小笠原和葉×藤田一照「宇宙と感情と身体」 第一回 考えること、感じること

| 小笠原和葉 藤田一照

 

藤田 サポートとリラックスの関係でいえば、脳性麻痺の子たちにイスを作っている方の本を読んだことがあります。

脳性麻痺の子の身体は、常に過緊張の状態。かつてはそれを、ギュウギュウ揉んだりひっぱたりして物理的にリラックスさせようとした時代もありましたが、本来は神経系の問題なので、そのやり方では合わないわけです。

その方が作る、材質も形も考え抜かれたイスに坐ると、子どもの身体がフワッと緩む。そうすると身体の形が変わるから、今度はまたその形に合わせて新しいイスを作って……ということを続けるうち、気づくと身体がリラックスした状態に変わっていくようです。

「アフォーダンス(※1)」の理論に基づいているわけですよね。僕らは常に、環境からアフォードされる情報を受け取って応答しているのだと思います。あのエクササイズで後ろの空気の壁からもアフォードしてもらえるようになる。
(※1)「与える、提供する」を意味するafford(英)から、心理学者のジェームズ・J・ギブソンがつくった造語。環境が生き物に意味を提供し、行動が引き出されること

小笠原 なるほど。一照さんが試してくださった「サポートを感じて初めて、人はリラックスする」ことを、この方は実践されているのですね。すごくシンプルで、たくさんの人に役立つ概念だと思うのですが、でもあまり聞かないですよね。

今回の本では「感情の片付け方」の説明として、ソマティック・エクスペリエンス®(以下、SE)という、トラウマ療法の理論をベースにしています。SEでは、リラックスした感覚を得ることを「タイトレーション(titration=中和適定)」と呼び、リラックスの感覚を得る過程をゆっくり進めるほどよいと考えています。

一気に楽なところへ解放するのではなくて、1滴ずつリソースを加えていく。そうすることで、身体の中ではジワジワ変化が起きているのだけど、外からは見えない。でもある閾値(反応が起きるのに必要な最低限の刺激)を越えた時に、急に中和する時が来て全体の色が変わるみたいな。

“支えを感じられる環境”から“安心感を受け取って”、自分の中のリソース(※2)が満ちてくると、ちょっとずつ緊張が外れていく……という経験を、クライアントの方にしてもらうんです。
(※2)私たちを元気にしてくれたり、いい感じにさせてくれたりするもののこと。本書166ページ

 

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–Profile–

藤田一照(Issho Fujita写真右
曹洞宗国際センター2代目所長。東京大学大学院教育心理学専攻博士課程を中退し、曹洞宗僧侶となる。33歳で渡米し、以来17年半にわたってアメリカのパイオニア・ヴァレー禅堂で禅の指導を行う。現在、葉山を中心に坐禅の研究・指導にあたっている。著作に『現代坐禅講義 – 只管打坐への道』(佼成出版社)、『アップデートする仏教』(幻冬舎新書、山下良道氏との共著)、『禅の教室』(中公新書、伊藤比呂美氏との共著)、訳書に『禅マインド・ビギナーズ マインド2』(サンガ新書)など多数。

Web site: 藤田一照公式サイト

小笠原和葉(Kazuha Ogasawara写真左
ボディーワーカー、意識・感情システム研究家。学生時代から悩まされていたアトピーをヨガで克服したことをきっかけに、 ココロとカラダの研究をはじめ、エンジニアからボディーワーカーに転身。 施術と並行して意識やカラダを含んだその人の全体性を、一つのシステムとして捉え解決するメソッド 「PBM(プレゼンス・ブレイクスルー・メソッド®)」を構築。海外からも受講者が訪れる人気講座となっている。
クラニオセイクラル・ヒーリングアートチューターカリフォルニア州認定マッサージプラクティショナー東海大学大学院理学研究科宇宙物理学専攻修士課程修了。

Web site: 小笠原和葉|PBMオフィシャルサイト