連載 扇谷孝太郎 「身体と動きの新法則 筋共鳴ストレッチ」13

| 扇谷孝太郎

身体と動きの新法則

筋共鳴ストレッチ

第13回 第7&第6チャクラのバランス ~顎と腕の筋共鳴®その3~

扇谷孝太郎

 

Image: iStock

前回、前々回は、腕と顎の筋肉の間の筋共鳴についてご紹介してきました。

今回は手の指と顎関節の筋肉の共鳴について見ていきます

あわせて、ヨガやバレエ、武術などにおける手の操作とケアの重要性についてお伝えしたいと思います

内側翼突筋とは?

内側翼突筋

「内側翼突筋」「外側翼突筋」顎関節の開閉に関わるスタビライザー(安定化筋:関節の動きを安定させる筋肉)です。お互いに拮抗筋の関係にあり、双方の筋肉のひっぱり合いによって、顎関節のポジションをコントロールしています。

前回ご紹介した「咬筋」ほど力は強くありませんが、関節のポジションへの影響が大きいため、顎関節症などのトラブルで一番問題になりやすい筋肉です

「内側翼突筋」はほっぺたの内側にあり、前述の咬筋のほぼ裏側です。下顎を閉じると同時に、前方に引き出す働きがあり、咀嚼の際の顎の左右運動の細かな制御に関わっています。

 

咬筋の動きと似ていますが、パワフルな咬筋の内側にあるため、スタビライザーとしての役割の方が大きな筋肉です。

共鳴先の筋肉も、手の母指のスタビライザーである母指対立筋です

母指対立筋(Image: iStock)

なお、内側翼突筋がスタビライザーだとすると、咬筋はモビライザー(動作筋:スピードやパワーを発揮するための筋肉)に相当することになります。そしてこちらの筋共鳴の相手は上腕のモビライザーである上腕二頭筋です。

顎関節を閉じるという点で同じような位置関係にある筋肉同士ですが、筋共鳴の視点から見ると、対象的な性質をもっていることがわかります。咬筋と内側翼突筋の関係は以下のように整理できます

共鳴の相手の筋 筋のタイプ 呼吸との関係
内側翼突筋 母指対立筋 スタビライザー 努力呼気に反応
咬筋 上腕二頭筋 モビライザー 努力吸気に反応

内側翼突筋の共鳴相手の母指対立筋は、手の親指を小指の方に向けて曲げて、親指と他の4指の先をつける動作を担います。なかでも小指の先とつけるときに強く働きます。この動きを対立運動といいいます。道具を握ったり、つまんだりする際の指先の動きには、この対立運動が欠かせません。この運動をできることが人間の手の大きな特徴と言われています。

ゴリラやチンパンジーなど、人間以外の霊長類はこの筋肉が発達していないために母指の対立運動ができません。

人間以外の動物は物を持ち運ぶときには手の代わりに口で物をくわえて運びますが、人間は手の構造の進化により、口の代わりに手で物をつかんで持ち歩くようになりました。そうした進化の過程を考えたとき、このような形で手と口の筋肉が共鳴しあっていることはとても興味深いことではないでしょうか?

外側翼突筋とは

外側翼突筋

「外側翼突筋」は、下顎を開くと同時に、前方に引き出す働きがあります。顎関節を能動的に開くための唯一の筋肉です。もし外側翼突筋を使わずに開こうとしたら、下顎を重力に任せでダランと受動的に開けるか、顎から喉にかけてついている筋肉で引き下ろことになります(これはこれらの筋肉の本来の用途とは言えません)。

また顎を閉じる筋肉が、咬筋、内側翼突筋、側頭筋と複数あるのに対して、開ける方の筋肉は外側翼突筋だけなので、噛む力に比べて、口を開ける力が相対的に弱いことがわかります。

外側翼突筋の共鳴相手の筋肉は、「小指対立筋」です。こちらは母指対立筋とペアになって、対立運動のときに小指の付け根を母指側に近づける働きをします。とても小さな筋肉で動きの感覚を観察すること自体が難しい筋肉です。しかし、顎関節を開く唯一の筋肉である外側翼突筋と筋共鳴の関係にあるため、顎の動きのコントロールに大きな影響を与える非常に重要な筋肉だと言えます。

 

小指対立筋(Image: iStock)

また、上肢と下肢の筋共鳴の組み合わせでは、足の指を動かす筋肉群の中に、母指対立筋に対応する筋肉が無いのに対して、小指対立筋には共鳴する足の指の筋肉「小趾対立筋」がある点も特徴の一つと言えるでしょう(ただし、母指対立筋を刺激することで足の指の付け根付近の筋肉に反応が見られるので、解剖しても他の筋肉と見分けがつかないだけで、対応する筋繊維自体は備わっているのかも知れません)。

足の小指対立筋は足裏の外側のアーチの形成を補助します。手の小指対立筋が過剰に緊張していると、結果的に足裏のアーチのバランスが崩れる原因になるので、小さいながらも重要な筋肉です。

内側/外側翼突筋の筋共鳴ストレッチ

内側翼突筋と外側翼突筋はどちらも頭蓋骨の中心に位置する蝶形骨に付着しています。蝶形骨は呼吸運動にともなって微細に動くと言われていますが、これらの筋肉の緊張はそうした蝶形骨の動きや、そこに隣接する骨の動きに深く関わっています。

そして、クラニオセイクラル(頭蓋仙骨療法)などの手技療法の存在からもわかるように、頭蓋骨の呼吸運動は自律神経や脳の働きに大きな影響を与えます

したがって、これらの筋肉のバランスを改善することは、運動面だけではなく、我々の健康全般に関わってくる問題だと言えるでしょう

しかし、これまで書いてきたように、現代人の生活様式では、パソコンやスマホの操作などで上肢に疲労や緊張が蓄積して、それが顎関節の歪みにつながっていることが非常に多く見られます

顎関節のトラブルに対しては、顎関節周辺の筋肉への直接的なストレッチやエクササイズはもちろん有効です。しかし、コンディショニングの即効性や持続性を高めるには、並行して上肢の筋肉へのアプローチが必要だと思います。

ここでは筋共鳴を活用した手の指から顎関節へのアプローチをご紹介していきたいと思います。

今回紹介している筋共鳴の関係です。

【 母指対立筋 → 内側翼突筋の筋共鳴ストレッチ 】

(準備)下顎を開閉、前後、左右に動かして可動範囲やスムーズさをチェックしておく。

  1. 姿勢をまっすぐにして立つか、椅子に座る。
  2. 左の手首を最大に回外、最大に背屈。
  3. 右手で左手の親指の中手骨を持ち、手前に引いて中手骨の手のひら側の付け根を軽くストレッチする。そのまま親指を人差し指から離す方向にも力をかける(母指の外転)。肘が曲がらないように注意する。※左右の前腕を交差させる形になるので、左を上、右を下で交差させる。
  4. 大きく息を吸って腹腔内圧を高め(努力吸気モード)、それを維持しながら呼吸のゼロポジションを超えて息を吐いていく(努力呼気モード)。3~5呼吸。
  5. 終了後、手のひらの開閉や、顎の可動域をチェックしてストレッチ前の状態と比較する。
  6. 左右を入れ替えて、1~5を行う。

 

【 小指対立筋 → 外側翼突筋の筋共鳴ストレッチ 】

(準備)下顎を開閉、前後、左右に動かして可動範囲やスムーズさをチェックしておく。

  1. 姿勢をまっすぐにして立つか椅子に座る。
  2. 左の手首を最大に回内、最大に背屈。
  3. 右手で左手の小指の中手骨を持ち、手前に引いて中手骨の手のひら側の付け根を軽くストレッチする。中手骨の付け根を軽く押し出すようにすると伸びやすい。
  4. 大きく息を吸って腹腔内圧を高め(努力吸気モード)、それを維持しながら呼吸のゼロポジションを超えて息を吐いていく(努力呼気モード)。3~5呼吸。
  5. 終了後、手のひらの開閉や、顎の可動域をチェックしてストレッチ前の状態と比較する。
  6. 左右を入れ替えて、1~5を行う。

手の平の筋肉はどれも小さく、日頃あまり意識しないので、うまくストレッチできるようになるにはある程度の試行錯誤が必要かも知れません。

そのようなときは、親指や小指の付け根、骨のキワなどを優しく揉んでみるのも良いでしょう。指圧のように強く押すのではなく、ちょっと物足りないくらいの強さで、息をゆっくり吐きながら、やわらかく揉むのがコツです。

 

手の筋肉のコンディショニングと「手の型」

ところで、顎関節の開閉動作において内側翼突筋と外側翼突筋はそれぞれ正反対の動きを担う拮抗筋同士の関係にあります。拮抗筋は通常、片方が収縮するともう片方は弛緩するように働きます。

一方で、これらの筋共鳴の相手である母指対立筋と小指対立筋は、拮抗筋ではありません。物を握る動作においてはむしろ協力し合う関係になっています

つまり、物を握ったりつまんだりしているときには、内側翼突筋と外側翼突筋はどちらも一緒に収縮して顎関節を固定するように働くということです。

これは硬いものを噛み砕いて磨り潰したり、噛みついて引きちぎったりするような、顎関節に強い力が働く場面では有効です。その反面、顎関節の固定と連鎖して、頸椎や眼球の運動も固くなります(このことは、連載の第8回で詳しく取り上げています)。

したがって、関節の安定と柔軟性を保ちながら自由に動くためには、顎関節を固めないような、手の握り方、または開き方をする必要があります

そして、それこそがヨガのムドラ(手印)や武術、バレエなどにおいて、さまざまな手の型がつくられてきた理由ではないでしょうか。求められる動きや姿勢、そこから生じる生理学的な効果に応じて手の形が決まってきたのでしょう。そこには身体の共鳴に基づく一定の合理性があるのです。

逆に言えば、指や手の形を変えることで、心身にどのような変化が生まれるのかを観察すること無しには、本当の意味でその型を理解することはできません。それどころか、間違った形のまま練習を重ねることで、さまざまな弊害が生じてきます。

 

バレエにおける手の形の間違いと外反母趾への影響

手の形の正誤は、武術の世界においては、強さという形で比較的すぐに結果が見えるので意識されやすく、あまり問題にならないかも知れません。しかし、バレエにおいては「手の形がきちんとできていない=足の形ができていない」ということになり、トゥシューズを履いて踊る上で非常に大きなリスクを抱えることになります。子どもの頃からの外反母趾はその典型例でしょう。

バレエダンサーによく見られる外反母趾は、遺伝的な要素もありますが、手の形が間違っているために引き起こされる可能性はかなり大きいと思われます

なぜなら、今回取り上げている母指対立筋が過剰に緊張していると、筋共鳴によって足の親指をしっかり開くことができなくなるからです(ただし、前述のように足には母趾対立筋はありません)。指を開く力が入らない状態でポアント(つま先立ち)を繰り返せば、圧力に負けて親指が内側に曲がってくるのも当然です。

さらに、手の小指対立筋の過剰な緊張は足の小指対立筋に共鳴し、足の外側のアーチを過剰に短縮させてしまいます。それによってポアントしたときに足首を正しい位置に保てなくなり、やはり親指に間違った方向から圧力がかかってしまうことになります

Image: iStock

バレエの場合、骨の形成途上の子どもの頃から練習を始めることが多いだけに、指導者や保護者の方には、お子さんの指を定期的にチェックしていただくとともに、しっかりした手の型の指導とケアをされることをお勧めしたいと思います

手のケアは、顎関節を介して頭部の第7、第6チャクラのバランスに影響を与えるとともに、足のバランスにも深く関わっています。

(第13回 了)

※(筋共鳴)は登録商標®️です。

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–Profile–

扇谷孝太郎(Kotaro Ogiya

大学院在学中に演出家竹内敏晴氏の「からだとことばのレッスン」に出会い、身体と身体表現についての探求を始める。2001年、ロルファー™の資格を取得し公務員からボディワーカーに転身。現在は恵比寿にてロルフィング®を中心に、クラニオセイクラルやソマティック・エクスペリエンス®などの個人セッションを行う。 ヨガやバレエスタジオでの定例セミナーでは、身体のメカニズムのほか、呼吸や感覚、イメージの活用を独自の視点でまとめた「動くための解剖学」を教える。その内容はダンサーやヨギなど、柔軟性と身体バランスを必要とする人々から高い支持を得ている。また「からだと息で読む朗読」講座では、朗読という表現手法をとおして「共鳴を生む身体の育て方」を探求中。

●米国The Rolf Institute認定アドバンストロルファー
●米国The Rolf Institute認定ロルフムーブメントプラクティショナー
●クラニオセイクラルプラクティショナー
●ソマティック・エクスペリエンシング®︎認定プラクティショナー
●JMET認定EFTプラクティショナー

公式Web Site (https://www.rolfing-jp.com)