連載 扇谷孝太郎 「身体と動きの新法則 筋共鳴ストレッチ」17

| 扇谷孝太郎

身体と動きの新法則

筋共鳴ストレッチ

第17回 第5~第4チャクラのバランス 〜肩甲骨まわりの筋肉と手の共鳴~

扇谷孝太郎

 

Image: iStock

今回は、肩甲骨の周辺の柔軟性と安定性を高めていきましょう。

これまでご紹介してきたとおり、「肩」の動きは主に鎖骨、肩甲骨、上腕骨の動きによって生み出されます。

肩甲骨は胸郭の表面を滑るように動きます。肩甲骨と胸郭の間を肩甲胸郭関節と呼びます。ここは厳密には「関節」ではありませんが、関節に見立てて「肩甲胸郭関節」と呼ばれます。

その動きは肩だけにとどまらず、骨盤の仙腸関節の動きにも連動しているために、体幹の安定や姿勢に対する影響が非常に大きい関節です。

また、その連動は仙腸関節の歪みを分析する際にも役立ちます。

仙腸関節で生じる仙骨と寛骨の間の動きは数ミリと言われていて、その状態を正確に見極めるにはある程度の熟練が必要になりますが、肩甲胸郭関節の動きは大きいので、肩甲骨と胸郭の位置関係を観察することで、仙腸関節で生じている歪みを推定することができます。

当然、肩甲胸郭関節の動きを改善することで、仙腸関節の動きを改善することもできます。

 

肩甲骨を動かす筋肉

肩甲骨の動きに関わる主な筋肉は、以下のとおりです。これらの筋肉の筋共鳴の相手をみると、手や指を動かす小さな筋肉が肩甲骨まわりの筋肉と共鳴し、手と肩が緊密に連携して動いていることがわかります。

肩甲胸郭関節から仙腸関節への連動を踏まえれば、手のつかい方は肩を介して骨盤に連動し、骨盤から背骨や股関節へと波及して、結果的に全身の動きに影響を与えていると言えるでしょう。

また、大胸筋や広背筋といった肩を動かす大きなモビライザーの筋肉は、趾(あしゆび)との共鳴によって動いている点にも注意が必要です。これらの筋肉が発揮するパワーや速度をしっかり引き出すためには、足の踏み込みなど、足先の使い方が重要になってくることを意味しています。

筋肉 肩甲骨に対する筋の働き 筋共鳴の相手 筋共鳴の相手の筋の動き 備考
僧帽筋 挙上、内転、下制、上方回旋、下方回旋 長母指伸筋 親指の伸展 骨盤底(腸骨尾骨筋)にも共鳴
肩甲挙筋 挙上、下方回旋 長母指外転筋 親指の橈側外転
肩甲舌骨筋 挙上、内転(舌骨の引き下げ) 短母指伸筋 親指(MP関節)の伸展
小菱形筋 内転、下方回旋 示指伸筋 人差し指の伸展
大菱形筋 内転、下方回旋 小指伸筋 小指の伸展
小胸筋 下制、下方回旋 短母指屈筋 親指(MP関節)の屈曲
前鋸筋 外転、上方回旋 (上部)
母指対立筋
母指の対立運動 顎関節の開閉にも共鳴
(中部)
虫様筋
示指から小指までのMP関節の屈曲とDIP関節の伸展
(下部)
小指対立筋
小指の対立運動 顎関節の開閉にも共鳴
(大胸筋) 肩の水平内転、内転、内旋 短趾屈筋 肩甲骨には直接付着していない
(広背筋) 肩の伸展、内旋、内転 長母趾伸筋 肩甲骨には直接付着していない

 

肩甲骨の動作チェック

それでは、まず肩甲骨の外転/内転の動きをつかって、肩甲胸郭関節の柔軟性をチェックしましょう。

(外転のチェック)

外転は、肩甲骨を背骨から離していく動きです。ボールを投げる動作のように、腕を前方に最大に伸ばそうとすると肩甲骨の外転が必要になります。肩甲骨は胸郭の丸みに沿って、前方にスライドします。主に前鋸筋によって行われます。

1)直立して、左右の肩甲骨を背骨から離していくのを意識しながら、左右の手のひらと肘を胸の前で合わせます。

2)そのまま、肘が離れないように腕を挙げています。このとき首をすくめたり、腰を反らさないように注意します。

3)下顎の高さまで肘が挙がるかどうかをチェックします。

左右の肘をくっつけられなかったり、くっつけたときに背中が丸まってしまったりする場合は、背中の筋肉が固くなっています。とくに肩甲骨外転の逆の動き(内転)をするための筋肉、つまり小菱形筋・大菱形筋や僧帽筋が固くなっています。また、鎖骨と肩甲骨をつなぐ肩鎖関節の柔軟性も不足しています。

肘を挙げていく動作が難しい場合は、腰から上腕につながる広背筋の緊張が考えられます。そういう人は首が前に出た姿勢になりやすく、肩こりも強い傾向にあります。

 

(内転のチェック)

1)直立して、腕を肘から直角に曲げて、そのまま肩の高さまで挙げます。

2)左右の肩甲骨を寄せるように意識して、肘を後ろに引きます。肘の挙げている高さが変わらないように注意します。

3)頭の位置を変えず直立を保って、肩甲骨をしっかり寄せられるかどうかをチェックします。

肩甲骨の内転が苦手な場合、肘を後ろに引くときに胸を突き出したり、腰や背中を反らすことで代償してしまいます。その場合は、前鋸筋や大胸筋などの肩甲骨外転のための筋肉が固くなっています。

肩甲骨を寄せる際に肩より肘が下がってしまったり、手首〜肘のラインを床と平行に保てなかったりする場合は、肩甲下筋などのローテーターカフ、広背筋などの緊張が考えられます。その場合、背中を丸めた姿勢になりがちです。

いわゆる「胸をひらく」という動作は、左右の肩甲骨を背骨に引き寄せる内転の動きが主要な要素ですが、身体の硬い人は十分に肩甲骨の内転ができないために胸椎を反らすこと(背骨の伸展)で代償してしまいがちです。

肩甲胸郭関節の動きを十分に引き出すには、肩甲骨の動きと背骨の屈曲・伸展を切り離して行えるようになることが必要です。

 

肩甲胸郭関節のための筋共鳴ストレッチ

肩甲胸郭関節の状態をチェックしたら、つぎに柔軟性と安定性を高めるための筋共鳴ストレッチを行っていきましょう。

まず、外転/内転の動きのための筋共鳴のエクササイズをご紹介します。

それに加えて、前回とりあげた僧帽筋による肩甲骨の挙上/下制の動きをなめらかに行うためのエクササイズもご紹介します。

<外転/内転>

先ほどチェックした肩甲骨の外転/内転の動きを向上させるめには、手の指からの筋共鳴を使って小菱形筋・大菱形筋(内転)、前鋸筋(外転)を活性化します。これらのスタビライザーの活性化により、外転/内転のモビライザーである僧帽筋や大胸筋、広背筋などの柔軟性を回復できます。

(外転の動作の活性化)

  • 母指対立筋→前鋸筋(上部)の筋共鳴
  • 小趾対立筋→前鋸筋(下部)の筋共鳴

(準備)テーブルに手のひらを上にして前腕をのせます。前腕の中心から中指までがまっすぐになるようにします。

1)親指の末節骨と小指の末節骨を反対の手で押さえて抵抗を加えながら、親指と小指を近づけるように対立運動を行います。

2)手のひらや指の付け根の親指と小指を近づける感覚を観察します。

3)感覚をつかんだら、押さえていた手を外して、そのまま何回か動かしてみます。

4)前述の「肩甲骨の内転のチェック」をしてみましょう。

 

(内転の動作の活性化)

  • 示指伸筋→小菱形筋の筋共鳴
  • 小指伸筋→大菱形筋の筋共鳴

(準備)テーブルに手のひらを下にして前腕をのせます。前腕の中心線から中指までがまっすぐになるようにします。

1)ほかの指はテーブルにつけたまま、人差し指と小指を最大限に持ち上げ、ゆっくり双方の指先を近づけ、前腕背面の筋肉の収縮感を観察します。近づけたり離したりを繰り返します。

※ 反対の手で抵抗を加えながら行っても良いでしょう。抵抗を加えなくても収縮感を感じやすいのでビデオでは行っていません。

2)そのまま、何回か動作を繰り返します。

3)前述の「肩甲骨の外転のチェック」をしてみましょう。

 

<肩甲骨の挙上/下制>

僧帽筋による肩甲骨の挙上/下制の動き(肩の上げ下げ)については、以下の筋共鳴によるエクササイズが有効です。手の指から肩のスタビライザーを活性化させてます。

(準備)テーブルに手のひらを下にして前腕をのせます。前腕の中心線から中指までがまっすぐになるようにします。

・長母指伸筋→僧帽筋の筋共鳴

1)親指の先端(末節骨)を反対の手で軽く押さえて抵抗を加えながら、親指をテーブルから浮かすようにして「伸展」させます。

2)前腕の背面の尺骨寄りの部分で長母指伸筋が収縮するのを観察します。

3)動かす感覚が見つかったら、押さえていた手を外して、そのまま何回か動かしてみます。

 

短母指伸筋→肩甲舌骨筋の筋共鳴

1)親指の付け根の骨(基節骨)を反対の手で軽く押さえて抵抗を加えながら、親指を付け根から浮かすようにして「伸展」させます。

2)前腕の背面の中央付近で短母指伸筋が収縮するのを観察します。

3)動かす感覚が見つかったら、押さえていた手を外して、そのまま何回か動かしてみます。

 

・長母指外転筋→肩甲挙筋の筋共鳴

1)前腕を90度外旋させて、中間位にします(床に対して垂直、チョップするときの形)。

2)親指の「中手骨」を反対の手で軽く押さえて抵抗を加えながら、親指を付け根から「撓側外転」させます(この場合は、天井方向に立てていく動き)。

3)前腕の背面の尺骨側、肘関節寄りの部分で、長母指外転筋が収縮するのを観察します。

4)動かす感覚が見つかったら、押さえていた手を外して、そのまま何回か動かしてみます。また、親指を立てたまま前腕を90度外旋させて、手のひらが上を向く形にすることで、さらに長母指外転筋の収縮を高めることもできます。

それぞれの筋の活性化を行ってから、前回ご紹介した、肩甲骨の挙上/下制のエクササイズを試してみると、スムーズで安定した動きを感じられるでしょう。

肩甲骨をしっかり挙上できると、骨盤底も活性化されるため股関節の柔軟性も向上します。立位前屈などの股関節の動きを試してみるのも良いでしょう。

 

肩の水平性と手のうごき

前回と今回で、肩甲骨の動きと手の関係をとりあげてきました。

利き手側の筋肉と、逆側の手の筋肉では動かし方に大きな違いがあります。この動きの偏りは、筋共鳴によって肩甲骨の動きの左右差となって表れます。

姿勢をチェックしてみて、正面から見て肩の水平性が失われて左右の高さが異なる場合には、肩甲骨周辺の筋肉のアンバランスとともに、手の筋肉のアンバランスも生じているということです。

肩周りの筋トレやストレッチの際には、手や指のつかい方までしっかり意識するかどうかで、可動域や安定性に大きな差が生まれます。ぜひご自分の手の動きに興味を持って、試してみてください。

(第17回 了)

※(筋共鳴)は登録商標®️です。

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–Profile–

坂本博美(Hiromi Sakamoto

パーソナルトレーニングルームh.lab主催。
ダンサーとして活動する中、自分自身の怪我の悩みから脳や視覚から受け取るイメージと、実際に身体に起こっていることとのギャップに気がつき、ボディワークや生理学などについて学び始める。

現在は関東関西の各小学校「姿勢教室」開催、企業や小学生から高齢者まで幅広い年齢層へエクササイズを提供している。

胎生学(キャロル.A)、センサリーアウェアネス(ジュディスウエーバー)、フォーカシングベーシック(日本精神技術研究所)、オステオパスバイオダイナミクス(トムシェーバーD.O.)、DVRT(ダイナミックバリアブルレジスタンストレーニング)、オリジナルストレングス、TRXサスペンショントレーニング、グレイインスティテュート3Dmaps受講。
機能解剖学を扇谷孝太郎(ROLFING®️™️)に師事。

■資格
GYROKINESIS®Level1、GYROKINESIS®Level2、Beginner GYROKINESIS®HappyMoves認定トレーナー

そのほかのメディア活動
日本テレビ「News Zero」、テレビ朝日「たけしの家庭の医学」、ベネッセ、小学館冊子記事掲載、東京新聞掲載、SONPOひまわり生命保険株式会社(トレーニングエクササイズ提供)、テルモ株式会社(トレーニングエクササイズ提供)

扇谷孝太郎(Kotaro Ogiya

大学院在学中に演出家竹内敏晴氏の「からだとことばのレッスン」に出会い、身体と身体表現についての探求を始める。2001年、ロルファー™の資格を取得し公務員からボディワーカーに転身。現在は恵比寿にてロルフィング®を中心に、クラニオセイクラルやソマティック・エクスペリエンス®などの個人セッションを行う。 ヨガやバレエスタジオでの定例セミナーでは、身体のメカニズムのほか、呼吸や感覚、イメージの活用を独自の視点でまとめた「動くための解剖学」を教える。その内容はダンサーやヨギなど、柔軟性と身体バランスを必要とする人々から高い支持を得ている。また「からだと息で読む朗読」講座では、朗読という表現手法をとおして「共鳴を生む身体の育て方」を探求中。

●米国The Rolf Institute認定アドバンストロルファー
●米国The Rolf Institute認定ロルフムーブメントプラクティショナー
●クラニオセイクラルプラクティショナー
●ソマティック・エクスペリエンシング®︎認定プラクティショナー
●JMET認定EFTプラクティショナー

公式Web Site (https://www.rolfing-jp.com)