連載 扇谷孝太郎 「身体と動きの新法則 筋共鳴ストレッチ」16

| 扇谷孝太郎

身体と動きの新法則

筋共鳴ストレッチ

第16回 第5&第4チャクラのバランス ~僧帽筋と手のつながり~

扇谷孝太郎

 

Image: iStock

前回につづいて、背骨の第5、第4チャクラにかかわる筋肉についてご紹介します。

これらのチャクラのを構成する背骨の動きのバランスを改善するには、肩の柔軟性と安定性が必要です。

肩を動かす筋肉の柔軟性が偏っていると、肩が本来の位置に保たれないために、背骨のS字カーブに歪みが生じるからです。

肩を動かす筋肉のうち、前回ご紹介した鎖骨下筋と胸鎖乳突筋につづき、今回は僧帽筋の筋共鳴ストレッチをご紹介します。

背中を覆う「僧帽筋」

僧帽筋は頭から背中の中央付近までを覆う大きな筋肉です。

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上部、中部、下部の3つの部分に分けられ、それぞれに働きが違います。実質的には3つの筋肉が一体化していると考えても良いでしょう。

鎖骨に直接付着しているのは上部の筋繊維のうち前方の繊維です。頭を左右どちらかに回旋して軽く上を見上げた状態で、反対側の肩を上げ(肩甲骨の挙上)、前方に突き出した(肩甲骨の外転)ときに強く収縮させることができます。

僧帽筋の上部は、起始は後頭骨の上項線、停止は鎖骨の外方約1/3に付着しています。

前回ご紹介した胸鎖乳突筋は、鎖骨の内方に付着しているため、鎖骨とともに胸骨を持ち上げる働きが主になりますが、僧帽筋は外方に付着しているため、鎖骨の挙上動作の主役になります。

中部の起始は第1〜6胸椎の棘突起、停止は左右それぞれの肩甲棘から肩峰に付着しています。

下部の起始は第7〜12胸椎の棘突起、停止は左右それぞれの肩甲棘です。

それぞれの位置と働きは以下のとおりです。

僧帽筋 起始〜停止 働き
上部 起始は後頭骨の上項線、停止は鎖骨の外方約1/3 ・鎖骨と肩甲骨の挙上、内転、肩甲骨の上方回旋
・首の伸展、側屈
中部 起始は第1〜6胸椎の棘突起、停止は左右それぞれの肩甲棘と肩峰 ・肩甲骨の内転
・胸椎の伸展
下部 起始は第7〜12胸椎の棘突起、停止は左右それぞれの肩甲棘 ・肩甲骨の上方回旋、下制
・胸椎の伸展

 

僧帽筋の働き

僧帽筋は運動中、ボールを投げる動作や、バンザイのように腕を高く上げる動作で活躍します。とくに、肩よりも腕を高く上げるには僧帽筋の力が必要になります。

ヨガで言えば、「英雄のポーズ」や「椅子のポーズ」、「下向きの犬のポーズ(ダウンドッグ)」などのときの高く腕を上げる動作で使われます。バレエでは「アン・オー」のポジションのときに使われます。

下向きの犬のポーズ(ダウンドッグ) Image: iStock

四つ這いの姿勢で肩が固定された状態では、頭を高く持ち上げる筋肉として活躍します。

姿勢に対する影響としては、僧帽筋の働きが弱わまると、鎖骨と肩甲骨を本来の位置に保つことができなくなり、肩が下がり、前方に突出して円背や猫背の原因になります。「肩こり」は主に僧帽筋と、その下にある「肩甲挙筋」の慢性的な緊張から生じます

また、鎖骨を引き上げておくことができなくなると、上部の肋骨との隙間が失われます。その隙間を通って腕につながっている神経や血管が圧迫されると、腕にしびれなどの症状が出て、胸郭上口症候群の原因になります。

 

僧帽筋を補助するスタビライザー

前述のとおり僧帽筋は大きな範囲を覆っていて、いくつもの関節を同時に動かことになり、分類としてはモビライザーの筋肉といえます。そのため僧帽筋を効果的Iに働かせるためには、僧帽筋の下にあるスタビライザーの筋肉の協力が不可欠です。

筋肉 肩甲骨の動き 動きを補助するスタビライザー
僧帽筋(上部) 挙上 肩甲挙筋
肩甲舌骨筋
僧帽筋(中部) 内転 小菱形筋
大菱形筋
僧帽筋(下部) 下制 小胸筋

僧帽筋の柔軟性を改善するには、これらの筋肉の緊張を解くとともに、十分な活動をうながすことが必要になります。

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僧帽筋の筋共鳴

僧帽筋と、僧帽筋を補助するスタビライザーの筋肉の筋共鳴は下記のようになっています。

筋肉 肩甲骨に対する筋の働き 筋共鳴 筋の働き 備考
僧帽筋(全体) 長母指伸筋 親指の伸展 骨盤底(肛門挙筋)にも共鳴
肩甲挙筋 挙上、下方回旋 長母指外転筋 親指の外転
肩甲舌骨筋 挙上、内転(舌骨の引き下げ) 短母指伸筋 親指(MP関節)の伸展
小菱形筋 内転、下方回旋 示指伸筋 人差し指の伸展
大菱形筋 内転、下方回旋 小指伸筋 小指の伸展
小胸筋 下制、下方回旋 短母指屈筋 親指(MP関節)の屈曲

 

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1)手の指から僧帽筋への筋共鳴

僧帽筋は手の親指を伸ばす筋肉の「長母指伸筋」と筋共鳴の関係にあります。したがって、長母指伸筋のストレッチによって僧帽筋全体をリラックスさせることができます、反対に長母指伸筋が緊張すると、僧帽筋も緊張してしまいます。

また、僧帽筋の上部を補助するスタビライザーの肩甲舌骨筋と肩甲挙筋は、それぞれ短母指伸筋、長母指外転筋と筋共鳴の関係にあります

長母指伸筋、短母指伸筋、長母指外転筋の3つの筋肉が同時に働くと、手の親指をまっすぐに立てる形になります。

つまり天井方向に腕をまっすぐに挙げたいときには、親指を立てる力を働かせることで、肩甲骨の挙上の動きを効果的に引き出すことができます。

逆に、肩甲骨を下げる動き(下制)では、親指を伸ばしたまま、付け根(MP関節)から屈曲させることで、僧帽筋とともにスタビライザーである小胸筋が働き、肩甲骨を安定させた状態で引き下げることができます。

肩甲骨の内転を補助する小菱形筋、大菱形筋は、それぞれ手の人差し指を伸展させる示指伸筋、小指を伸展させる小指伸筋と筋共鳴の関係にあります。

背中で合掌するなど、肩甲骨を内転させて腕を後ろに回す動きでは、人差し指と小指をしっかり伸展させて、お互いを近づけるようにすると大・小菱形筋が働きます。僧帽筋だけで内転するときよりも、胸郭の背面のカーブに肩甲骨を沿わせて、スムーズに安定した内転をさせることができます。

2)僧帽筋から骨盤底(肛門挙筋群)への筋共鳴

僧帽筋は骨盤底の筋肉、とくに肛門挙筋群とも筋共鳴の関係にあります。

この共鳴はヨガやバレエでよく言われる「骨盤底の引き上げ」に深く関わっています

骨盤底の引き上げとは、インナーユニットの一部である骨盤底に適度な収縮を促して腹腔内圧を高め、骨盤や腰椎を安定化させることです。

そのために骨盤底を鍛えることがありますが、筋共鳴の視点で考えると、骨盤底の引き上げにはそれだけでは不十分で、僧帽筋の活動と連動させて動かすことが必要なことがわかります。

「肛門挙筋」Image: iStock

バレエやヨガのクラスでは、しばしばインストラクターから「肩を下げて」と指示されることがあります。

しかし、このときにただ重力に任せて肩を下げたり、肩を引き下ろす作用を持つ広背筋や大胸筋を使って「引っ張りおろして」しまうと、僧帽筋が働かず、骨盤底の引き上げが不足してしまいます。その結果、骨盤を水平に保てなくなったり、股関節の可動域が制限されれてしまっているケースによく出会います。

そうならないように肩を下げるには、頭をしっかり立てて僧帽筋の上部に適度な張りを保つことや、僧帽筋の下部の力をつかって肩甲骨を引き下げることで、僧帽筋と骨盤底の筋共鳴を活用することが大切になります。

とくに、出っ尻(骨盤前傾)やタックイン(骨盤後傾)を修正したいときには、肩のバランスに注意しなければなりません。

また、立位や座位での骨盤底の活動低下は子宮脱や尿もれなどの健康問題を引き起こします。これらの症状も筋共鳴の視点で見れば、僧帽筋の活動低下を反映していると言えます。したがって子宮脱や尿もれの改善には、僧帽筋の活動を高められるよう姿勢全体を改善することが重要になります。

 

僧帽筋のコンディショニング

筋共鳴をつかった僧帽筋のストレッチと活性化のためのエクササイズをご紹介します。

【 長母指伸筋 → 僧帽筋の筋共鳴ストレッチ 】

(準備)
・肩甲骨を挙上/下制、内転/外転させて柔軟性をチェックしておく。
・最大に腕を上げる(肩甲骨の上方回旋)、下げる(肩甲骨の下方回旋)をして柔軟性をチェックしておく。
・首を回旋、屈曲、側屈させて柔軟性をチェックしておく。

1)右手の薬指を軸に手首を回内(内回し&尺屈)してから、最大まで屈曲します(掌屈)。

2)左手で右手の親指をにぎってIP関節とMP関節を最大まで曲げます。

3)前腕の背面の中部、やや外側(尺骨側)が伸ばされるのを感じます。

4)お腹と胸をしっかりふくらませるように、息を大きく吸います(努力吸気モード)、腹腔内圧を維持しながら呼吸のゼロポジションを超えて深くゆっくり息を吐きっていきます(努力呼気モード)。

5)ストレッチされる感覚を味わいながら3〜5呼吸、繰り返します。

6)終了後、首と肩甲骨の動きを試して、ストレッチ前と比較します。

7)左右を入れ替えて、繰り返します。

 

【 長母指伸筋 → 僧帽筋の活性化エクササイズ 】

挙上、下制の動きの中で、スタビライザーと協調して僧帽筋を働かせるためのエクササイズです。

1)直立して立ちます。首をしっかり伸ばして頭を高く保ちます。

2)両腕を横から水平に挙げ、そのまま肩をうしろに引いて、背中で肩甲骨同士を引き寄せます。

3)両腕をしっかり外旋させてから、肘を直角に曲げます。

4)中指を軸に手のひらを正面に向けます。

(肩全体の挙上)
5)親指をしっかり伸ばして(MP、IP関節伸展)、中指と直角になるように外転させます(橈骨外転)。
→ 長母指伸筋、短母指伸筋、長母指外転筋の活性化

6)鎖骨、肩甲骨、肘の3つを一緒に動かすつもりでゆっくり肩を上げ、ゆっくり下ろします。5回繰り返します。※鎖骨をしっかり動かすように注意します。

(肩全体の下制)
7)親指をしっかり曲げます(MP、IP関節屈曲)。

8)鎖骨、肩甲骨、肘の3つを一緒に動かすつもりでゆっくり肩を下げ、ゆっくりもとに戻します。5回繰り返します。※鎖骨をしっかり動かすように注意します。
→ 短母指屈筋、(母指内転筋)、(長母指屈筋)の活性化

9)肩や首の動きの違いを、エクササイズ前と比較してみます。

 

僧帽筋のストレッチやエクササイズを行うと、首や肩の柔軟性が改善されます。それと同時に、骨盤底の状態も改善されるため、股関節も動かしやすくなります。また肩甲骨と胸郭の間の肩甲胸郭関節の動きは、骨盤の仙腸関節(中心の仙骨と左右の寛骨の間の関節)の動きと共鳴しているため、腰や骨盤の動きがスムーズになります。

次回は、この肩甲胸郭関節の動きを中心にご紹介します。

(第16回 了)

※(筋共鳴)は登録商標®️です。

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–Profile–

扇谷孝太郎(Kotaro Ogiya

大学院在学中に演出家竹内敏晴氏の「からだとことばのレッスン」に出会い、身体と身体表現についての探求を始める。2001年、ロルファー™の資格を取得し公務員からボディワーカーに転身。現在は恵比寿にてロルフィング®を中心に、クラニオセイクラルやソマティック・エクスペリエンス®などの個人セッションを行う。 ヨガやバレエスタジオでの定例セミナーでは、身体のメカニズムのほか、呼吸や感覚、イメージの活用を独自の視点でまとめた「動くための解剖学」を教える。その内容はダンサーやヨギなど、柔軟性と身体バランスを必要とする人々から高い支持を得ている。また「からだと息で読む朗読」講座では、朗読という表現手法をとおして「共鳴を生む身体の育て方」を探求中。

●米国The Rolf Institute認定アドバンストロルファー
●米国The Rolf Institute認定ロルフムーブメントプラクティショナー
●クラニオセイクラルプラクティショナー
●ソマティック・エクスペリエンシング®︎認定プラクティショナー
●JMET認定EFTプラクティショナー

公式Web Site (https://www.rolfing-jp.com)