回の施術で不調が治る!」

街を歩くと、こんなキャッチフレーズで溢れかえっている。たしかに、お金も時間も限られる私たち現代人にとって魅力的なコピーだ。

しかし、ロルフィングは、その逆を行く。

「ロルフィングのセッションは、最低10回は受けてください」

鍼だろうとエステだろうと、1回だけ施術を受けるより、10回受けたほうがもちろん効果的ではあるはずだ。とはいえ、なぜ、ロルフィングは「ベーシック10シリーズ」として構成されているのだろう?

田畑さんは言う。

「生前、創始者のアイダ・ロルフは、『10回のことを1回にはできない』と教えていました。セッション1回の入力(アプローチ)に対して、身体の変化には許容量があるという意味です」

そもそも、体型や歪み、動きのクセは、その人の身体が長年「最適だ」と判断して積み上げたものである。どれほど身体が歪み、体調が悪かったとしても、身体はその状態であることによって、命を守っているのだ。悪い姿勢の代名詞である猫背もまた、身体を日常的なストレスから守っている。「不調」は身体の防御システムによるもの。それを5分や10分で解消するといっても、本来、身体はすぐに変わるようにはできていない。例え、一瞬は変化しても、その変化は身体に定着しづらいのだ。

これは、ロルファーでもある心理学者・神経生理学者が創始したトラウマ解消療法の「ソマティック・エクスペリエンシング®︎」の「タイトレーション」という考えにも裏付けられる。人間の神経系や身体は過剰な刺激に耐えられず、一気に全てを治そうとして身体に強くアプローチをしても、かえって抵抗を生んでしまうのである。

田畑浩良さん

ロルフィングは少しずつ身体に刺激を与えていきます。ですから、クライアントは、私のように10回セッションを受けてから、『腰痛がなくなっている』などと変化に気付く場合もあります。他にも、痛みから長年ステロイドを服用されていたクライアントさんがいたのですが、その方も10シリーズが終わってから半年後に、痛みが消えているのに気づかれました。身体の変化を気長に待つのは大切だと思います

5分10分で劇的な効果が出るアプローチがカフェイン一杯のエナジードリンクだとすれば、ロルフィングは、じんわりと身体を養う薄味の味噌汁やオーガニックなスープ、とも考えられる。

 

「変化できる器」になるために身体の土台を整える

「ロルフィングでは、建物と同じように、身体の土台からアプローチして、身体を安定させていきます。それも、10セッションを1セットにしている理由です」

例えば、「胸部のスペース」が縮こまっているクライアントがいるとする。しかし、胸部が周辺にある臓器に圧迫されていると、スペースを広げることができない。その場合は、胸部の下にある横隔膜を元の位置に戻す必要がある。しかし、横隔膜の位置を戻そうとすれば、骨盤の位置も関係してくる。さらに、骨盤を整えようと思ったら、足の土台からアプローチしなければならない……というように、身体の各部位は全てつながっているため、構造的に少しずつ、順を追って整えていく必要があるのだ。

●ロルフィングのベーシック10シリーズ

【セッション1-3…表層部の解放】

1、自由な呼吸
2、大地に根付いた足
3、身体の側面の広がり

【セッション4-7…深層部の解放】

4、脚の内側・骨盤底
5、腹部の空間の確立
6、背骨・仙骨の自由な動き
7、首・頭の解放

【セッション8-10…統合】

8、9、上半身あるいは下半身のつながりと統合
10 全身の統合

(詳しくは、次回「実践編」にて解説)

 

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「身体をまとめる(統合する)ためには、さまざまな切り口があって、①身体の形を整える②身体の動き方を教える③身体の感覚をシフトさせる方法などがあります。

身体構造を調整・統合すれば、身体の動き(機能)が引き出されますし、逆に動きによって身体の機能を統合させていくと、それが身体構造にも還元されます。

しかし、『身体構造の統合なしには、どんなアプローチも持続的で定着する変化にはならない』と、ロルフィングでは考えています。『構造的統合』の最も重要な点は、『支え』が充実することです。それによって、身体は安定を得て、精神的にも安全・安心を感じる土台になります。ロルフィングによって気持ちのが変わるような変化などが起きるのは、不思議なことではありません。

結局、どれほどすごい施術をしても、身体の器とも言える『土台』がしっかりしていないと、身体は変化しづらいのです。まず変化の出発点となる『土台』ができてこそ、身体は良いほうへと向かいます。他のセラピーや治療、ボディワークを受けるにしても、その前にロルフィングのベーシック10シリーズを受けることをおすすめしますね。1回試してみる価値はあると思いますよ」

クライアントによっては、11回、12回とセッション回数が増えることも稀にあるが、7回、8回でセッションが終わることはない。最低10回のセッションは必要である。田畑さんの場合、施術のbefore、afterの身体の状態を写真で撮影し、クライアントの変化の経過を辿っていくのだが、途中の段階では、クライアントの持つ強い癖・パターンによって、身体が戻ってしまうことを写真で発見できる場合もあるそうだ。
しかし、10回終えれば、身体全体をアプローチしたことになり、身体のバランスはほぼ落ち着いていくという。

「自分の身体を感知できる能力は個人差が大きくて、身体の変化が一定の閾値を超えないと自覚しづらい人もいるかもしれません。ですが、セッションを受けるたびに、感覚はどんどん上がっていきます
私自身も、ロルフィングを受けた直後はぎっくり腰の改善を自覚できませんでしたが、変化がなかったわけではなくて、ただ単にそれを感じ取れなかっただけでした。クライアントの身体が、ワークの刺激や入力を抵抗なく受け容れている限りは、『身体の変化は必ず起きている』と信じることは大切な気がします

 

身体も人生も何が起きるか分からないから面白い

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実際にロルフィングを受けたクライアントの変化を、田畑さんに伺った。

7年ほど前、85歳のご婦人がベーシック10シリーズを受けられたことがありました。最初は歩行器なしでは歩けない状態だったのですが、10シリーズ後は、短い距離であれば、自分の力だけで歩けるようになりました。また、彼女はお通じの調子が良くなかったのですが、10セッションの後にひどい下痢をした後、急にお通じが良くなったそうです。
さらに、『親子の関係性も変わった』ともお聞きしました。娘さんとずっと疎遠だったのに、伊勢神宮と出雲大社の遷都があった年に母娘で伊勢と出雲をまわったようです。先日、久しぶりに連絡をしてみたら、90歳を超えている今も背中がまっすぐで、お元気にしていらっしゃるようでした

また、ロルフィングは、田畑さん自身の人生も変えた。「ロルフィングをやっていなかったら、ぎっくり腰だけでなく、自分の人生はやばかったと思います」と田畑さんは笑う。

田畑浩良さん

クライアントの身体が整うと、施術をしている自分自身にも恩恵があります。『今日は気分が落ちてるな』と感じても、セッションに集中していると、自分の身体も調子が良くなっていることがよくある。クライアントさんとの身体の響き合いによって、とても助けられているんです。ですから、セッションはとても楽しいですね。

そして、セッションをしていると、予想したところと全く違う部位が反応することがあるのがいまだに新鮮です。身体の仕組みや変化には、ある程度の法則や傾向もあるのですが、そうではないところも反応したりします。施術者のバリエーションと、受け手のバリエーションの数だけ、起こることの可能性は広がっていく。フィジカルな変化だけではなくて、深いところで感情が動いたりもします。身体の反応は、本当に、決まっていない

ロルフィング®︎の5つの方針の一つ、「Wholism(全体性)」は、ソマティックワーク全般に通じるテーマでもある。世界の全体、人間の全体を見る眼差しを持つこと。その視点を持って施術者がクライアントと関わるからこそ、「体調だけではない変化」を得ることができる。

また、田畑さんの恩師・ロルフィング歴40年になるキャロル・アグニッセンス(Carol A. Agneessens)さんは『今までロルフィングをやり続けてきて、飽きることがない。相手も変わるし、自分自身もスタイルを変えていくから、ルーティンにならないようにやっていける』とお話しされているそうだ。

そう、身体の未知性を尊重するだけでなく、ロルフィングそのものが持つ「テクニックの自由性」も、施術者がワークを心底楽しめるファクターの1つだろう。徹底して解剖生理や身体の動きを学ぶ他、さらに「5つの方針」という揺るぎない「土台」がロルファーの施術を支えている。だから、基本的なアプローチも踏まえつつ、脱線もできるし、その都度、新たなチャレンジができる余裕もある。

精緻な解剖生理や科学に基づいた身体の動きに基づいたアプローチという「基本」と、新しい技術によって身体の未知の領域を探求するという「可能性」の両輪によって、ロルフィングは進化し続ける。ずっと変化をしているのだから、「ロルフィングとは何か?」という問いに永遠に答えが出ないのは、当然のことなのだ。
またその変化こそが、クライアントに対する眼差しを常に柔軟なものにし、それぞれの個性に合わせたアプローチを可能にしているわけだ。

「安定」と「自由」。しっかりと根が生えているからこそ、自由に葉を茂らせる樹木のように。のびのびとした生命の状態を、ロルフィングは体現している。

ロルフィングをしていると、自分が生かされているような気持ちになります『自分を活用してくれて、ありがとう』と思いますね」

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*Rolfing®、ロルフィング®、Rolf Movement®、ロルフムーブメント™、Rolfer™、Rolf Institute、The Rolf Institute of Structural Integration、およびLittle Boy Logoは Rolf Institute の商標であり、米国およびその他の国々で登録されています。

(第六回 了)


ロルフィングおすすめ書籍

『Moving into Alignment』Jennifer Hayes(翻訳書はなし)
★ロルフィング10シリーズの流れに沿ったエクササイズが豊富な写真と共に紹介されています。各セッションごとのゴールや狙いがうまくまとめられていて、10シリーズの体験を見直したり、理解を深める助けになるでしょう。

感じる力でからだが変わる: 新しい姿勢のルールメアリー・ボンド著、 椎名 亜希子訳 春秋社 刊
★長年Rolf InstituteのRolf Movement®部門の教員を務めてきたメアリーボンド女史が、身体にどういう意識や感覚を持ったらよいのか、について身体への新しい捉え方を紹介しています。Rolfingを受けた方や身体を資本としているパフォーマーなどには、身体探究の手助けになるはずです。

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–Profile–

田畑浩良 (Hiroyoshi Tahata

認定アドバンストロルファー( Certified Advanced Rolfer)、Rolf Institute教員(ムーブメント部門)(Rolf Movement Faculty member)。株式会社林原生物化学研究所(現:(株)林原)に研究員として勤務期間中にロルフィングのセッションを受け、交通事故による後遺症が軽減し、ロルフィングの道へ。1999年、日本人初のRolf Movementプラクティショナーとなる。ロルフィングに組み込むことができる新しい技法「 Yielding EMbodiment®」を開発する他、「身がまま整体」の片山洋次郎氏と共同で、空間身体学も研究。空間と身体との関係性を活かした繊細で安定的なセッションを提供する。大の猫好き。https://www.rolfinger.com/

*Rolfing®、ロルフィング®、Rolf Movement®、ロルフムーブメント™、Rolfer™、Rolf Institute、The Rolf Institute of Structural Integration、およびLittle Boy Logoは Rolf Institute の商標であり、米国およびその他の国々で登録されています。

半澤絹子(Hanzawa Kinuko
フリーライター、編集者。各種ボディワークやセラピーを取材・体験し、「からだといのちの可能性」、「自然と人間とのつながり」に関心を持つ。「ソマティック・リソース・ラボ(https://www.somaticworld.org/)」運営メンバーの1人として、ソマティックに関する取材や普及活動も行う。